第3話 訓練も全力…それモットー?
「腰が引けてるぞ!
どうした、そんなものか!」
城の訓練施設にて教官の怒声が響く。
召喚されてから一週間の時が経っていた。
そして、現在近接戦闘の訓練を行っている。
そこである者達はとある壁にぶつかっている。
いくら俺達が特殊な人間とは言えでも専門外のことは辛いことである。
魔術士や超能力者に武王などのように直接戦闘をしろって言っても無茶な話である。
まぁ、その逆もまた然りとも言えるが…。
それでも、俺達一人一人はそこらの人間よりそう言ったものを取り込むのが上手いので、これでも怒声が減った方だ。
それでも、五分に四回は聞いてるような…。
「ハハハ、いや〜魔術師などは相変わらずだなぁ」
大手が大笑いしながらそう言う。
「なぁ、お前もその魔術師などに入っていたはずじゃ…」
俺は大手の発言に呆れ気味にツッコミを入れる。
「そうだな…でも、俺は一応天才だから!」
「寝言は寝て言えと言いたいがお前は本当に天才だからたちが悪い。
全く、お前は本当に魔術師なのか怪しくなってくるよ」
「はっはは!現代魔術師を侮ることなかれ!」
本当にこいつはいいテンションしてるよ…。
とは言っても一週間も動かないか…いや、すでに動いているのか?
少し確かめに行くか…。
「あ、おいどこに行くんだ?」
大手はどこか行こうとする俺に声をかける。
「んー、便所だ。
来るなよ、ツレションとか反吐がでるから…」
「うす、分かったよ」
俺はそう言って心置きなくその場を後にする。
そして、裏の方に行くと目的のものを見つけてその場で隠れる。
「いや、俊介様達が来るとは…」
「あ、いいんだ別に、隠してることでもあるし…」
俺が召喚される時に怪しいと感じた四人だ。
茅河 俊介
同じクラスで特異性は身体覚醒。
黒髪 黒目 基本的な日本人顔で顔は普通
本人は気さくでいいやつだが女子三人と仲がいい。
話によると住んでいる場所が全然違くて接点は不明。
身体覚醒は特殊な細胞分裂が起きて全く新種の細胞を作り出したとされているが身体能力が異常に高くそれだけでは説明できない能力だが、彼の場合さらに特殊な事例で再生能力も高いそうだ。
其風 舞
同じく同じクラス特異性は環境感応
茶髪 茶瞳 肌は健康的な白さで顔は同じく日本人顔で可愛い感じ。
明るくクラス内ではその可愛さもありかなり人気はあるが茅河と仲が良く大半の男子は血涙を流しているようだ。
特異性の環境感応は環境そのものに干渉して魔法のようなものを使えるそうだ。
かなり特殊な特異性なので今のところは彼女しか確認されていない特異性。
山上 凛音
やはり同じクラスで特異性は魔歌
金色がかった髪 青い目 可愛い感じの顔と白い肌でポニーテールがよく似合うそうだ。
やはり、なぜかと言うべきか彼女もかなり男子から人気がありおっちょこちょいなところやドジなところ含めてクラスのアイドル的存在がある。茅河と仲良いのも其風と同じで大半の男子は地獄絵図のような姿で答えてくれた。
特異性は歌に乗せてありとあらゆる効果を作り出すらしい。再生、崩壊、癒し、興奮、誘惑などと様々な効果があるそうだ。
夜空 妃景
これも同じクラスで特異性は魔術師と言われてる
黒髪 黒目 清楚で大和撫子のような雰囲気と容姿を持ち合わせている。
大人しくて物静かなタイプであり、先生からの人気は高い。男子に聞いた限りだと貧乳ではあるがそれ以上の可愛さと反応とか言っていたがよく分からない。そして、茅河と仲が良く楽しそうに談笑してるところを目撃したとかしてないとか…男子の諸君が窶れた顔で言っていたな。
彼女の特異性は見た限り魔術師にも見えるが大手の話によると少し変だと言っていた。とりあえず魔術師だと仮定はしておいて損はないだろう。
まぁ、このほかにも一週間調べたが特に動きは無かった。
しかし、今日は違う。
訓練の時に見る女騎士の人と話している。
どうやら、今の国の情勢と魔王の戦力について話しているようだ。
この国は少し前に勇者の召喚をしたそうだが、魔王を倒した後、帰還した。
しかし、彼等は帰還というより事故により帰還をしたそうだ。
でも、何故帰還したとわかるのかはそういうことらしい。
要するにあの四人は昔に召喚されたことがある。
おまけに少し前とは百年くらい前だ。
長寿の種族と言われるエルフの女騎士なら四人のことを覚えていて不思議はないだろう。
そして、魔王は倒したようだが次代魔王が思った以上に早く生まれたそうだ。
しかし、それだけなら良かった。
かの魔王の能力が危険なのだ。
蘇生能力、ただし魔王しか復活させることができない。
それはこの世で今まで倒してきた全代魔王が敵に回ることを意味している。
文書に残るだけでも三十、伝承に残るだけでも二十の魔王がいる。
どうやら、思った以上に事態は深刻らしいな。
「ありがとう、セレル。
お陰で今の事態を把握できたよ。
それにしても今までの魔王…うん?」
「どうかしたの俊介?」
茅河は何かに気が付いたように視線を巡らせる。
それに対して山上は不思議そうに首をかしげる。
「いえ、凛音…警戒して。
出てきて!そこにいるのは分かってるんだよ!」
其風は俺のいる方に向けてそう言い放つ。
どうやら気付かれたようだ。
仕方なく俺はひと息つくと物陰から身を出す。
「風上…なんでここに」
「いや、ちょっと一人になりたいと思って来たらお前らがいてな…」
茅河に問われて照れたようにそう言う。
「嘘だね」
其風は俺の言葉を聞いてすぐにそう答える。
まるで確信があるかのように…。
やはり、こいつの能力は環境感応じゃなさそうだな…。
「いきなりなんだ?
俺が何を嘘付いたんだ?」
しかし、其風の言葉には絶対的な信頼があるのか全員の視線は緩まない。
「一人になりたいというのは嘘でしょ?」
「へぇ、どうしてそう思う」
瞬間、俺は顔の笑みを消した。
「さぁ、どうしたかな?
自分の胸に聞いてみなよ」
俺は言われた通りに自分自身に問いかけて見ることにした。
『世界の書庫………接続…確認……限定的な条件の検索…嘘と環境………検索完了……精霊……情報の取得…確認……魔眼…取得…確認……統合……妨害確認……退避します』
チッ、また途中で妨害されたか…あまり深く入れそうに無いな。
俺が特異性を使用してる間に何かを感じたのか五人は固まって息を飲んでいた。
「よし、分かった…」
「何が…分かったとい…えっ?」
その瞬間、其風の余裕が消えた。
「舞どうしたの?」
山上が不思議そうに其風に問いかける。
「だめ、近付かないで…余計なことを考えちゃダメ!」
其風は余裕のない表情で四人に言い聞かせる。
どうやら、思った以上に早く気が付いたみたいだな…。
それもそうか…あんなに近くに精霊がいれば反応などを見て一目瞭然だもんな。
俺は笑う。
魔眼を会得したことにより、俺は精霊を見ることができるようになっていた。
そして、その精霊の力というのは見ることができる人に虚言を教えることである。
要するに俺と話している、それだけで嘘かどうか見抜かれて相手が不利になる。
まぁ、其風も精霊が見えるから一方的なメリットというわけでも無いんだがな、
それにしても全員が黙ったらこれ以上の情報が収集できないな。
「まぁ、お前達の方も俺が何者なのか気になることがあるだろう?」
俺のその言葉に五人は顔を見合わせてから頷く。
「交渉、対話、探り合いなどでお互いに情報を引き出し合う…、そんな面倒なこと俺としてはやる気はない」
俺はそう言って間をおくそれにより、相手に選択を与える。
「だから、一つ訓練の一環としてゲームをしないか?
丁度、審判をやってくれそうな騎士もいるしよ。
どうする?めんどくさい駆け引きを行うかゲームに乗るか?」
五人は決して言葉を出さずに意思疎通を図ると、成功したのか其風が前に出る。
「いいわ、そのゲーム乗ってあげる」
「んじゃ、決まりだ。
ルールは…この一週間で行った模擬戦に沿う形で四対一でいいか」
俺のその言葉に全員が驚いたような表情を浮かべた。
まあ、それもそうなるか四対一聞けば少しでも俺に有利にすると思うのが普通だろう驚くのも無理はない。
その上で叩き潰そうとしたなら尚更だ。
「んじゃ、広さもあるしそこの騎士の人、審判よろしく」
騎士の人は少し戸惑ったように返事をすると俺たちの間のところで十分に距離をとって合図をする。
俺はしっかりと構えて四人を見る。
そして、始まりの合図が送られると同時に四人は動き出した。
その中で早かったのは茅河だった。
瞬時に俺の目の前に姿を現すと剣を振るう。
「悪いな…」
そう聞こえた…いや、謝るのは俺の方だ。
その瞬間、俺の左腕は確かに切られた…筈だった。
茅河は思った以上に切った感触が無かったせいか驚いた表情をしていた。
さすがは元勇者と言うのか、すぐに我に帰ったがその時にはもう既に遅かった。
俺の手は茅河の胸に添えられている。
そして、俺は軽く身体から押すように茅河の胸を圧迫する。
「があっ!」
面白いほど茅河は吹き飛ぶ。
辺りには茅河が吐いたであろう血のようなものが飛び散っていた。
それこそ盛大に…。
その瞬間、既に動き出していた3人が止まる。
しかし、その間違えに3人は気づけていなかった。
俺の中では厄介な其風と山上を茅河と同じように吹き飛ばす。
夜空はギリギリ正気に戻って何とか魔法を発動させる。
綺麗な炎の剣が俺に飛んでくる。
それを見て俺は感嘆の声を思わず上げる。
俺たちに魔法についてはまだ訓練に導入されておらず、知らなかったが魔法と魔術の違いについてよく分かった瞬間だった。
「まぁ、無駄だな…」
俺はそう言うと相手が使った魔法を真似る。
一応、初日から魔法などを使えるようにしていたが仕組みを理解して仕舞えば簡単なオモチャだった。
「嘘…」
いとも簡単に相殺された光景を見た夜空は固まる。
そして、俺は指をパチンと鳴らす。
魔法と魔術…その違いとはと言う命題を建てたとしよう。
結論から言おう。
違いなどない。
あるのは術式という定型化を果たした機械的な魔術かゼロから少しずつ構築しながら自由度がある定型化などない魔法かくらいであろう。
そう、俺が今行なっているのは定型化を果たした先程の魔法…要するに魔術である。
約二十にも及ぶ炎の剣が現れる。
「この魔法…いや、魔術には名前はあるのか?」
俺の質問に対して夜空は答えなかった。
そう、既に戦意を喪失して膝をついていたのだ。
あれ?
おかしいな…対抗してここはそれより多くの魔法を構築するのかと思ったのだが…。
いや、大手と比べたらこの量は少ないし…いや、でもね?流石にあいつの方が優秀なんてありえないだろ?
「何…その数…私でもこの魔法は10個が限界なのに…降参よ」
夜空の降参によりこのゲームは簡単に終わったのだった。
いや、思ったより呆気なくて疑問すら感じるほどに…。
後に考察した後だと定型化させた魔術の方が複数出すのに向いてるらしく魔法で複数作るのがとても辛いことが分かり、大手より夜空の方がやはり優秀なのではと思いホッとしたのはまた別の話…。
いや、だってあんなふざけた奴は優秀なのは知ってるけど、流石にそこまで優秀だとは思いたく無かった。
え?流石にこの勝ち方(半分不意打ち気味)は無いって?
いや、だってこれは訓練だし全力出さなきゃ失礼でしょ?
まぁ、全力と言っても本当に今のが全力かなんて俺にもわからないけどな…。
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