第33話(最終話):この地の10年に悔いなし
それに対して、市長が海津君の言う事は最もだ。わかった県知事にも市長からきちんと話しておくと言ってくれた。海津は、この件で自分が歩んできた道を振り返ってみて、何て運が良かったんだろう再認識するのだった。自分の周りのスタッフ、役場の山田さん、市長、池田建設の池田社長、山川部長、ソフトウェア会社の宮城さん、山陰創造社の社員、信金の山辺さん、数多くの人に助けられて、ここまで来れた。
また、地方の過疎化、若者の移住促進という問題に対して、まず第一に、その地域を本当に愛する事。次に、常に頭をフル回転して考え、それに情熱というスパイスをかけて一気に実行する事。それに滅私奉公の精神、無欲、素直、実直を忘れない事。この1つでも欠けたら今までの成功はなかったと思えた。ところが2027年3月に信金の山辺さんから忠告されたことが現実に起き始めて急転直下、天国から地獄に突き落とされる様になった。
以前、職員宿舎の跡地6軒の新築1戸建て住宅を建ててもらった、因幡ホームが倒産して、以前、市長の指令で市の職員宿舎の跡地に6軒の移住者用の新築1戸建て、住宅に市の補助金が使われた事、その時に市に対して因幡ホームから水増し請求が判明した事、因幡ホームからの市長への献金が選挙資金に流れたと言う事、この3つの話が地元の新聞に出た。市長から慌てて、海津に電話がかかり、あの件は、山陰創造社が、自社のお金で建てた事にしてくれと言われた。この話を聞いて完全に海津は今まで一生懸命に、この地域のために身を粉にして全身全霊を捧げてきた事が完全に水の泡にと消えた気づいた。
山田部長を呼んで社長を辞任しますので後を宜しくと、お願いした。山田部長は、何かあったなと思ったが、海津の顔色の変化を見て断れない事を悟り承諾した。最後に山陰創造社は十分な利益剰余金残高があるので倒産の心配はないと付け加えた。
海津さんの退職金の打ち合わせをしようと山田部長が言うのを振り切って事務所を出て行った。海津は、家に電話を入れて持って帰る荷物をまとめるように指示し、家に帰って、近くの宅急便屋に荷物を持っていき、奥さんの実家に送った。
そして、羽田行きの飛行機をとって、奥さんに、現状の一部始終を話して、実家に戻ると伝た。山田部長が内緒で車で飛行場まで送ると電話をくれ送ってもらった。
山田さんが、こんな事になって本当に申し訳ないと、深々と頭を下げ、涙を流してくれた。悪いのは君じゃないよと言い、今まで、本当にありがとうと言って、がっちり握手して別れた。
そして速足で飛行機に乗り込んだ。海津は飛行機の中で、悔恨を込めて、今までの10年を振りかえり、信頼という、本当に幅の狭い綱を、文字通り綱渡りしてきて、幸運のせいで、成功してきたが、最後の一歩で、綱が切れた。しかし、海津は、何故か、運命のいたずらを、恨めしく思うと言うよりも、素晴らしい人生経験をしたと思い直した。10年間の長い間、愛し続けた、この山陰の地、偉大な大山、美しい海、素晴らしい皆生温泉、素晴らしい人達を思い返して決して無駄な10年ではなかったと思い返すのであった。
若者が移住したくなる地方づくり大作戦 ハリマオ65 @ks3018yk
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