ニートで探偵、略して《ニータン》

@kamasedori

1章《嘘つきサークル》

第1話 《自称名探偵》菅原颯太

第一章 嘘のサークル


僕の名前は菅原颯太(すがわら そうた)。


両親がどちらも政治家で、金銭面に関して何不自由なく生きてきた。

だが大学受験の際、両親に無理矢理塾に通わされ、ただ楽をしたいが為だけに近くの国立大学に入るも出席日数が足りないために単位がとれず中退。


そして…今。


「暇だなぁ…」


僕は、ニートだ。


第一話 《自称名探偵》菅原颯太


ボーッと天井を見つめる。

幾度となく見続けてきた天井だけあってしみの配置も色も形も全て知っている。


「あっ、そうだ」


僕は机にあった漫画を見る。


父親が好きで全巻集めた探偵漫画だ。

大晦日に働かないならと無理矢理やらされた大掃除の際に出てきたものである。


全部で60巻ほどあったが数日前に全てよみ終わった。


颯太「もう一回読み返そう」


こういう漫画は何周もするのが乙なのだ。

トリックなどがうろ覚えの時ほど事件がより面白いと感じることが出来る。


…そんなときだった。


ドタドタドタドタドタドタ


なんだこの音。


廊下を誰かが走ってくる…?


バーン!!


勢いよくリビングのドアが開く。


「ちょっと…颯太さん!?」


女子高生が1人、手に買い物袋をさげて入ってきた。


「玄関の前の!張り紙!!というか看板!!あれは一体なに!?」


凄まじい剣幕でまくしたてられる。


看板…。


「あぁ…それは」


「何が…


    菅原颯太探偵事務所なの!!!?」


この子は安藤優衣(あんどう ゆい)。


近くの高校に通う為に両親が仲がいい僕の家に居候している女の子だ。

…といっても彼女は、両親と大喧嘩してしまっているため色々な事情が重なり現在は高校を休学している。


「いや…何ボーッとしてるのさ」


優衣はちょっと…いや、かなり怒った様子でこちらを睨み付けてくる。


「いやいや、話を聞いてくれよ優衣」


「話だけだよ」


「…分かった。実はだな、大掃除を手伝わされたとき漫画が出てきたんだよ」


「それは知ってる。私も読んだ」


確か一昨日漫画を読んでいるときにいつものように優衣に働け働けと言われたので「この漫画…面白いぞ」と満面の笑みで探偵漫画を勧めたのだ。

渋々といった感じで優衣も漫画を手にとり、結局二人揃って一日中漫画を読みふけったのだった。


「それで読んでみると面白かったじゃないか」


「そうだね、凄く面白かった」


「でも主人公って学生じゃないか」


「まぁ…その方が読者がイメージしやすいんだろうね?」


「チヤホヤされて羨ましいじゃないか」


「…。」


「だったら僕も探偵やってみたくなるじゃないか」


呆れを通り越し、だらしなく口を開けてポカーンとする優衣。


「探偵って…そんなに簡単になれるものなの」


優衣は何とか頭の回転を再稼働させて現実的なことを考えだす。


「そこは問題ない!探偵ってのは資格がいらないらしいからね、自分が探偵だと名乗ったその瞬間からその人は探偵なのだよ!」


「へー」


全く興味の無さそうな、いまゆるジト目というやつをされる。

なんという心外な。


「つまりあの看板は何一つ間違ってはいないのさ!

僕の家の私有地に建ててあるしね!」


高らかに勝利宣言をする僕。

流石の優衣と言えどもこればかりは否定も反論も出来ないだろう。


「どうでもいいけど看板片付けようか。本当にお客さん来たら嫌だし」


ノーリアクション。というかもう自分はこの件に関して全くの他人ですよといった態度だ。

数日間一緒に漫画を読んでその内容で笑いあった僕達の絆は嘘だったのか。

潤んだ瞳で彼女を見つめる。


「うん」


僕の思っていることを見透かした彼女は、素っ気なく答えた。


ピンポーン。


そんなとき、チャイムが鳴った。


「あの…探偵さんに頼みがあるんですけど…」


玄関の方から声が聞こえる。

優衣はそっと僕の近くに寄ると、耳元で小さく呟いた。


「おい、早く謝ってこい」


応接間。


この家は政治家である父が建てた郊外の別荘だ。

だから、応接間なるものや客間が存在する。


それは依頼人と向き合う今の状況をより盛り上げていた。


「さて」


僕はこの見たところ中学生くらいの男の子と向かい合う。


「それにしても中学生がなんの用かな…」


「大学生です」


…。


まじか。


「…コホン。大学生が何のようだい」


とりあえず言い直す。

第一印象というのは人間思っている以上に重要なものだ。

こんなところで評価を下げられたらたまったものではない。


「いや、まずは自己紹介からしてもらおうかな」


「…分かりました」


ゆっくりと緊張した趣で頷く大学生くん。

しかしどう見ても中学生にしか見えない。童顔な上に撫で肩、身長も160cm無いくらいか。

体も細くスポーツ等はあまり得意には見えない。


「僕の名前は東雲誠(しののめ まこと)です。あそこの大学の工学部の一年生です」


「あそこの大学…」


僕は指をさされた方を見る。


知った場所だった。なぜなら前まで通っていたから。


朝起きれなくてサボりすぎて退学した場所だから。


「それで…どういう依頼なんですか」


僕と誠くんのお茶をくんでくる優衣。


彼女はあくまで居候。

結局今の家主である僕には逆らえなかった。


「立て籠りかい?それとも密室殺人!?いやぁ、難しければ難しいほどわくわくしてくるね…!」


大学のことを忘れたいのもあり早口になってしまう。


「そんな簡単に大変な事件起きてたら怖いよ…」


「えっと…実は…」


僕はどうせ盗難やら動物の捜索とかだろうとたかをくくっていた。

というかそうであって欲しいと願ってもいた。

だってそうじゃないと僕何の役にもたたないし。


しかし、そんな僕の願いは簡単に…儚く散ったのだった。


「僕、殺人事件の容疑者として疑われちゃってるんです」


「えっ」

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