第8話






「あ、りっちゃんこっちこっちー!」


 昼食時の賑やかな食堂。

 恭祐は、遠くでキョロキョロとあたりを見渡す律の姿を見つけ、そちらに向かって大声で呼びかけた。直ぐに気付いた律が小さく手を上げ近づいてくる。


 普通科から筐体闘技科まで、ATRA学園の全ての人間が自由に使える食堂は大勢の人間で溢れていた。

 恭祐も講義が終わった足で、依舞樹らと共に席を確保して一息ついたところだ。初日に皆でご飯に行こうと思い付いて以降、一緒に昼食を食べることが定番になっている。


 今日も先に揃っていた依舞樹や奈央と席を取り、律が来るのを待っていたのだ。


「席の確保ありがと。皆もう揃ってたんだ」

「推奨講義の座学でしたの。三人一緒でしたし、終わるのが早かったんです」


 奈央の回答に、へー、と興味なさそうな相槌を打ち空いている席に座る律。きっと来週も同じ説明をする羽目になるんだろうなぁと思いつつ、起きたてのように怠そうな律を見た。


 律は不思議な奴だ。

 これまでの必修の中で、その知識量と技術は紛れも無く高いレベルで習得していることがわかっている。どう考えても一年生というレベルではないのに、当たり障りなく一年生の講義に混じったり、『筐体工学基礎』のように講師側として周囲のサポートに入ったりと講義によってその立ち位置は様々だ。おおよそ学生らしくない。


 一週間の講義のコマ割りもそうだ。

 単位制の筐体闘技科では、人によって時間割りが多種多様。必修となっている講義は全員同じだが、推奨講義を受講するかどうかは個人の判断に任されている。それ以外にも専攻によって推奨される講義に違いがある。

 リンカーだとスポーツ学科が必修している体育や武道系の特化授業、デザイナーでは生物学や造形学科のデッサン、プログラマーでは特進コースの物理やら数学やら……。それを各自、己の興味のまま限界まで時間割に詰め込んでいる。


 恭祐自身、最初の一週間は忙しなく、講義が終わる度に校舎案内を見ては次の講義室へ足早に向かう繰り返し。依舞樹や奈央も同様だろう。必修以外でも今日のように推奨講義が被っていることも多く、連れ立って講義から講義へ渡り歩いていた。


 しかし、律のスケジュールは至ってシンプル。

 必修のみ、だと言う。


 他の単位はもう取っているらしいが真偽は不明。でもあの生活スタイルを見る限り、スカスカの時間割は本当なのだろう。だからこの四人が揃うのは、この昼食時か必修講義だけなのだ。


 席に着き、黒いカットソーの腕を緩く捲る律。

 制服のように毎回似たような恰好の律は、この学園生活に慣れ切った雰囲気をしている。さすがに一年以上ここで生活していればそうなるだろうが、まだ緊張感を伴っている自分たちからすると羨ましい限りだ。


 ふーっと吐息を吐いた恭祐は、先程までの講義の疲れを表現するように机に突っ伏した。


「りっちゃーん。もうビックリするぐらい眠かったんだよねー、さっきの座学。俺、リンクは感覚派だから難しく解説されてもわからんわー。何か起きとく良い方法ないー?」

「恭祐は身体動かしてないと死にそうだもんな」

「牧さん、さっきガチで白目に口半開きだったんだぜ。なのに体育の授業はすっげーウキウキでさ。こーゆー人を脳筋って言うの?」

「何を言う。依舞樹なんて元野球部のくせに運動神経へなちょこじゃん。この前の体力測定、奈央ちゃんの方が短距離も長距離もタイム良かっただろー」

「吉野さんが速すぎたんだよ!」


 騒めく食堂の中で他愛ない雑談をしながら料理を待つ。

 来たばかりでまだ注文していない律は、既に見飽きているだろうメニュー表を眺めながら、ヘビーだ、と小さく呟いた。恐らく日替わり定食のことだろう。今日はあんかけ焼きそば+フライの盛り合わせという組み合わせなのだ。しかし健康的な男子生徒である恭祐は勿論それを注文した。


「皆はもう注文したの?」

「したした。俺と依舞樹は日替わり。奈央ちゃんはうどん」


 律の問いかけに、レシートの様な小さな紙をテーブルに出して見せる。これは引換券だ。券売機でメニューを選んで支払いを済ませるとこの引換券が出てくる。そこに書かれた番号が正面のモニターに表示されれば、受け渡し口に取りに行けばいい。


「じゃあ俺は山菜蕎麦でも買ってくるわ」


 そう言って席を立つ律を見送る。様々な学科、学年の人間が雑多に混在しているので、券売機に辿り着くまでも一苦労だろう。


 暫くして恭祐達の番号がモニターに表示され、その少し後に山菜蕎麦を手にした律も席につき、ようやく落ち着いて食事を始めた。

 ちょっとヘタったフライが学食らしいな、と思いながらガツガツと口に放り込む。


「りっちゃん、それ美味い?」

「三〇〇円という安さを考えると美味い」

「ふむ。参考になった」


 律のひねくれた回答に納得し、フライの盛り合わせの皿をどけて、あんかけ焼きそばに手を伸ばす。なるほど。麺がふやけて弾力が半端ないが、この値段なら十分だ。


 全く熱そうには見えない山菜蕎麦を冷ます律の横では、依舞樹がエビフライを尻尾までバリバリ食べていた。見るからにお嬢様な雰囲気の奈央は、そんな依舞樹を目を丸くして凝視している。依舞樹はことごとく奈央の期待を裏切らないらしい。


 しっかり奥歯で噛んで飲み込んだらしい依舞樹は、箸を持ったまま、そうだ、と手を打った。


「一条君、そういえば今日、ヒナちゃんは?」

「さぁ。知らないけど」

「え、なんで?」


 冷たいともとれる律のさらりとした言葉に、依舞樹は心底不思議そうな顔をする。

 その純粋な瞳にたじろいだらしい律は、ちょっとしてから大袈裟に脱力した。先週あたりに俺も同じ会話をしたなぁと思い至り、下を向いて笑いを堪える。誰が見てもセットなのだから仕方ない。


 不本意そうな律は考える素振りをしながら口を開いた。


「えーっと、ヒナは……何だろ。講義かな。それか研究室でも行ってるんじゃない?」

「いやそれ聞くまでも無く、大部分の生徒がそうじゃん……」

「そして大部分に入らないりっちゃんは、今日も午前中はオネムですかー?」

「……何で恭祐に俺のスケジュールがバレているんだ」

「そんな寝起きダダ漏れの雰囲気で来てんだもん、バレバレでしょーが」


 慌てて髪を整えようとする律。残念ながら寝癖はついていない。きっと髪質的にも寝癖はつきにくいのではないだろうか。スタイリングしていない黒髪は柔らかそうだがしっかりとストレートで、伸びっぱなしなのか少し長めのサイドの髪を時折邪魔そうに耳にかけている。


 こまめに美容室で整えている恭祐としては、もう少し手を加えたいと思ってしまうところだ。……依舞樹は短すぎて手を加える余地も無いが。


「まぁ……お暇なんでしたら私達の講義に一緒に来られたら宜しいのに」


 この雑然とした空間でも上品に食事をしていた奈央が、軽く頬に手を当てて律を誘う。

 しかし躊躇う素振りも無く丁重にお断りした律は、またフーフーと冷ましてから、伸び始めているだろう蕎麦を啜った。


「てかヒナちゃんは結局どこの研究室に入ってるのん?」


 三人を後目に、早々と食べ終わった皿を片づけながら前から疑問に思っていたことを聞いてみた。

 それに興味を持ったのか、依舞樹や奈央も咀嚼しながら顔を上げる。


「言ってなかったっけ、第六だよ。一応ハードウェアデザイン担当」


 手元の蕎麦に視線を落としたまま答える律。その回答に依舞樹が嬉しそうに声を上げた。


「へぇえ! ヒナちゃんもデザイナーなんだ。なっかまー!」

「残念。この前俺がリンクした実習の時、アドバイスがすげぇ実戦よりだったからリンカーなのかと思ってたわー。けど、第六研究室っつーと最近めっきり最下位ポジションじゃなかったっけ……」

「確かそうですわね。副室長以外にあまり実力のあるリンカーがいないのと、それに伴って制作される筐体が少ないので、闘技会のようなチーム戦が前提の大会では順位を上げれないようですね」

「でもその副室長ってすっげぇリンカーなんだろ? 他の研究室からも引き抜きかかってるとか聞いたぜー。にもかかわらず、室長の作る筐体にしかリンクする気無いとかで異動しないんだって。俺も専属のリンカーにそんなこと言われたいぜー」


 キラキラと夢が溢れている依舞樹。くぅーっと拳を握ってニヤニヤしている姿は大層不気味だ。

 出会ってからこれまで幾度となく熱い筐体愛を語られてきたので、その興奮は如実に伝わってくる。


 そんな輝かんばかりの瞳をした依舞樹が爆弾を落とした。


「一条君はどこにするの? 来月までだぜ、所属希望申請。早く考えときなよ!」


 ずるっ。


 依舞樹の快活とした声と共に、律が行儀悪くテーブルについていた肘を滑らした。

 箸を持った手はそのままに、軽く俯いたまま額に手を当てている。


 若干、と言わずどんよりとした空気が漂ってきた。


「…………お前ら。……言っておくが、俺はもう所属してるぞ」

「えっ」

「普通に考えて何で所属してないと思うんだ。これでも先輩になる予定だったんだからな!?」


 胸を張って言うセリフではないと思う。

 しかし、参ったか、とでも言いそうに自信たっぷりに宣言されると、凄いのかもしれないと錯覚しそうになる。

 そう、錯覚だ。

 留年さえしていなければ、当たり前に先輩として研究室に所属していた筈なのだから。


 何を言っているんだ、といった表情でポカンと律を見つめる依舞樹と奈央。無理もない。


「えーっと……。一応聞いてみるけど……りっちゃんの所属は?」


 さも気分を害してますよーっという拗ねた表情の律に、念のため話を振ってみる。


「ふんっ……お前らが所属を決めるまでは内緒だ…………ってあれ? なんでそこで可哀想な人を見る目!?」

「いや……」

「本当に研究室所属してるからね? え、なんでそこ信用してくれないの? あれ、あれあれ、なんかみんな俺に対する認識が酷くない?」


 さも不信気な依舞樹に慌てて反論する律。しかしその気の抜けた感じが更に先輩らしく見えないのだから仕方ない。同級生ということもあって、律が既に研究室に所属しているなんて完璧に想定外だった。

 そう言えば留年してても、研究室からクビを宣告されなければ所属員のままだよなぁ、と改めて思う。


 おかしい、俺ってなんでこんな扱われ方になってんの? としきりに首を傾げながら奈央や依舞樹に力説している律。

 言えば言うほど怪しく見えるということを教えてあげた方がいいのだろうか――と思っている時、ふと空気の揺れる気配がした。


「――妥当だな」

「え?」

「その存在が全てを表している。部屋に籠ってウジ虫の如く、もぞもぞと筐体を触ったり触らなかったり笑ったり笑わなかったり――」

「何それすっごい気持ち悪い」


 聞こえてきた声に条件反射で突っ込んでいる律を視界の端に入れながら、声の主を探す。と、テーブルの端に、いつの間にかふわふわの髪がもにょっていた。それがゆっくりと上がり、半眼に無表情を張り付けたヒナの顔が半分出てきた。そして目までをテーブルの上に出して静止する。


「それはブーメランだな、律。自分の事を気持ち悪いと言いながら、しかし全くそんなことは思っていない顔をしているぞ」

「いや、思ってないし……」

「なんと! どれだけ自分が大好きなんだナルシストめ」

「極論過ぎない? どっちに振り切れててもすっごい危ない人じゃん。変態チックじゃん」


「それは変態さんに失礼であろう。律のように中途半端に変態を目指す軟弱な考えでは、本気で変態の道を極める先輩方から鼻で笑われるぞ。そんな中途半端な人生を歩んでいていいのか。本気で何かを頑張ることは大切だとヒナは思う」


「……それ変態について話してるんだよな? 変態の意味知ってるか?」

「本能により崇高な理想を目指して日々努力する者たちのことである」

「あれ、俺の知ってる変態と何か違う」


「さぁ律! 今こそ恥ずかしがらずに己を解放するのだ!」


「それって結構アウトじゃない? 公然猥褻物陳列罪とかひっかからない?」

「ヒナは気にしない! たとえ律が裸ネクタイで手錠をかけられようとも……」

「それは気にしてくれ」


 ポンポンと出てくる二人の言葉の応酬に苦笑を禁じ得ない。律とヒナのやり取りは、毎度のことながら全く意味が無いという方向性で面白い。


 突如机の下から現れたヒナを迎え入れ、空いている席に座らせる。

 今日も西洋人形のように一部の隙も無く美少女だ。ウィークポイントである無表情すら、人形の様に無機質な美しさが際立っていて尚好し。隣の奈央と並ぶと、本当に二対のお人形さんになるのだから目の保養だ。


「珍しいねー、ヒナちゃんが食堂に来るの。まだお昼食ってないなら何か頼んでこようか?」


 必修では律と共に顔を見せるヒナだが、それ以外では全く会うことがない。

 学園全体で学生数が多いので埋もれてしまっているという点もあるが、単純に研究室が活動主体の先輩たちとは行動範囲が異なっているのだ。


 物珍しそうにテーブルの上の学食を見つめるヒナ。

 まだ食事をしていないならば、と声を掛けてみるが、ヒナは小さく首を振った。


「残念ながら暇では無いのだ。どこかの誰かが暇にも関わらず携帯を不携帯で、このヒナ様に面倒をかけやがるのでな」

「あぁ、そういえば携帯持ってないや。部屋かな」


 軽くポケットを探って早々に諦めた律に、ヒナからの鋭い掌底が入った。


「いっ……たー……粉砕する、俺の顎が粉砕される」

「その場合、責任をもってチタン製の骨格を作ってやろう。さぁ、可及的速やかにヒナと一緒に来るがよい」

「……可及的な速やかさを求める割に、楽しそうな登場だったな」


 未だ痛むらしい顎を押さえたまま溜息と共に立ち上がる律。少し残したままの山菜蕎麦のトレーを手にこちらを見た。


「ごめん、先行くわ」

「ほいほい、いってらー」


 ヒナと共に返却口へ寄ってから食堂を出ていく律を、三人の視線が見送る。

 時折小突き合っている二人はとても仲が良さそうだ。


「……結局一条君はどちらの研究室に所属されてるのでしょうか」

「うーむ。ヒナちゃんと一緒の第六に一票」

「俺も同じく!」

「私もそう思いますわ」

「だよねー、満場一致でそうなるわなー。そっかー第六かぁ……」


 そろそろ所属を考えなければならないのは本当だ。

 まだ入学して一週間しか経っていないが、周囲も情報を集めているらしく、どこそこの先輩と仲良くなっただの勧誘されただのの話題には事欠かない。

 恭祐達も既に何人かの先輩と親しくなってはみたものの、いまいちどの研究室かを決める材料にはなっていないのだ。


 圧倒的人気は勿論第一研究室だ。

 実績が違う。

 室長の城ヶ崎に憧れている新入生も多く、伝手を探そうとしている話もよく聞く。


 だが他の研究室よりも第一研究室は所属することが難しい。やはり希望者全員を受け入れることはないので、希望者の中から成績優秀者などの振るい分けがされるのだ。それゆえ第一は優秀な所属員が多く、ただの一年生になど活躍の場はほぼないということが三人の中のネックだ。

 どうせなら直ぐに筐体闘技の第一線に行きたい。先輩の手伝いから学ぶことが多いのはわかっているが、それでも実戦から学ぶものの方が多いのではないかと思うのだ。


 特にリンクしてなんぼ、闘ってなんぼの世界のリンカーにとっては。


 そう考えると、学生闘技でトップを走る研究室より、中堅ぐらいの研究室で活躍したい。

 その候補として、恭祐の中では第三・第四・第八あたりに目星を付けていた。


「りっちゃん達が第六ならそこも候補に入れとくかなー」

「そうですわね……。でもアシスタント出来る程の一条君達の実力を考えると、第六が最下位というのは少し疑問ですけれど……」

「まぁまずは見学してみないとわかんないっしょ! 五月頃からだよな、楽しみだぜー」


 依舞樹の軽快な言葉に、あ、そうか、と手を打つ。


「もうすぐだったか。見学という名の雑用係」

「牧君、言葉が悪いですわよ。仮入部みたいなものと思いましょ」


 そう、五月の中頃からは、各研究室への見学期間というものが設けられているのだ。

 この時期は午後からの講義が無くなり、代わりに希望する研究室への自由な立ち入りが認められているという。殆どの研究室が、作業補助という名目で、見学に来た学生を雑用にあてているらしい。

 まぁ突然根幹に関わるような作業に入れる筈もないし、研究室間での機密事項もあるだろう。なので各研究室、都合のいい二、三日を見学期間と定めて一年生を受け入れ、それで判断してもらうことになっている。一年生側は元より、所属員側としても、希望者の中から有望な新人に目星を付ける期間でもあるのだ。


 全ての研究室をくまなく回ることは出来ないので、二つ三つに絞らないといけないのだが、第六を候補に入れるとなると、さて残りはどこを見学しようか……。


 テーブルに頬杖をつき、食べ終わったトレーをぼんやりと見ながら考える。

 奈央と依舞樹も考えているのだろう、箸を運ぶペースが落ちている。


 食堂の中の雑音を聞きながら思考の海に沈んでいると、近付いてきた生徒に肩を叩かれた。


「――君たち。筐体闘技科だよね? もう研究室決めた?」


 人好きのする明るい声の主は、栗色の髪をした可愛らしい感じの男子生徒だった。

 小柄な雰囲気と、オイルで汚れまくったツナギが何とも対照的なイメージだ。


 ニコニコとこちらの反応を待つことなく、律が座っていた席に腰掛ける。


「僕、第四研究室所属の青木です。新人勧誘に行って来いって室長に言われちゃってさー」


 参ったよー、と全く困ってなさそうな顔で三人と視線を合わせる青木。

 こうした勧誘はこれまでにもあったので、普段通りに恭祐が代表して返事をする。


「いえ、まだ考えているところなんですよ。なかなか決め手がなくて……」

「あ、そうなんだ、ラッキー。てっきり第六に勧誘されてるのかと思って焦っちゃったよー」

「え?」


「うちの室長、去年新人が僕一人しか獲得出来なかったからすごい剣幕なんだよねー。僕としても下っ端二年目なんてヤダしー。ホラ、さっき第六の人と座ってたじゃん? だから先越されたかなーってドキドキしちゃったよー」


「第六って……りっちゃん達のことですか?」

「りっちゃん……一条君の事だよね? 彼と仲良いの?」

「まー同じ一年生なんで仲良しですよー」

「えっ……一年生!?」


 愛想良く答えた恭祐の回答に、青木は心底驚きつつも、若干呆れたような声を上げた。


「それホント? ……また一年生やってるんだ……」

「あぁ、りっちゃん留年らしいですね……」


 驚きよりも呆れが勝ってきた青木の表情に、つられて恭祐も苦笑する。


「今年は真面目に頑張ります、って宣言してましたよ」

「真面目に……去年ほんと退学したのかと思ったぐらい見かけなかったし……。ってまぁいいか。一条君は置いとこう。考えるだけ無駄だしねー」


 可愛い顔して何気に酷い言い草だ。

 ジェスチャー付きで律の話は隅に追いやり、さてと、とまるでプレゼンでも始める様に資料を配りだした。

 そこには第四研究室の室長や所属員、闘技会での成績などが記載されている。


「だいたいねー、そこに書いてある通りなんだけどー――」


 そう言って始まった青木の説明は、結局昼休みが終わるギリギリまで続けられたのだった。



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