勇者パーティに自己中なおっさん呼ばわりされたので、森で将棋カフェ開いてスローライフを満喫することにしました
「ささやきー祈りー詠唱ー念じろ!」
俺は灰になった。
「ん?失敗したかな?」
そう言って、俺を蘇生させた僧侶は手を顎に当てて、首をかしげた。
どうやら、失敗したらしい。
「何をしてるのだ!どけ!」
そこへ階級の高い僧侶がそいつの顔をはたいて、灰になった俺の側に駆け寄ってきた。
「お、俺の顔を・・・!よくも天才の俺の顔を叩いたな!!」
そいつは呻き声のように何かをあげていたが、俺はこの方の蘇生魔法でまた蘇ることができた。
まったく、偉い目にあった。
まさか、グレーターデーモンに襲われるとはな。
他のパーティのみんなは無事に逃げることができたが、俺だけ体力的な問題で逃げるのが遅れて、グレーターデーモンどもと一緒にいた忍者に首を刎ねられたのだ。
同じパーティの僧侶は既に蘇生分のMPを残しておらず、結局俺は教会で蘇生させられることになったのだ。
蘇生は始めてではない。
だが、この感じは嫌な物だ。
魂と肉体が別離している感覚は何となく嫌ものだ。
「もう大丈夫ですよ」
中年の僧侶は俺に優しくそう言ってくれた。
「礼を言う」
俺がそう言って、寝台から起き上がろうとしたときだった。
「お前!俺を!誰だと思ってやがる!」
突如、俺を灰にした僧侶が怒り出し、俺たちに襲い掛かってきた。
それから先、俺には記憶がない。
気が付いたら、そいつがボコボコになっていることだけだった。
「ん?やりすぎたか?まぁ、いいや」
俺は教会を後にして、仲間達の元へ戻った。
◇◆
「トーマス。無事に蘇生できたんだな」
俺の所属するパーティのリーダーであるアレックスが、何だか残念そうにそう言った。
それはさも、俺が蘇生に失敗して死んだ方がましと言う感じだった。
「よかった。だが、それよりもお前に話がある」
アレックスは険しい顔で俺に詰め寄った。
一体何を言う気だ?
「トーマス。今日でお前はパーティから抜けてもらう」
その言葉に俺は稲妻に打たれたかのように電流が流れた。
「・・・はぁ?一体何を言い出すんだ?お前?」
俺は怒りを通り越して、ただ変な笑いが出ていた。
いきなり、何を言い出すんだ?こいつら?
「今日のグレーターデーモンたちとの戦いでわかっただろ?お前はもうただの足手まといなんだ」
アレックスのその言葉には強い怒りの感情が込められていた。
まるで俺を敵対する魔族のような目で、だ。
「な、何を言ってるんだよ!だいたい・・・」
俺が何か言おうとした時だった。
「るっせぞ!てめぇ、今更言い訳するつもりか!?」
アレックスの相棒である盗賊ロビンが俺の胸倉を掴んで怒鳴りつけてきた。
ロビンは腕っ節は弱いが、盗賊らしく非常に短気である若造である。
流石の俺もかっとなり、もうすぐ記憶が飛びそうになるのを堪えてロビンにこう怒鳴り返した。
「何だと、このクソガキ!人を追い出す理由も教えないつもりか!?ええ!?調子乗ると殺すぞ!」
「何だと!くそおっさん!」
ロビンが腰のナイフに手をかけそうになった時だった。
「もうよせ!ロビン!俺から話す!」
アレックスは俺とロビンに間に割って入ると、俺の目を見つめてこう言った。
「トーマス。はっきり言おう。お前の存在は俺たち全員に迷惑なんだ。はっきり言って、一緒にいて不愉快だ」
「なっ・・・」
俺は言葉を詰まらせた。
アレックスは冷徹に続けた。
「そもそも、お前は入ってきたばかりなの対して、いくらパーティ最年長とは言え、まるで自分がパーティリーダーであるような横柄な振る舞いは目に余る。これでパーティ統率が取れない」
「ふざけるな!俺はお前たちのことを思って・・・」
俺はいよいよ記憶が飛びそうになりそうにも関わらず、アレックスは続けた。
「それにサラやエミリーに対して『女って楽でいいよな。後衛で』とか『○○○!早くしろ回復しろ!○○○』と言った発言は我慢にならん!すなわち」
アレックスは冷酷な一言を俺に冷たく放った。
「自己中心的な更年期障害のお前はもういらん」
そこで俺の記憶が途切れた。
◆◇
「はっ、こ、ここは?」
俺が目を覚ますと、深い森だった。
濃霧がこのあたり一面に広がっており、ちらちらと茶色い幹が見えるだけでここがどこだか検討もつかなかった。
荷物は全て剥ぎ取られており、所持金は愚か、着る物さえなかった。
要するに今の俺は全裸だった。
おっさんの裸なんて見てもうれしくないだろう。
「くそ!用済みだから、装備と所持金を全部奪いやがったな」
そう思うと、俺は怒り込み上がってきた。
だが、同時にここで生活するのも悪くないと思った。
「これだけの木があれば、あれができるな」
俺は早速錬金術で斧を作り、その辺の木を伐採した。
それで俺は将棋を作った。
そう、俺の夢の一つに将棋カフェを作るのがあるからだ。
「ん?あれは?」
突然、何かがこちらに走ってくる音が聞こえた。
その音はシュッシュ、という奇妙な音に、汽笛のようなポーッという音を鳴らしていた。
間違いない。
魔○車だ。
魔○車は俺の側にあった停留所に止まると、無数の死者たちを降ろしてきた。
「何か静かですね~」
「上機嫌だな」
幽霊たちが上機嫌に魔列車から降りると、近くに黒塗りの高級車がそいつらに襲い掛かった。
彼らはひき殺されると、俺の前に放り出された。
その時、俺はある一人が持っていた剣が目に入った。
そうだ。
これを装備すればいいんだ。
まず、剣を使うを選んで、セルフで自分に装備できる。
この世界での基本だ。
グサッ!
ドクドク・・・。
俺の左胸から血が流れる。
ああっ、何ていうことだ。
自分の命を自分で絶つとは!
これでは夢のスローライフが送れない!
おっさんの俺はここで死んだ。
だが、俺は止まらない。
その先に道がある限り。
異世界短編集 唖魔餅 @343591
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界短編集の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます