焼くなり揚げるなり

妙葩

焼くか揚げるか。どーする。

私は思索に耽っている。

焼くべきか揚げるべきかそれが問題なのだ。


今目の前に横たわる獲物をどう料理するものかと思案している。

正確には,ただのタンパク質の塊に過ぎないこのモモ肉を如何すれば至高の山賊焼きに昇華せしむことが可能かについて思索を巡らせている。


私は山賊焼き好きが高じ,「山賊会」という山賊焼き同好会を立ち上げた。

この組織は名前こそ物騒であるが,実際は周囲にモモ肉の香ばしい匂いとニンニク醤油のなんとも食欲をそそる匂いを周囲に発散させるだけの極めて善良なる集団である。しかし,近隣住民の一部からは「時間帯を考えろ」「体重が増えたぞ,どうしてくれる」等々の苦情のが後を絶たない。時折,腹に据えかねた者が山賊会の本部たるプレハブ小屋に強行突入を敢行するも,出てきた時に賊の一味となっていなかった者は未だ嘗て一人もいない。非常に恐ろしい組織でもある。


さて,ここまで読み進めた賢明なる読者諸兄におかれてましても,山賊焼きが如何なる魅力的な物体であるのか御存知ない方もいらっしゃるかと推察するところである。


問おう。

山賊焼きとは何ぞや。


山賊焼きとは,東京より遥か北西にある信濃の国は北アルプスの麓,松本という辺鄙なそれこそ山賊が跳梁跋扈している土地で産声を上げたいわゆるB級グルメの末席を汚している郷土料理の一種である。

標準的なレシピはhttps://www.lettuceclub.net/recipe/dish/17860/を参照されたし。

極めて簡単に説明すると,鶏ももの一枚肉に塩,胡椒,ニンニク,醤油,酒,みりん等で下味をつけ,小麦粉もしくは片栗粉をまぶして油で揚げる料理である。

「なんでえ,唐揚げじゃねーか,つか『焼き』ですらねえwww」と思われた方が大半だろう。


全く以てそのとおりである。


そもそも,長野県の郷土料理にそんな手の込んだものを期待してはいけない。長野県民が揚げと焼きの区別が出来るなどと考えてはいけない。

とまあこき下ろしたが,これがなかなかどうして旨いのである。


レシピからして

唐揚げ⊃山賊焼 であることは自明である。

また,唐揚げ⇒旨い が真であることも自明である。

つまり,山賊焼⇒旨い は真であることが導かれる。

まとめると論理的に山賊焼は旨いのである。Q.E.D.

異論は認めない。


次なる問題はどうすればより旨い山賊焼を実現できるかである。



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