第38話 赤、失態
「おう、牛乳!! メール見たか!! どうだ、ちゃんと届いてたか!!!」
「はい、れち先輩、バッチリでしたぜ」
「ん? んなことより、今からな」
「体育館の倉庫裏すよね。僕、先に行ってますか? うむ、迎えに行きますよ。行かないと、あんたはヤバい」
「そうだな、念のためあたしとお前、二人で行くべき……うわああぁぁぁぁぁ!!」
レツさんの声が遠くなったかと思うと、ガスンコンコンスコーンと連打的な衝撃音が耳に響く。
「……あ、あたしの携帯が〜」
辛うじてレツさんの悲鳴を拾うと、そのまま通信が途絶えた。
落としたな。
しかも、おそらく二年生の教室からだから二階だ。まさか、あの姉ちゃん、携帯は窓際で話さなきゃ電波が届かないとか思ってないよな。アンテナを思いきり伸ばして、窓から身を乗り出して話してたんじゃないだろうな。
そうなんだろうな。
あの人、妙にロートルなとこあるゆえ。センスも絶望的ゆえ。
さて、どうするか。
先に倉庫裏に行く訳にもいくまい。絶対、迷子になってる。
けれども、迎えに行っても二年一組にはいないだろうし、携帯も繋がらないし、堕ちた携帯を見つけても本人は不在だろうし。
直接、本人を探すか。学内にいればいいんだけど、あの人のことだ。あてにはならない。……保健のお姉さんに頼んで、レツさんの頭頂部にGPSを埋め込んでもらうとするか。
僕が自分の教室のある三階から下りていくと、
「ぎ、ぎ、牛乳さん、お迎えに来ました」
「え、マジすか? どうして、また?」
「牛乳さんも倉庫裏に行くんですよね? 仲間がレツの姐さんを牛乳さんが落ち合うまで案内することになってたんだけど、姐さん、携帯を窓から落としちまって」
あ、その瞬間、覚えてるわー。お兄さんと切ない瞬間共有できたわー。
「姐さん、慌てて、携帯拾いに行っちゃったもんで……。今、仲間がレツの姐さんを追いかけてます。で、急きょ、俺が牛乳さんを探しに……」
「それはそれは、お手数をおかけしました。すんません、レツさんがご迷惑を」
「いいんすよ、そんなことくらい屁でもないですよ。あ、ちょっと待ってください。仲間から着信です。
『……おう、俺、牛乳さんと合流できたから。姐さんは? ……マジかよ。……おお。……頼んだわ』。
……たった今、コンビニに迷い込んだところを無事確保できたそうです」
野良猫か。テンパったイノシシか。パニクったお掃除ロボットか。
「とりあえず、レツ姐さんを生徒玄関まで案内しますので、お待ちいただけます?」
「大丈夫。いいすよ。先に行ってますわ」
「いや、それは、マズイっつうか、俺らも姐さんに頼まれたから」
「いいすいいっすよ。先輩の昼休みを無駄遣いさせるのも気が引けます。体育館倉庫裏ですよね?」
「俺らもそう聞いてます。……でも、マジ、いいんすか? 姐さんがくれぐれも気をつけろって言ってましたが」
「あー、どうせ大したことないでしょう。野良猫でも見つけたんじゃないすか? じゃ、僕、行ってきます。先輩もわざわざありがとうございます」
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