第3話 幼き教主
サファヴィー教団の急速な発展は、蛮勇によるものではない。
サファヴィー教は
しかし、
母の弟、
10歳だった私は驚いた。鏡の中に映る自分が、そのまま大人になったような艶やかな黒髪に、碧の目の美しい青年。だが、その美しい
その夜、アルワンドは天幕に奇襲をかけ、私の父を殺した。
サファヴィー教団との同盟がもはや不要となったのか、足かせとなったのか。
タフマースブの父を殺し、天幕を焼き払い
そもそも、若く健康だった母が急死したのは何故だったのか。
サファヴィー教団幹部の生き残りは子どもたちだけになった。
教主たる私の務めはアルワンドを倒し、父や信徒たちの仇を討つこと。アルワンドが我らの天幕に火を放ったようにタブリーズを炎に包み、信徒たちを殺したように、アルワンドの家族とタブリーズに住むものを皆殺しにする。
幼く残酷な復讐心に駆られた私を制したのがタフマースブだった。亜麻色の髪の少年は悲しげに言った。
――救世主は美しく優しいお方。しかし、それは私たちだけに見せるお顔ですか?
アルワンドを恐れ憎む人がいるように、誰かが救世主を恐れ憎むなら、私は悲しい。
救世主はその美しき
亜麻色の髪の少年は、「
美しき様というのが、アルワンドに生き写しのこの
壊滅した「赤き騎士団」を再建しようと奔走していたタフマースブは語った。
――この
そして私の髪を撫でる。
――この黒髪は、安らかな眠りをもたらす闇。人々が救世主の前に安らぎを見るように。
アルワンドを破り、タブリーズに入城したのは13歳の時だった。
タブリーズの城門は内側から開いた。
特に何か策を弄したわけではない。行く先々で、出会う人々にただ誠実に接した。
コーランの教えを実行しただけのことだ。
そして、タブリーズの民はアルワンドではなく私を求めた。
今とて同じではないか。<冷酷者>セリムが恐怖によって威圧するなら、我らは堂々たる美しさで敵を魅了し、勝利すればよい。今までもずっとそうして勝ってきた。
我らの戦いに、誰かの無様さなど要らぬ。
「シャー・イスマーイールが神の名において命ず。
攻撃は明朝、日の出と共に」
タフマースブの険しい表情を見ないようにしながら私は続けた。
「我は無謬の救世主。アリーの生き姿。
正しきものは我に従い、悪しきものは我が前に滅ぶ。
戦いの地はチャルディラーン。背教者セリムに死を。
誇り高きサファヴィーの戦士たちよ、我に続け」
夜明けと共に、私の人生初の負け戦が始まった。
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