第3話 上司と部下は幼馴染 後編
『………無事におわったぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!』
「はぁ…俺、しばらく電車のらねぇ」
「私も乗りません。自転車にします」
あれから、取引先での会議を無事に終えて二人で缶コーヒーを飲んでいた。
「お前は、カフェオレか。お子様だな」
「常務は若いのにブラックですか。大人ですね」
「カフェインとらないと頭がまわらないんでな」
「もう私は、頭を休めたいです」
『………ぷふっ』
無駄口をたたきあっていたら、無性に笑えてきてしまった。
ふたりでひとしきり笑った後、常務が口を開いた。
「こんな風に会話できる日がくるなんて、思わなかったな」
「…どう言う意味ですか?」
「…やっぱり憶えてないよな。10年も顔あわせてなけりゃ忘れるわな」
「え…10年?」
10年前の私には、いい思い出など一つもない。
家にこもって、ひたすら乙女ゲームに没頭していた記憶しかない。
「これでも、小中一緒だったんだぞ。金髪で襟足長くしてた。思い出してみろ」
「…あ…」
思い出した。
思い出したくなかった、消したい記憶。
「…あ…え…?
「親が、離婚したんだよ。今は、母方の姓」
「…弟くん…
「勇悟は、親父のところ。今度、俺のとこに越してくる」
10年前、彼の苗字は『
小・中学校の間、何の縁だったのかずーっと同じクラスだった、いじめっこ。
兄弟そろって、私と妹にちょっかいをかけてきていた男。腐れ縁または、幼馴染。
(当時の私には、ちょっかいなんて優しいものに感じられなかったけど)
「お前、中学卒業してからパッタリみなくなったし。
成人式で見かけたけど、二次会も同窓会にもこなかっただろ」
「だってそれは…」
(お金にも心にも、そんな余裕なかったから)
「ま、思わぬ再会だけど顔見れてよかった」
「…ずいぶん優しい性格になりましたね」
学生だった頃、一度も見たことのない優しい顔が、向けられている。
会話も終わってしまった。
優しい顔にどうしたらいいのか解らず、手元のカフェオレ缶を弄んで気を散らす。
「…よし。無事に仕事終わったし、二人で飲みに行くぞ!親睦会だ。色々話そう」
「親睦会ですか。私、お酒めないし、飲みませんよ」
「じゃあ、ノンアルでいいから付き合え」
「…わかりました」
すぐに行く、と言わんばかりのお誘いの仕方。彼らしい。
「そっかぁ。お前、酒飲めないのか…なんか酒で失敗したのか?苦手なのか?」
「いえ。苦手じゃないけど、ヘマしないように飲んでないんです」
「じゃあ、今日飲もうぜ!俺が一緒に居てやるから、安心して飲んでみろよ。な?」
お前の初体験、見届けてやる!と、好奇心いっぱいの瞳を向けてきた。
彼に見届けてほしくはない。と失礼ながら思ってしまったけど。
「…わかりました。少しなら」
「おっし。飲み明かしに行くぞ」
「えっ…聞いてましたか?私は少ししか飲みませんからね?!」
-------------上司と部下は幼馴染 終
うさぎ ー約束の指輪ー マキガミ @kbc65-fnt
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。うさぎ ー約束の指輪ーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます