レベル5 ウサギが社長!?

 夜子は黒い道を目印に歩いていた。


 ~10分後~

 ゼエゼエと息を切らしながら夜子はまだ歩いていた。この10分の間、薄暗い森の中を歩いたり、猫耳を付けていた男の人を見ていた。


(いったい、いつになったら着くの。なんか、怪しいところに舞い込んじゃったみたいね…)

 不安な気持ちを隠しきれないまま歩くこと更に10分、やっと[クーフォン]の建物に辿り着いた。 

「着いたー!!」

嬉しさのあまり大声で叫んでしまった。

 その姿を、[クーフォン]の出入り口に立っていた体格のよい警備員2人が、ジロリと見ていた。

 夜子はジャージを抱えたまま自動ドアをくぐった瞬間に「社長ーーー!!!」と焦った男性の声が聞こえた。

 何事かしらと声のする方向を見ると、白黒模様の長い耳を振り乱して、宝塚ばりの化粧でスーツを着たウサギが走っていた。その後ろには声の主と思われる細身長身のイケメ...男性が走っていた。

  (え?社長?ウサギ?)

 夜子の頭の中は混乱していたが、クーフォンの人々は見慣れたかのように「また脱走ねぇ」や「今日の社長の化粧濃いな」など、口々に言っていた。

 (問題はそこ!?)とツッコミを入れたかったが、社長らしきウサギが「もう仕事やらぁーー!イケメンに癒されに行くぅぅーー!」と、泣きながら凄いスピードで走って行ったので、ちゃんと仕事はしてるんだと感心をした夜子だった。

 不思議なものを見たなと思いつつ受付に行く夜子は、またしても頭の中は混乱した。

 受付と書かれたプレートの先にいた女性の口元には鳥のようなくちばしが付いていた。びっくりしている夜子を見た受付の女性は微笑みながら「ようこそクーフォンへお越しくださいました」と、挨拶をしてくれた。

 女性の挨拶でハッと我に返った夜子は「この会社はどういう会社なのか?」と問うてみた。

 嫌な顔もせず受付の女性は、嘴をカタカタ言わせながら「この[クーフォン]は人間とあらゆる生き物が共存しながら働いている会社です。また、選ばれた冒険者のレベルアップもここのパソコンから各々の機器に送信しております。この世界も管理をしておりまして、世界ここへ来た方の情報もここで厳重に保存しております。要は管理全般はこの会社でしていると言う事ですね」と説明してくれた。

 規模が大きい話だなと夜子は思った。だが、さっき見た光景の中で一番聞きたかった事を聞いた。

「なぜウサギが社長なのか?」と。

 人間以外の生き物は人型になるように、生を受けた瞬間から「自由変化」がDNAにプログラムされる。だが完全に人間にはなれないから本来の姿を一部残したままになるのだが、社長は脳だけが人間並みの能力になり、姿はウサギの姿だと言う事を話してくれた。最後に「企業秘密ですよ」と、微笑みながら受付の女性は付け加えた。 

 すごい事を聞いたなと思いつつ本来の目的「更衣室を借りてジャージに着替えること」に、任務を遂行した。

 場所を教えられ、「また受付けに戻ってきてください」と言われ、いそいそと夜子は更衣室へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

30歳のOLが冒険者になりましたが、何か? 蒼原千夜 @chi10com

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ