第30話 赤、素直

 そんで放課後になってたし、体操服ブルマーで木刀を持ったレツさんと僕と保健のお姉さんとで秘密基地に行った訳な。


 みんな、校長もAさんもBさんもすげえ歓迎しやがんの。クラッカーとか、折り紙で作った輪っかの鎖とか、「Welcome!!」ってペーパーポンポンのお花で飾られた垂れ幕まで用意しちゃってさ。保健のお姉さんなんて「ひゃっほう!」とか言ってんだぜ? あのクールビューティななりして。


「あたし、今日、誕生日だったか?」


 当のレツさんはきょとん。


 校長も、良いフライドチキンつくってますよ的な笑顔だしさ。猫抱っこしてね。僕ははじっこでオランジーナを飲んでましたよ。いいんですよ、レツさんは、正真正銘の類い稀なる素質ギフトで本物のヒーローなんだし、結構じゃないですか。僕みたいな模造品じゃないし。


 拗ねててもしょうがないか。


 校長は、レツさんにそのマッドな事実を打ち明けた訳だ。そして、マッドな施設とその仲間たちを紹介した訳だ。昨日の僕と同じように。


「エイプリルフールって、四月一日だったよな?」


 ええ、僕も同じ反応でしたよ。


 それでも、校長の狂気とその施設と人員の規模を目の当たりにして、加えてレツさんにも心当たりがあったらしい。


「そっか、あたしは戦隊ヒーローだったんだ」


 案外、すんなり受け入れたからびっくり。あんた、素直だな。


 そもそも校長によれば、レツさんは最初からその存在を特定できていたヒーローだったらしい。なぜなら、この日本で確認され、この町に存在する他の三人とは異なり、一人だけ東京にいたからだそうだ。しかも、あまりに突出したHiヒロニウムの濃度に、発見も容易だったらしい。


 故に、校長のでこの町に呼んだのだ。親の仕事ごと丸っきり好条件で。それもどうかと思うけどさ。


 けれども、レツさんは満更でもなかったようだ。


「ってことは、このあたしの馬鹿力にも、意味があったってことかい。いいねぇ、人の役に立てるって嬉しいねえ」


 この人は卑怯なくらいいい顔をする。ほっぺにハーゲンダッツのイチゴをつけながら。


 と、まあ、いろいろあって、今日は特別にAさんが僕らを家までリムジンで送ってくれた。


Hiヒロニウムの凝縮は危険だが、それ以上に暮内くれうちくんも今日は疲れたろう。万全を期そうじゃないか。……あ、家路いえじくんも乗ってくかい?」


 乗ってく乗ってく。……何だ、この扱いの差は。


 その燃えるようなHiヒロニウムからすでに、レツさんは赤と決まっていたそうだ。赤といえばリーダー。赤といえば主役。


 黄色といえば何だ? カレーしかねえ。


 そう言えば、帰り際、校長に悪級劣ワルキューレの処遇について訊いてみた。


「ああ、連中か。連中は金のなる木、権力への人質、我らが正義の担保となる。いくらでも使いようがある」


 あんたの方がよっぽど悪党だ。

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