第29話 自宅の黄色

 いろいろあり過ぎた一日だった。基本的に悪い方で。こういう日を、トホホ記念日というのである。


 じゃない。


 まあ、そうなんだけど。


 レツさんのお胸の感触はよかったしね!


 なんて、イージーに総括できちゃいいんだけどさ。


 本当にいろいろあり過ぎた。


 まずは、昼休みの一件から紐解いていこうか。


 この誤解の大本の原因は、僕の偏見にあった。レツさんの風貌というか風体から勝手に彼女を自由科と決めつけていたことにあった。まさか、レツさんが特別進学科だったなんて思わないじゃないさ。た、確かに、思い返すと彼女は、二年一組と自己紹介していた気がする。でも、そんなにお勉強できるとは思えないでしょ。迷子になってたし。←これを偏見という。反省。


 その誤解から騒動が始まった。一限目の休み時間、ちょうど僕がトイレで制服に着替えてたときだ。レツさんは、僕のクラスである一年五組を訪れていた。ここが大事なポイント。極度の方向音痴の彼女が、なぜ僅か十分で僕の教室に辿り着けたか。


 Ans. 校舎から迷い出たところ、渡り廊下に屯っていた悪級劣ワルキューレの望月に因縁づけられ返り討ち、そのついで一の五まで案内させた。


 つまり電話で会話していたとき、教室にはレツさんと望月がいたのだ。そこで、彼女は僕に昼休みの待ち合わせ場所を『学食』と言い、その僅かの間を狙って、逆恨みした望月は義朝くんに僕を『自由科校舎屋上』まで呼べと裏打ちしたのだ。


 高山さんの指した悪級劣ワルキューレとは、レツさんじゃなくて望月のことだったのだ。


 では、どうしてレツさんが屋上まで助けに来てくれたのか。これは高山さんのおかげである。僕のことを心配した彼女は、わざわざ昼休み学食付近で迷子になっていたレツさんを探し、屋上まで案内してくれたのだ。善い子だ。本当に善い子。レツさんを見かけで判断せずに、悪級劣ワルキューレの罠を見抜いていたのだ。いけない。結婚したい。明日にでも。


 波乱の後片づけは、風紀委員長の手腕によるものと言っていい。あ、風紀委員の義朝くんもか。ついでに、校長と保健のお姉さん。


 僕の転落直後、屋上に風紀委員長と風紀委員の皆様方、それと義朝くんが駆けつけた。その惨状に、風紀委員長は現場をすぐさま閉鎖、箝口令を敷き、保健のお姉さんと校長を呼んだ訳だ。初耳だったのが、風紀委員会が校長直下の団体だということ。もしかすると風紀委員長も、校長の悪巧みというか巨大な野望、保健のお姉さんの正体とかいろんなことを知っているのかもしれない。


 で、現場で保健のお姉さんがトリアージ。せめての救いが、僕優先だったとのこと。一応、屋上から落ちたからね。何ともなかったんだけどさ、僕の黄色のボディは。それからはお姉さんの独壇場、ぐしゃぐしゃのぼこぼこの悪級劣ワルキューレども片っ端から治療、もしくは修復していったそうだ。しかも、悪級劣ワルキューレの親どもに重体さ加減がわかるよう、適度に手を抜いて。


 レツさんの取り乱しようは凄かったらしい。保健のお姉さんも校長も詳しく教えてくれなかった。ただ、自由科校舎の屋上が半壊したのは事実だ。明日、高山さんに訊いてみようかな、小手紙で。いや、これをきっかけにスマホの連絡先を交換しあうってのもありですね。


 これが、僕が保健室で目覚めるまでの経緯ってヤツだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る