山賊のススメ

さて、前項において山賊焼が旨いことが論理的に証明された。

次なる問題は、如何すればより旨い山賊焼を生成出来るかである。

そもそも旨さとは何なのか。

進化論的に捉えれば、生存に必要な物質を積極的に摂取する為の動機付けとなる快感情とでも言えようか。

水、たんぱく質、脂質、炭水化物等はそれぞれの旨みを包摂していると考えてよいだろう。

(但し、ここでの旨みは五味における旨味とは異なることに注意されたい。

余談であるが、味覚としての旨味は味の素が多額の研究費を投じ、発見されたということは一部界隈では有名な話である。)

では、山賊焼の旨みとはなんぞや。

根本を規定するのは、たんぱく質、脂質、塩分と考えて差し支えないだろう。

更に付け加えるとするならニンニクの風味を忘れてはならない。

通常の唐揚げと山賊焼とを峻別せしむる要因は、ももの一枚肉を使う点と多量のニンニクを使用する点に収斂するというのが、我々山賊焼同好会の見解である。

何故か。

それは当然、味や食感等々の問題もあるが、最大の要因は【山賊焼】という名称である。

山賊焼の語源については諸説ある。

発祥の店の名前が山賊であったとか、

鳥揚げる=取り上げる、取り上げるといえばー!?チャンチャン さーんぞく!

であるとか端的に言えば真偽不明である。

(余談であるが、取り上げる=山賊という連想は実に海無し県らしい発想である。海岸近くであったら海賊焼きとでもなっていたのだろうか。)

何にせよ、卑しくも山賊の名を戴きながら、

一口サイズでたべやすーい♪

ニンニクのニオイも気にならなーい♪

などという貧弱な食物ではないのである。

素手で貪り喰い、ガツンとしたニンニクで英気と活力を養う、そんな漢の食物なのだ。

一部では、スライスして山賊焼きを提供する店舗も有ると聞く。

これは敗北だ。これ以上ない屈辱だ。歴史的な惨敗である。

理由は単純明快。山賊ならそんなことしない。


ここまで居丈高に論じてきた私であるがここで懺悔をさせてほしい。

かつて、私はニンニク醤油にモモ肉を漬け込むという調理法を採っていた。

実にニンニクの香りと醤油の香ばしさが効いて、旨い。

しかし、ある時疑念が生まれてしまった。山賊は漬け込むなどという悠長な真似はしないのではないか。と。


このとき私は気づいてしまった。

真の山賊焼とは山賊が喰らうものなのだ。

山賊焼き同好会なる所詮ただの一般市民では真の山賊焼きは実現できないのではないか。

だが、この文明社会において山賊行為など法令違反も甚だしく、公序良俗に反するのである、私は妻子がある身だ。そこまでのリスクは取れない。


そこで我々同好会は決意した。

このプレハブ小屋にいる間は、我々は山賊なのである。

山賊である我々が喰らうものが山賊焼きであり山賊の数だけ真の山賊焼きが存在するのである。

揚げるもよし、焼くもよし、

漬け込むのもいいだろう、30分?1時間?それとも一晩?

ニンニクは?生を潰すか、スライスか、それともすり下ろしか?

醤油はどうだ。薄口か濃い口か?それとも、鰹だし入りか?溜まり醤油もいいだろう。めんつゆをブレンドしても悪くない。

ルール、レシピなどくそ食らえ。

何故なら我らは山賊だ。

ルールに縛られず、人目を気にせず、刹那的に、食いたいものを好きなように喰らうのだ。

読者諸兄が山賊になるのは容易である。

宣言するのだ。

いま、ここ、で私は山賊であると。

一切のしがらみ、ルール、空気、世論その他諸々から解放されこの間はただの山賊であると。

そして一心不乱に鶏を調理し、その気の赴くままに喰らうのだ。

さすれば、一刻の後にはなんとも言えない満足感に満ち充ちているに違いない。


山賊焼に栄光あれ

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焼くなり揚げるなり 妙葩 @myoha

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