第2話 どうやら、勇者召喚のようだ

「ここは…」


気が付けば俺はどこかの金持ちのホール的な場所にいた。

これは…まさかの異世界召喚?

いや、待てよ。

こんなファンタジーどころかSFっぽいものまで混ざってる学校に異世界召喚ってどんだけだよ。


ただでさえ存在がファンタジーなのに、ファンタジー経験とかマジで?


いや、一回冷静になろう。

素数を…ってそのネタは被りか。


「よくぞ来てくれた勇者方よ」


よし、落ち着いた…って勝手に勇者とか言ってもてはやして俺を巻き込むな。

ていうか動揺が隠せないんだが…。

周りは「えっ?勇者って俺は吸血鬼なんだか…」「バカッそういう問題じゃねえだろ」「超能力者でも魔法は使えるのかな?」意外と順応してた。

そうだよな、こいつらにとっては自分も非常識だもんな…。


「まずはステータスの確認をしてもらいたい」


はいはい、どうせテンプレの『ステータスオープン』でしょ?


「鍵言葉は『アイ・マイ・ミー・マイン』だ」


英語かよ!

いや、ステータスも一応英語だけど予想とは斜め上どころじゃねぇ!


その瞬間、周りから『アイ・マイ・ミー・マイン』と聞こえてくる。

俺もポソリと呟く。


ーーーーーーーーーー

カザカミ キリサメ LV1

職業 unknown

ステータス

unknown

ーーーーーーーーーー


あぁ、なんか予想通りな分、嫌だな。


「そして、君達の左手の甲には紋章が刻まれていると思う。

それはこの世にしかないらしい。

ですので、説明するとこれは、その人の存在の在り方を指している」


俺はそう言われて左手の甲をみる。

何か分からないあやふやな紋章がそこにはあった。


「では、一人一人確認したいと思う」


すると、十人ほどの人が前に出てその一人一人が水晶を持っている。

おそらくあの水晶でステータスを見るのだろう。

全員それぞれ並んでいき、水晶に手をかざしていく。

たんたん拍子に物事が進んで行くが、リスクなどを俺達は決して考えていない訳ではない。

先行に行った人間は強力な呪いを受けたことがあり、呪いや精神操作などの類について知識もあり、感じることもでき、決して掛からない体質である。


ていうか、かなりチートじゃね?


「…風上、お前はどうするんだ?

安全も保証されたわけだし」


まぁ、さっきまでの説明はすぐ近くにいる男と話しながら考えていたことなんだがな…。

こいつの名前は確か大手 裕武(オオテ ヒロム)と言い、魔術師だ。

召喚される前も指をパチンと鳴らすだけで雷の槍をいくつも作れたらしい(本人曰く、俺自身は見たことない)。


「とりあえずは妹の様子を見てからだな。

できれば妹より早く試して見たいがあいつがそれを許すとは思えない」


「それは愛されてるねぇ」


裕武はニヤニヤとした顔で俺を見ていた。

俺は居心地が悪くなりその場を去ることにした。

しばらく、人混みを歩き寧々を見つける。


「寧々、探したぞ」


「あ、お兄様。

どうかしましたか?」


寧々は俺を見つけると同時に小走りに駆け寄り首を傾げながら俺に問う。


「いや、一緒にアレの確認にいかないか?と思ってな…」


その瞬間、寧々の目には心配が見て取れた。


「大丈夫だ。

たとえ何かが仕込まれていたとしても俺なら何とかできる」


まぁ、余程のオーバースペックなものが来ない限り…。

そもそも、触れただけでとか、見ただけで何かを起こす能力はその行動に意味をなさせる為にその意味をなくしてしまえば能力は発動されないのだ。

まぁ、言うほど簡単では無いがこれくらいなら一応出来る。

それによって寧々の安全は確保できる。


俺は…まぁ、死んだりはしないから大丈夫だろう。


そうやって寧々を落ち着けながら俺達は水晶のところに行く。

そして、俺はそっと水晶に触れる。


ーーーーーーーーーー

カザカミ キリサメ LV1

職業 無し

ステータス

無し

スキル

無し

ーーーーーーーーーー


なんだろう、この雑さ加減…。

ていうか、これじゃ最弱じゃないか…。


「えっと…」


ちょっと、なんで皆様お困り顔なんですかね?

俺のステータスおかしい?おかしいよね?なんか言ってくれ!

これは予想外だった。

まさか、unknownではなくて無しと表示されるとは…。

寧々は?

俺は横からちらりと見る。


ーーーーーーーーーー

カザカミ ネネ LV1

職業 能力者

ステータス

筋力Ⅲ

防御Ⅱ

俊敏Ⅴ

魔力Ⅰ

運Ⅳ

スキル

超能力Ⅲ-Ⅰ

平衡感覚Ⅲ-Ⅴ

ーーーーーーーーーー


強いのかよくわからないな…。

少し調べて見るか。

俺は先程とは打って変わり冷静になる。

そして、俺の特異性を使用する。

俺は少し目を閉じる。


『世界線変更…世界の書庫…侵入…解析………鑑定…取得確認……魔力操作…解析確認…統合……魔力感知……解析……統合……魔力生成…確立…確認……魔法……解析……統合……妨害確認…退避』


俺の中に音が流れていく。

それと共に様々な知識が俺の中に入ってくる。

そして、目を開く。

頬には一筋の汗が流れている。


「お兄様、大丈夫ですか?」


「え、ああ大丈夫」


俺はそう言う共に寧々と一緒にその場から離れる。

それと共に先程取得した『鑑定』を使用する。


その瞬間、何千何億という情報が入る。


「うっ…」


頭がパンクしそうな情報に俺は一瞬頭を抱えるが、すぐに持ち直して何でもないように取り繕う。


「お兄様、やはり…」


「いや、少し特異性を使用しただけだ」


心配そうだった寧々だが、俺がそう言うと納得したように頷く。


今回は邪魔が入ったからあまり有益なものは得られなかったな…。


「あまり無茶をしないでください。

あれはお兄様の魂の呪いをより強力にしてるのですから」


「安心しろ、とっくの昔にその呪いは振り切ってる。

俺の力としてな…」


「…」


俺の特異性のデメリットを知っている人にとってはこの言葉やはりいい顔はしてくれないか…。

そりゃ、そうだよな…。

使う度に人から遠ざかっていくのだから。


「お兄様、実際私はお兄様のことを何も知りません。

それでも無理だけはしないでください」


「ああ、分かってる。

とりあえず戻ろうか」


「…はい」


やっぱり分かるか…俺は多分また無理をすることぐらい…。

俺達はそうして水晶場所から離れる。


「おう、どうだったか?

まぁ、その調子なら大丈夫そうだな」


「大手こそ大丈夫だったのか?

さっき、俺と殆ど同じタイミングで別の場所でやってきたんだろ?」


「安全も保障されてるし俺はこう見えて優秀だから何とかなるものよ!」


「なるほどな…」


胸を張って答える大手に俺は少し深い溜息を吐く。


「お兄様、この方は?」


「ああ、こいつは大手 祐武だ。

大手、こいつが俺の妹の寧々だ」


「お、これが霧雨の妹か…よろしくな」


「え、はい。よろしくお願いします」


大手の軽い挨拶に寧々は丁寧なお辞儀も挟んで挨拶を済ませる。


「お前らいい所のボンボンかよ」


「まぁ、似たようなものだ」


大手のツッコミに俺は答える。


「え…マジで?

本気って書いて本気マジで?」


「そういえば言って無かったな」


どうやらちょっとした名家の子だということに驚いてるっぽいな。

寧々はまだしも俺は見えないからな。


「いや、何か…口調…直した方がいいか…いや、ですか?」


「いや、寧ろ崩してくれ。

寧々は兎も角、俺はそう言ったものに慣れていなくてな…」


「それは助かるけど…いいのか?」


「別に異世界だ。

そんなことも今更な気がしてくるだろ?」


「まぁ、確かにそうだな」


そう言って大手は自分の手をポンと叩く。

俺としてもこういった奴は需要が高い。

名家だと知って態度が変わらない人間の方が少ないからな。

下心がなくてもどこか遠慮してしまう人が殆どだ。

だから、早い段階で大手のような奴と知り合えておいてよかったな。


「まぁ、今後ともよろしく頼むぜ」


「おうとも!」


俺と大手はお互いに拳をぶつけて笑う。


「お兄様、そろそろ全員が確認をし終える頃です」


「分かった」


寧々の言葉に俺はすぐさま耳を王様(仮)に傾ける。

因みに仮の理由はまだ相手が名乗っていないからだ。

まぁ、この状況でそれ以外を予想しろというのも無理がある。

あったとしてこの世界の司祭様とかその辺だろうな。


「君たちにお願いしたいことは他でもない。

この世界に巣食う魔王を倒して欲しいのだ」


その言葉に周りは…騒つかない。

みんながみんなどうせそんなことだろうと思っているからな。


先程は少々未知なものに興奮はしていたが状況を理解してしまえば後は少ない情報から常識的な推測から非常識な推測までしてしまえばいいのだ。


幸い、ここにいる俺達はかなり非常識な存在である。

それに更に非常識が来たところで少しは慣れている分、順応がかなり早い。

その証拠に周りは動揺が走らず短絡的に物事を考える人はこの場にはいなかった。


「貴殿らの心配も分かる。

元の世界に帰る方法は残念ながら今のところ無いのだ」


周りの目が変わる。

好奇や呆れなど言ったものに。

そこには決して恨みや罵倒などはない。


「もし、魔王討伐してくれたのなら返す手段を探して見せよう。

我々としても君達に権力を奪われたら堪らないからな」


それくらいは皆んな予想通りと言わんばかりに沈黙…。

それを不思議に思ったのかどうやら戸惑っているようだ。

まぁ、その気持ちも分からなくも無い。

突然、何処とも知れない境遇に追い込まれたら精神上良くない。

だが何度も言うが俺達は普通では無いのだ。

例え、帰れたとしてもこの場にいる大半の人達が家族にすら拒絶された世界が元いた世界だ。


そんな境遇で異世界に召喚された?


それに対して喜ぶことはあれど恨むことは殆どいないと言ってもいい。


「とにかく、失礼を承知で頼む」


男は頭を下げた。

しかし、それに対して明確に頷いた者はこの場には誰一人としていなかった。

それは疑念か謀略かは本人達のみが知ることである。


そして、幕開ける。


俺達の異世界物語が。

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