第26話エピローグ
「事件の犯人が分かったのですか?」
智香が言うと由香は頷いた。
「はい。この事件は特殊な事案なので、皆さんに集まって頂きました。えー、一人の犯人に対して、多くの協力者が関与した疑いがあります」
由香の前にいる少女たちは口を噤んでいる。僕は息を飲んだ。智香ちゃんに多くの友達がいて感激だ。涙が出そう……
「協力者は色々な隠滅を図りました。特に私が気になったのは携帯電話です。勿論、被害者の遺留品です」
由香はみんなの前に遺留品である携帯電話を掲げた。ビニール袋の中に入った携帯電話に一同が注目する。
「これを見て何か気づきませんか?」
由香の視線が、友里に向く。
友里の表情が引きつる。
「すみません、分かりません」
すると由香は端末画面を操作した。電源を入れて音楽ファイルを再生する。akb49の新曲「好きなんだ」が流れる。
「秋葉原を起点に流行っているakb49の新曲です。そうだよね、少年」
「間違いありません!!」
少年は言った。
僕の事だ。
「でも、この中で一人だけこれを、別のアイドルグループの新曲だと言った人間がいるんですよ」
僕は息を飲んだ。
そんな事、言ったかな?
一同がそわそわする。
当たり前だ。これは間違いなくakb49の新曲なのだから。
「でも、それが別のアイドルグループの新曲だからと言って、それが何を意味するんですか?まさか殺人の動機がそこにあるとか言いませんよね!!」
智香の友人の佐々木が詰め寄った。
すると由香はみんなに言う。
「友里さん、これは何の曲ですか?」
「akb49の好きなんだ」
「佐々木さん、これは何の曲ですか?」
「akb49の好きなんだ」
「少年、これは何の曲ですか?」
「akb49の好きなんだ…でしょうかね」
そうです!!
由香は興奮した様子で告げた。
「でも、この中に1人だけ、違う証言をした人間がいるのです。あははっ!それはあなたですよ!!智香さん」
由香は一度、言葉を切った。
「そうだった、かしらね?」
智香はそわそわしながら答えた。
「はい、事件当日の事情聴取の際、そう答えてます」
由香はポケットからボイスレコーダを取り出し、再生ボタンを押す。そこには智香の声が録音されていた。
「えー、何か反論は?」
「由香さん」
「はい?」
「それが何か?」
室内に冷たい声が響く。
「えー、今回の犯人は頭のいい人間です。頭のいい人間が、頭のいい人間と協力して犯行計画を企てた完全犯罪です!部屋おろか、どこにも犯人に繋がる痕跡は発見できませんでした。携帯電話やパソコンのデータを処分しました。しかし、被害者との接点はそれだけでしょうか?」
由香はfacebookを起動させる。
「えー、これを見てください。これは同日に同窓会の風景を写した写真です。智香さんの隣にいる人物に心当たりはありますか?」
智香の表情が変わった。
「被害者の内田と言う青年です」
バンという大きな音が響いた。
由香はまっすぐ智香を見詰めた。
「仮に内田が映っていたとしましょう。内田があたしの部屋を訪れた時間、あたしは部屋にはいなかった。そうでしょう!!」
智香は叫んだ。
「言え、あなたは部屋にいました。被害者を招き入れて殺害したのです。ロープで首を絞めて、刃物で数回、背中を刺したのです」
「いい加減にしてください!!」
友人の友里が叫んだ。
「侮辱ですよ」
部屋が静まり返る。
「仮にあたしが、犯人としましょう。犯行当日、部屋にはいませんでした。そこの坊やが証言してくれるはずです」
「僕が証言しますよ」
「あははっ!ではこれは何でしょうか?」
由香は例の遺留品を見せる。
「だからakb49の好きなんだでしょう!!」
「聞きましたか?」
由香がみんなに尋ねる。
「確かに、これはakb49の好きなんだ、です。でも、犯行当日、部屋へと流れていたのは別のメロディだったんです」
由香が再生ボタンを押した。
流れてきたのは別のアイドルグループの新曲だ。
「どうして、智香さんは、この曲を知っていたのですか?私が聴いたのは数時間前です。それも少年がいじらなければ聴く事は叶わなかった」
「だから……」
智香は机を激しく叩いた。
大きな音だ。
「いいですか?」
由香は語気を強めて言う。
「これを、聴けたのはたったあの瞬間しかありません!!犯行当日の瞬間を除いてこの新曲を聴く事は出来ません!!」
「どうして?」
「期間限定の着信メロディだからですよ」
智香は絶望した顔になる。
「……反論は?」
「ありません」
由香は壊れたようにソファーに座った。
「聞こえませんでした」
「ありません」
「聞こえませんでした」
「ありませんって言っているでしょーーーーーーーーーーが!!!!!!!」
智香は大声で怒鳴りつけた。
「それは、自白ととってよろしいでしょうか?」
「ああ、好きにしなさいよ」
智香は乱暴に髪を掻き上げて言った。
「以上です」
由香は引き下がった。
警察に手錠を掛けられる智香。
「智香ちゃん、どうして?」
僕は涙ぐんだ。
「あたしは賭けたのよ。坊やに……
坊やをアリバイ証言に利用をしようとした」
智香は卑屈に笑う。
すると由香は天を仰いだ。
「由香さん…」
「何でしょう?」
「どうしてあたしが犯人だと分かったのでしょうか?」
「最初からです」
「最初から?」
智香は目を丸くした。
「あなた、初めてあたしと会ったとき、シャンプーの匂いがしました。あなたの部屋で人が死んでたんですよ。あたしならシャワーを浴びる気はしません」
それを聞いて智香は納得した。
「最初からバレていたのですね」
智香は僕へと近づく。
「良太くん……」
「……はい?」
「あたしが出所したら結婚してくれますか?」
「もちろんです」
僕は頷いた。
「良かった」
その最後に見た智香の表情は笑顔だった。
「行きましょう。由香さん」
「はい」
僕は彼女を見送った。
涙で顔がぐちゃぐちゃだ。
ーおしまいー
探偵少女は推理しません!! 朝比奈ゆかり @mamonohe
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