第4話 魔王の強さってはんぱじゃないな

薄暗い廃墟の中心となるある一室にはフードを被った人間が何人もいた。

彼らは魔王が死亡した後に残る残骸の封印を管理する者達であり、事封印に関しては彼らに右に出るものはいない。そう、それが例え勇者であっても…。


しかし、そんな彼らに封印以外に関する仕事が与えられていた。


それは今代魔王によって行われる歴代魔王の復活。

今までの傾向から残骸から復活していることが分かり、それにより封印を管理する彼らの管轄になったのだ。

彼らの任務は復活阻止、要するに今代魔王に封印を解かれないようにしなくてはならない。


それが例え命を賭したとしても…。


現在、彼らは封印を幾重にも厳重に掛けて封印が外から解かれないように慎重に何度も何度も掛けていく。

現在、約280層はある封印は勇者どころか掛けた本人達ですら破れないレベルにまでなっていた。

しかし、彼らはそれでも足りないと言わんばかりにもう一層、もう一層と封印を施す。


そんな中でこの部屋の唯一の出入り口たる大きな扉が開け放たれる。



「総員!構えろ!封印をかけてる者は続けろ!その他の者は全力を持って時間を稼げ!」



フードを被った中で一際目立つローブを着込んだ隊長の男のその叫びと共に全員、動き出す。



「放て!」



その瞬間、起きることは無限に近い量の鎖が扉を開け放った何者かに飛んでいく。

これはそんなに効果は高くないが一時的な足止めとしては強力な封印魔法。



「前のものは攻撃魔法を!後ろのものは封印を追加しろ!」



その命令に従い全員一糸乱れぬ動きで魔法を構築する。



「放て!」



その合図と共に普通なら見ることもできないような最上級魔法が大量に放たれる。


獄炎、獄氷、獄嵐、獄雷、獄海…


そう名付けられている最上級魔法群はその名にふさわしい地獄のような光景を撒き散らしながら扉を開け放ったものに直撃する。

そうして、終わった頃には再び封印魔法の追加で捕らえる。



「命中、確認…生きてます!」



一人のその報告に周りの空気は更に深刻となる。

あの魔法の中で生き残るなど、ほぼ不可能と言えるがもしも、それが魔王ならば話は別だろう。


魔王というのは勇者達が束になりようやく刃が届き運が良ければ殺せる存在…。

たしかに今まで勇者達が魔王を殺してきたがその裏には何千…下手すれば何億という犠牲があったのだ。



「全く、挨拶もなしにいきなり攻撃とは失礼だな」



その声と共に封印魔法の鎖が砕かれる。

そして、魔法によって起きた粉塵が晴れていく。


そこにいたのは一人の男だった。



「…はっ、お前こそここはどこだと思っている?」


「そうですね〜3番の魔王、堕神の墓場かな?」



隊長の言葉に何事も無いように返答する男は余裕の表情を見せている。しかし、彼らは知っている。どうやっても目の前の男に一矢報いることはできないと…故に、犠牲覚悟で彼らは動き出す。



「総員!掛かれ!」


『ウォォ!』



時間稼ぎも終わり彼らは各々の武器を持ち魔王に挑む。



「遅すぎるよ…それは一番最初にやっておくべきだった」


「待てっ奴は何か…」



そう、彼ら気付くのが遅すぎだ。

時間稼ぎをしてるのが自分達だけでは無いことに…。

そして、それが彼らの敗因だということに…。

それを象徴するかのように隊長の胸には一匹の龍を模したエネルギーの塊が生えていた。

いや、正確には龍に食い破られたという表現の方が適切であろう。


いきなりの事態に誰もついていけない…しかし、それを無理やり納得させる光景が目の前に広がっている。

部屋中を覆い尽くすような龍の形をしたエネルギーの塊。

それと魔王の残骸の封印場所に立っている一人の男。



「滅っ」



その瞬間、龍の一斉降下。

巻き起こる破壊の光景…それによりフードを被った部隊は一部を除いて全滅したのだった。


そして、残ったのは封印の場から出た男と未だに扉の場所に佇む男だった。



「ようやくお目覚めか。初めまして…いや、久しぶり堕神」


「そうだな、久しぶりだな…」



堕神と呼ばれた封印の場から出た男は噛みしめるようにそう言う。

まるでなにかを大切なことを思い出してしっかりと噛みしめるかのように。



「にしても、その呼び方はなんだ?」


「あぁ、堕神のこと?これは俺たちの本当の名前を言わないためだよ」


「そこに何の意味がある?」



堕神にとってはその意義は分からない。

本当の名前で呼んだしまえば楽でわざわざ面倒なことをする意味を見出せるものではない。



「彼の復活を確認したと言ったら?」


「ならば仕方ない」


「ちなみに俺は現在の肩書きは今代魔王で『守護の』と呼んでくれ」


「地味にぴったりな名前だな」



しかし、次に発せられる言葉は彼らにとって充分に意味を見出させるものだった。

それだけ、彼らにとっての『彼』は大切なものであり中心とすべきもの。

例え、『彼』に自分達への認識が無くても彼らにとって『彼』が中心なのだ。



「さて、他は?」


「現在の復活率は半分どころか四分の一以下。それだけでわかるだろ?復活させるための人手が足りないんだ」


「なるほど、だから俺の復活を優先させたのか」


「そう、お前なら俺と同じように復活させることできるだろ?」



そう、三代目魔王堕神には実は魔王の残骸から復活させる力を有していた。

しかし、目の前にいる今代魔王とは違い直接封印を破らないと復活させることができないが故にその力が歴史として出ることはただの一度も無かった。



「さてと、積もる話もあるけどそろそろ始めようか」


「『守護の』積もる話など後でいくらでもできる」


「それもそうだな…」



そう呟いてお互いに笑い合う。

そして、二人はそれぞれ別々の道を歩みだす。

目的を完遂させるために…



そんな光景を見ている男が一人いた。

その男は堕神の攻撃で辛うじて生かされており、その光景の一部始終を目撃していた。


そう、各国に情報を与えさせるためだけに彼は生かされたにしか過ぎないのだ。



**



「ほぉー、それがお前達が倒した先代の魔王か」



俺は訓練に勝ち茅河達に前回に召喚された時の情報を俺の部屋で聞いていた。

ちなみにエルフの兵士はおかえり願った。

そして、最後に聞いたのがその先代の魔王のことだ、その正直な感想としては…



「それってどこまで本当?」



だった。

俺の能力で調べることもできるのだが、一度でもその存在を見ていないと調べるのが厳しいのだ。

故に真実かも分からず思わずそう聞いていた。



「いや、全部事実だ」


「え、まじか…精霊も反応してないし…本当っぽいな」



流石の俺もここまでは疑り深くはない。

しかし、今回聞いた話からはどこからどう聞いても嘘つきとしか思えないようなことばかりだった。


先代の魔王は『暴食』と呼ばれており常に嵐の元で暮らしているそうだ。

まぁ、そこまでは良かった。そう、そこまでは…


次に来た情報はありとあらゆる魔法や現象、要するに魔法や嵐、雷、火山などを食らってその力をそっくり自分の力として操ってくるそうだ。

嵐と共にあるが故に常に膨大なエネルギーを供給しており街どころか巨大な山や海すらも食い崩壊させたそうだ。


もうすでに信じられない。

しかし、それだけで終わりではなかった。


茅河達を除いた約億に近い勇者を全滅させたそうだ。



「そんなのによく勝てたな…」


「まぁ、あれは最早奇跡に近かったな」


「ふふふ、生き地獄とはあれのことを言うのかな」


「そうね、あれは地獄と呼んでも過言ではないわね」


「あはは、私はあれを思い出したくもありません」



茅河、其風、山上、夜空の順に死んだような目で言う。

どうやら余程のトラウマのようだ。



「まぁ、僕達が勝ったのは結局はほかの勇者達が全員死に嵐が止んだタイミングでなんとか応戦してあるとあらゆる条件が揃って生きるか死ぬかの瀬戸際どころか最早偶然と呼べるようなことが起きてようやく殺すことに成功したんだよ…」


「そうか…」



話を聞く限りもはや突拍子も無いがしかし、それ故に彼はおそらく勇者として選ばれたのだろう。

俺の考える勇者像だが、勇者は決して英雄のような人間でも優しい人間でもない。いや、より正確に言うならどちらでもあり、どちらでもない。


英雄のような資質や決断力などない。しかし、英雄のようになにかをする可能性を秘めいている。

優しい人間のように誰かを守り助けるような行動力なんてない。しかし、いざと言う時の行動はできる。


そんな無数の可能性のほんの僅かな可能性を引っ張り出し、大成させる。それが勇者なのだろうと思っている。


おそらく、俺の勇者像はあながち間違いではないのだろう。

その証拠に…


ーーーーーーーーーー

カヤガ シュンスケ LV1

職業 勇者{真覚醒勇者(非表示)}{真なる勇者(非表示)}

ステータス{+ⅩⅩⅩⅩⅩ(運以外の全ステータスに対して非表示/覚醒ボーナス)}

筋力ⅩⅩⅨ

防御ⅩⅧ

俊敏ⅩⅩⅩ

魔力ⅩⅩⅢ

運ⅩⅤ{限界突破(非表示)}

スキル

勇者の理(非表示){レベル不能(非表示)}

勇者ⅤーⅢ{レベル不能(非表示)}

二重覚醒者

ーーーーーーーーーー



これで自覚がないものだから怖いよ。

まぁ、二重覚醒のせいで現状は普通の勇者として上書きされてるせいもあって強制的にセーブを掛けられているみたいだし一概にどうとも言えないな。



「まぁ、今はどうでもいいことか…」


「なんのことだ?」


「あぁ、こっち…だけの話ではないが気にするな」


「お、おう」



うーん、やはり茅河は気にしてないようだがもう他はそうでもないみたいだな。

それに、俺としてもさっきからおかしなこともあるし、話しても損はないか。



「よし、茅河はともかく他は俺が何者か気にならんだろ?」


「え?あーいや、まぁ気にならないと言ったら嘘になるわね。私達を一瞬で倒したんだから」



他二人が何も言わない中、其風が正直に言ってくれる。



「まぁ、当然だし今から話すことをこの中にいる人間以外の誰にも伝えないのなら話してもいいが」



俺のその言葉に三人は反応を示す。

しかし、茅河だけは様子が違った。

何故だろうかと様子を伺ってると茅河が口を開く。



「負けた俺達に言ってもいいのか?」


「あー、そのことを気にしてたのか…、正直俺としてはある程度の情報を引き出せる状況でさえあれば、どう転んでもわかったんだわ」



そう、実際のところ言ってしまえば別に負けても少し嘘を言わないで誘導尋問や言葉の端々から推測していけばいい。

まぁ、さっきまではそう思っていた。


実際、話を聞いてみると事情が変わったが今は強がってるだけだ。

嘘ではないし精霊が反応することはないだろう。



「なら、聞いてもいいのか?」


「あぁ、むしろ聞け。今からお前達とは協力関係でありたいからな」



俺がそう言って悪い笑みを作る。(後に聞いた)



「お、おう。きょ、協力するぜ…」


「それは良かった」


茅河の返事を聞いて俺はどこから話したものかとベッドに寝転がる。

それを見て四人は苦笑いしながらも静かに俺の話を待つ。



「そうだな…まずは俺の特異性でも話しとくか」


「そういえば、急に精霊が見えたりと一体どんな特異性何ですか?」



夜空がかなり気になっていたようですぐに反応してくれる。



「まあ、焦るな。少しずつ説明させてくれ。言葉にするのが大変なんだ」


「は、はい」



「あー、簡潔に敢えて言うなら俺は『嘘像』なんだ」


「「「「『虚像』?」」」」


「あ、レンズとかのアレじゃないぞ。嘘像というのは『嘘』という意味だ」



俺のその言葉に全員が首をかしげる。

そもそもの話を理解できるか分からないのでとりあえずは当たり障りのない感じで攻めたつもりだが、これじゃ言葉が足りないな。



「まぁ、詳しく話していくと俺という存在は嘘である。そして、そのどこかに俺の本物がいると言ったらまず、どう思う?」


「えっと、ドッペルゲンガー的な?」


「ふふっ、そうだな。それみたいなものでもあるか」



あながち間違いではないので皮肉めいた笑みを漏らしてしまう。

全く、変なところ自虐をしてしまう癖は治らないものだな。



「この場合はどちらかと言うと双子とかそう言ったものに近いかな?俺だけど俺ではない存在的な何かだよ…」


「?余計に分からなくなったんだが」


「茅河、急かすなまだ話の続きだ。

次に俺は嘘である。誰かの夢の中でしか生きられない登場人物と言ったら?」


「さっきより現実味がない話になってるわよ」



其風の言葉に確かにと俺は頷く。

しかし、そんな現実味のない話が実際に起きてるから質が悪い。



「四人は俺が何か分かった?」


「うーん、要するにお前はどこかに眠る人間の夢の中のその人ということか?」


「茅河、ロマンチックでいいシチュエーションだけど、俺はそんな存在が意味を持つものじゃない!」


「なら、あなたが生まれる時に生まれるはずだった子の精神が宿ってるとか?」


「うーん、間違い…ではないと思うけどやっぱりなんか違う」


「それなら、元よりあなたは存在しなくて偶然生まれたとかでしょうか?」


「近いけど違う!少し離れた」



茅河、其風、夜空の三人が間違って更に悩んでいく。

そんな中で山上が口を開く。



「うーん、よく分からないけど何の所縁も理由も意義もなく偶然、そんな存在に生まれたとか?」


「何言ってるんですか?特異性というのはそれに意味や意義がありあるべきしてなったものですよ」


「そうだよねーなら…」


「いや、当たりだぞ山上」


「「「え?」」」



山上以外の三人が驚いた声を上げる。

まぁ、正直俺も驚いてる。

そう、俺は生まれた時から最初から何の意味もなく特異性があった。遺伝も何もなくだ。



「さて、当てられたから話すけど。

そもそもが『アレ』は何だって良かったんだ。例えばそこらにある椅子やテーブル、はたまたベッドでもよかったはずなんだ。

しかし、何の意味もなく何の意義もなく『嘘像』となった」



俺の説明に誰も口を開かない。

おそらく、理解するので必死なんだろう。



「そう、俺は今も世界の奥底で肉体もなく眠る『アレ』の代替品。歯車になれとも言われず、何かしなくてはならないとかない。ただ、たまたまこの体に宿った『アレ』の肉体となる複製品なんだよ俺は」


「ま、待ってくれどういうことだ?第一、アレって何なんだ?」



茅河の言葉に俺は意識が遠のく。

いや、正確にはあまり『アレ』のことを考え過ぎてしまい同調が始まってるのだ。



「っっ!『アレ』は…人間じゃない…恐ろしい何かだ」



その言葉と共に俺は意識を失う。



**



ずっと、俺に語りかけてくる存在。ずっと、俺に情報を与えてくれる存在。ずっと、俺に力を与えてくれる存在。


それが『アレ』なのだ。



その存在の意味はなく、世界の歯車から外れ、今もなお眠っている。

そんな『アレ』は夢を見ている。

どこか遠くで自分ではない何かが頑張ってる夢を…それが『俺』なのだ。


最初は興味本位で覗いていた『アレ』だったが…その影響力は凄まじく『アレ』は人々を不幸にしてしまった。


それを悲しく思った『アレ』は『俺』に力を与えてしまった。


そうすることによって不幸にした償いをしてるつもりなのだろう。

しかし、『アレ』は理解をしていない。


これが『夢』ではなく『現実』であることを…。



だから、『アレ』は気付かない。

『俺』は『アレ』の無意識から生み出された『願望』であり『存在』などないことに。


『アレ』という存在に心は無い。

ただ、『アレ』の持つ記憶という本能に従って動き続けるプログラムでしか無い。



『俺』はそんな『アレ』を人間と呼ぶには『不出来』だと思う。

あえて口にするなら『壊れた人間の残骸』とでも呼ぼうか。



『君は誰?』



唐突に声が聞こえてくる。

そこは真っ白な世界で俺の意識や感情などない。

そう、何もない『俺』の本当の姿の世界なのだ。


故にそこに感情や言葉を用いる事なんて無い。


ただ、『俺』は『アレ』と同じように蓄積された記憶という『本能』に身をまかせるだけ。



『そうか、君が…』



段々と『俺』に話しかけてきた存在を理解する。

そう、この声は『アレ』だ。

そうだ、いつもは情報がすぐ出るのに妨害やら魔王の情報だけ何も引き出せなかったりおかしいぞ?



『ごめん、妨害はその魔王からなんだ。

ザザッ…のザザッ…にまで入り込んで…ザザッ…邪魔を…ザザッ…だから…ザザッ…君には…ザザッ…いつか…幸せになってほしい』



…幸せ?

何だそれ?

意味わかんない。

そもそもが俺はお前の『嘘像』だ。

『実像』であるお前が何言ってるんだよ…



『そうだね。君は『嘘』で『実』では無い。

でも、君は勘違いしてる…ザザッは君の言うように眠っていない…ザザッずっと昔から…ザザッてるよ…ザザッだから、君はいずれ真実に辿り着く』




訳わんねぇよ…俺にどうしろと?



『なら、一つ教えるとすれば…ザザッ魔王は…ザザザザッ…神が存在しても勝てないよ』



まるで皮肉めいたような言葉を最後に俺はずっと奥深くの精神から表層にまで浮上していく。



『ザザッように人間はザザザザッくれよ』



最後の言葉がやけに気になった。

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史上最強の人間?が召喚された ARS @ARSfelm

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