第二章 キツネと研究所と その3




「---こっのっ馬鹿野郎!」

きゃーーーーっ!ごめんなさいっ!!!!

 私、小さくなって碧くんに怒られっぱなし。

 化物から逃げてきて、大きな岩陰に来るや否や、怒鳴られちゃった。…気持ちはわかるけど、碧くん、そんなに大きな声、出してたらせっかく逃げてきたのに、化物に気づかれない?


「お前って奴は!お前って奴は!…馬鹿か!この優柔不断!!」

「で、でも…化物でも、切られたら血が出るし、痛いだろうし…傷が今後の生活に支障がきても困るんじゃないかって…」

「--だから?」

 私を見下ろすように、ていうか、蔑むようにというか…とにかく、こわーーい顔をしてい言うの、「完全に」有無を言わせない態度ってこんなの、だろうなぁ…きっと…蛇ににらまれたカエル?みたいな?

「えええっと、…だから、ね?」

「ね?じゃない!お前、化物が痛いとか言って、こっちが殺されたら、どーする気だ?!この馬鹿」

「…そんなに馬鹿、馬鹿って言わなくてもいいじゃない!」

「いいや、お前は馬鹿だ!馬鹿!

---ともかく。お前、そこまで言うなら、自分の身は自分で守れよ。化物がかわいそうとか言って、お前がケガしようが、死のうが、もう知らんからな」

「…」

…何もそこまで言わなくても…

と怒る碧くんの声を聴きながら、あっちの方…私の眼の中に、一つ、なにか、小さいな光るものが映ったの。


―――なんだろう?あれ


「お前っ!人の話を聞きよるんかっ!」

「碧くん、聞いてる。聞いてるけど。…あれ、何だろう?」

 右手でくいくいっと碧くんの腕引っ張って、左手でその光る物を指して言うと、怒っていた碧くん、ため息ついて

「どれ?」

って聞いた。それから私の指す方に目を向けた。

「何だ?--光ってるから、ガラス、じゃないのか?」

「ね?見に行ってきてもいい?」

 呆れ気味に碧くんは頷いた。


やったー。

 私、小走りにその光る物のところに行ってみた。

「--」

近くまで行ってみると、それってガラスじゃなくって、鏡、みたいだった。私、碧くんに振り返り言った。

「これ、鏡だよ、多分」

「鏡?なんで鏡がそんなところにあるんだ?」

って碧くんもこっちにやってきた。

 その鏡、結構大きい。見つけたときは、ほんと、ガラスの欠片みたいに見えたのに。近くに行くと手鏡よりもちょっと大きいくらい…丸くて。周りに派手派手な金の装飾がしてあった。

「誰かの落とし物かな?」

 拾おうとしたとき、その鏡の横に一枚、紙が落ちてるのに気づいた。

「何か、書いてる?なんだろ?」

 そのころにはもう、私の隣まで来てた碧くんも、一緒になってその紙をのぞき込む。


この鏡を手にせしモノ

鏡の中に映りしは、真のスガタであり、また未来なり


「うーん。てことはー。この鏡を手に取ってみたら、自分の本当の姿と未来が映るってこと?」

「らしいな」

たいして興味も示さず、胡散臭そうに鏡を見て碧くんが言う。

 碧くんにしては珍しい反応だ。普段だったら、喜んで見てみようって言いそうなのに…意外…そう思ってけど、私、自分の好奇心は抑えられないわ。だって、こんな鏡、現実では絶対にお目にかかれない、こんなのやってみないなんてもったいない!

「見てみよっと!」

って鏡を手にしようとした。ら。

「馬鹿」

 碧くんはそういうなり私の手、はたいた。私、びっくりしちゃって。ぼーぜんと碧くんを見てたんだけど。

「自分の真実の姿とか未来とか見たって、結局お前はお前だろうが。見たからどうなるわけでもない。変わるわけでもない。というより、お前は変われんだろうけどな。…ま、ともかく、変に見るとお前、いろいろ考えすぎるんだらから悩みを抱えるだけだぞ、やめとけ」

「……そう?」

――見ても見なくても「変われない」んだったら、見てもいいじゃ…?て思ったけど、あんまりにもマジな顔をして、碧くんが言うので、ちょっと残念だなって鏡の方を見る。碧くんは私の頭にぽんと軽く手を当てて

「そうなの。ほら、行くぞ」

って先に行こうって。で。私は進みだした。


…確かに…私、単純な好奇心で鏡をのぞいてみようと思っただけだったけど…映る姿が自分にとっていいものとは限らないわけで。逆にとっても認めたくない自分の嫌なところが「お前の真実の姿だ」なんてことになったら、どうしたらいいのか、悩んじゃうかも……けど、悩んだところで「真実」はどうやったら変えることができるんだろう?……うーん……碧くんの言う通り、いろいろ考えちゃいそう……。


 なんてことを考えていたら、いつの間にか周りの風景が変わってた。それまでは山に行くだって感じの木々が多い風景だったのに、だんだんと岩が増えてきて、逆に緑が少なくなってきた。山の上の方に向かってるって感じになってきた。ちょっと緩やかな坂道を登ってくっていう、比較的楽な山登り。不思議と化物に会うこともなくて。…多分、きっと、碧くんが怖いんだと思う。遠くからこっそり見てるかも?


 やがて、碧くんが言った。

「あれが、龍神がいるっていう、洞穴じゃないのか?」

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私と碧くんのおはなし。 のりぞう。 @samecyan

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