3、


 さて、そんな僕らのもとにある日迷い子がやってきた。

 いつものように赤い実にかぶりついてたおしゃべりなトリが、珍しくほかの何かに気をとられていた。

 逆さまの森の逆さまの木の枝に、器用に逆さまに留まりながらしばらくの間遠くの方を眺めていた。

 その視線が捉えるものは、間もなくして僕からも見える距離にやってきた。

「お客さんだよ」

 僕からも見えているというのに、おしゃべりなトリはわざわざ伝えて、また赤い実に顔をうずめた。

 客というのは、1人の女の子だった。

 背丈は僕とそうかわらない。

 いや、少しだけ彼女の方が大きいか。

 旅用の外套の下に見える衣裳は、木綿のブラウスに袖なしの胴衣、エプロンつきのスカートというこの辺一帯どこでも見られるものだったが、二本のお下げ髪をそれぞれ結わえている髪留めに特徴があった。

 サイコロのような小さな木彫りの飾りがついている。細工の様子を見るに、近くのある村で好んで使うもののようだ。

 それを確認して、僕は思わず驚きの声を上げてしまった。

 近いとはいえ、少女がひとりで歩いてくるには少々距離がある。彼女のまわりや後方をのぞいてみても、他の人間の気配はなく、馬車や何かの乗り物がある風でもなかった。

 少女はひとりで、その足でここまで歩いて来たのだ。

 空を森に覆われた、なんとも寂しいだけのこの場所を目指してやって来たのだ。




「私は木こりさんを探しにきたの」

 ぐっと握りこぶしを作って、自身を鼓舞するようにして言った。それでも弱々しい声は弱々しいままだった。

 彼女の言葉に、僕はおしゃべりなトリとティーポットの反応をうかがった。

 トリはこういうときに限って無口になるし、ティーポットはやっぱりカタカタ蓋を鳴らすだけ。

「どうして木こりを探しているの」

 僕の声も彼女の声も、どちらかといえば高い方で、鈴の音が響き合うように、まるで僕の声に共鳴するかのように彼女は間髪入れずに声を発した。

「木こりさんを見つけられないと、村がなくなってしまうの」

「落ち着いて、落ち着いて。何があったの?」

 僕はそう言いながらすでに彼女の答えにある程度の予想が立っていた。予想というより、きっと答えに近かっただろう。思い浮かべたことがら以外にはあり得ないのだから。

 彼女は僕の言葉に応えるようにすうっと息を吸い、吐き出し、もう一度吸い込んでから、今にも泣き出しそうな眉の角度で僕の袖を強く握った。

 そして彼女は言ったのだ。

「私の住む村にも、ついにあの森が迫ってきたの」と。

 






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