5、


「それで、君はその木こりに会ってどうしようっていうんだい。もしかして――」

「あの森の木をすべて切り倒してもらうの!」

 予想通りの返答に、僕はすっかり呆れてしまった。

「もうおとぎ話を信じていい年でないことはわかってる。だけど、木こりさんがいないと私の村は……村の人たちは」

 すでに何軒かの家族が村を去ったという。

「この辺に西の森があったと聞いたの」

「それで、あったかい?」

 僕の言いぶりにザートはキッと眼光を鋭くした。意地悪なことを言う人間だと思っただろう。イヤな奴だと思っただろう。僕は嫌われついでに彼女が決して欲してはいないだろう言葉で続けた。

「たぶん村を去った人たちの方が正解だ」

 彼女の表情は険しくなる一方だった。

「あなたは村を捨てろと言うの?」

「人が移ればそこが新たな村になる。それでいいじゃないか」

 彼女はもう、僕に殴りかかりそうな剣幕だった。

「私は今の村が、みんなが大好きなの!」

 村の素晴らしさを、美しさを、彼女がそれらを捨てられない理由を羅列する。同じことを繰り返したり、時々涙で声を詰まらせたりと感情のままに吐き出される彼女の話を、僕は相づちを打つこともなく聞いていた。ただただ彼女を真っ直ぐに見つめて聞いていた。

 僕より少しだけ背の高い少女。

 おとぎ話を信じるにはちょっとお姉さんな年ごろの少女。

 小さな手。細い足。

 その身体でここまでたどり着くという大人顔負けのことをしておきながら、村について話す顔はあどけなくて、子どもそのもので、彼女の必死な願いはひしひしと伝わってきた。

 だけど僕は―― 

 一通り心の内を吐露してから、ザートは目尻に残った涙の粒を人差し指の背で拭った。

 それが話の終わりの合図だと僕は勝手にくみ取って、そして彼女の純真さをへし折った。

「つまり、君の幸せのためにあの森に死ねと言うんだね」

 その言葉に少女がどんな顔をするのか、僕はしっかり見届けた。




 彼女の変化は著しかった。

 直後は反射的な怒り。

 返す言葉がすぐには出てこなくて、その間に僕の言葉を反芻したようで、瞬く間に青ざめた。おとぎ話の登場人物を頼ってしまうような子だ。豊かな感受性で自分の残酷さを必要以上に悟ってしまったのだろう。

 しかし村を思えば引き下がれないようで、少女は何度も「でも、」を繰り返した。

「森から離れればいい。それだけのことだよ」

 僕はもう一度だけ言った。それで彼女が納得しないことは重々承知している。

 だけど、僕はそれが一番シンプルな解決方法だと信じているのだから他に言いようがない。

 しかし僕はザートの視線に堪えかねて、ひとつのある提案をした。

「君が殺そうとしているものをその目で見てみればいいんじゃないかな」

 わざと意地悪な言い方をして彼女の返事を待った。

 少女は口を真一文字に結んだまま、僕を睨みつけるだけだった。






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