第二章 キツネと研究所と その2
「……能力ってなんだ?」
一区切りついたところで碧くんが不安そうに、嫌そうに聞いた。キツネはゆっくりと一呼吸置いて。
「風を操る能力。そして雨・雪を操る能力です」
はっきりとそう言った。
「--まさか、その能力を持った二人って……」
碧くんは信じられない……じゃなくて、信じたくないというように首を振ってる。私はっていうと、ちょっと嬉しくなった。だって、今までそういう風に自分で思ったりしてたんだけど、確信なんてなかったから。私は昔から、雨が降ってほしくないときは、「雨やんで」ってお願いすると、きっちりかっちりお願いが通って雨がやんでたし、時間指定もできてて…15分後に雨やませてくださいっていうと、15分後に雨やむんだよね。偶然にしては確立がすごく高くて。ちょっと変だなぁとは思ってたんだけど、便利だなくらいにしか考えてなくて。だから、キツネはっきりそう言われて、なんだか、私、そのことを証明された、ようで。
だから、うん。これって、私のが雨を操るって方だよね。てことは。
「風を操る能力って、もしかして、俺、か?」
私同様、ちょっとは思うところがあったのか、碧くんが半信半疑で聞く。できればNoと言ってくれという顔ををして。キツネはそんな碧くんの期待をあっさり砕いてしまった。
「そうです」
その言葉に碧くんはもっと嫌そうな顔をして、それからうなだれた。
「なぁんだ。結局、碧くんも普通じゃなかったんだ」
私が笑って言うと、碧くんはばっと顔を上げて
「うるさい」
ってデコピン。いたーい。碧くんの馬鹿。
けど、そんなにショックかなぁ。真剣そうな碧くんの顔って久々だよね。私なんて嬉しいけど?だいたいここに来たってことで、もうそれってきっと、「決定事項」だよね。決まってしまってることをあれこれ考えても……。
そんなわけで、キツネがいうところによると、
私は雨と雪を操れる能力を持ってて、碧くんは風を操れる能力を持っている、大樹の言った「二人」なんだって。まぁ、そうだよね。
で。当然ながら、大樹の次なる指示に従い、東の山に行って龍神様に会うことになるのだそう。
「碧くん、行く?」
「行かなきゃ仕方ないだろう?それに俺たち問題解決しないと帰れそうもないし」
それにほんの少し本物の龍神っていうのも見てみたいし、こんな妙な体験なんてそうそうできるもんじゃないし、どうせだったら楽しんでやろう。多分、碧くんの考えてることってそんな感じじゃないかな、だって、顔がさっきとは全然違って、なんだか楽しそうだもん。ちょうどイタズラっ子が「いいこと思いついた!」みたいなそんな顔。
私、ちょーっと不安なんだけど……でも、やっぱり好奇心の方が大きい気がする。やっぱり龍神様って会ってみたい!
そんなこんなあって。だけどそんなにたいした時間もかからずに、私と碧くん、そして案内役のキツネと、その問題の東の山のふもとへと着いたの。
「ここから先は私たち、こちら側の者は龍神様の許可がなければ立ち入ることはできません。この剣をお渡しします。--どうぞ、ここから先はお二人で」
立ち止まってから何をするのかと思ったら、キツネってばそう言ってどっから出したのかちゃっかり手に剣を二つ持っている。
剣なんか渡されちゃってもねぇ……ってことは、この山もしかして、怪物とか化物とかっていう類の、剣で倒さないといけないようなモノが出るってこと?
そんなんだったら、ぶっちゃけ私、帰りたいんだけど~~ダメ、かなぁ~~
ちらりと横の碧くんを見ると、碧くんてばキツネから剣を受け取ってる!
「お前、なんちゅー情けない顔をしてんだ? ほら、これお前の。--持たんか」
って、私に剣の一つを渡すの。私がこんなの使えるわけないじゃん……。大体こーゆーのは、テレビとか小説とか漫画とかだけの中でいいのに。私が剣、つけてるのを見て碧くん、ぷっと噴き出して言う。
「お前、全然っ、似合わないなぁ」
って。……いいよね、碧くんは似合うから。しかも、と~~っても似合うから。
こんなの私には用はないのよ!持たされたって使えないに決まってるんだから。心ン中で嘆く私をまるっきり無視して、碧くんは
「ほら、行くぞ」
ぽんって私の頭に手、当てて、言った。……もしかして、碧くん、私に、気、使ってくれてるのかなぁ。
ちょっとだけ驚いてその場に突っ立てたら、先に歩き出してた碧くん
「おい、置いてくぞ」
振り返り一言。
「ま。まって」
慌てて追いかけてく私の背中見ながら残されたキツネが
「頑張ってくださいね」
って私と碧くんを見送ってくれた。
しばらく碧くんとあーでもないこうでもないと言いながら進んでいく途中、振り返ってみると、キツネはもうその場から立ち去ってしまったみたいでその姿は見えなくなってた。
「碧くん、ねえ、碧くんてば」
「--なんだ?」
面倒くさそうに碧くんは私の方を見る。
「ねぇ、剣をね、渡されたってことは…ば、化物とか怪物とかって出てくるのかなぁ…」
そういうの、よくよくある話じゃない?それに…それに…やっつけるモノがないのに剣なんて渡すかしら?…いや、普通に考えて、剣なんてほかに使い道なんてないよね‥
「心配するな」
「え?」
碧くんはこっちも見ずに続けた。
「化物でも怪物でもお前を見れば、向こうが怖がって逃げてくに決まってる」
「えええ?どういう意味?!ひっどーいいい!」
あんまり悔しい言われようだったので、思わずはたいてやったけど!それでもなんかまだ腹立たしいわ。
「--まぁ。でも碧くんのことだから」
「何か言ったか?」
碧くんがこっちを見る。私は急いで首をぶんぶんと横に振って、続きは心の中で。---たぶん、きっと、絶対、間違いなく、助けてくれる、よね。…絶対にそうは言ってくれそうにないけど。
「おいっ」
碧くんの普段とはちょっと違う、少し緊張してる声。
え?何?
顔を上げて
「うっうっそーー!!」
私、思わず叫んじゃった!それから急いで碧くんの後ろに隠れた。
「お、お前っ、何、人を盾にしてんだ!」
碧くんは言ったけど、この際、構うもんか。碧くんの言うことなんて無視よ、無視。だって、目の前に本当に出たんだもん!怪物が!でっかい…私と碧くんの3倍…ううん、5倍くらい?それ以上ありそうな、毛もくじゃらのゴリラみたいな…けど、普通とは決定的に違う、目が三つの。あと、あと、絶対これ、言葉通じそうにないって、そんな雰囲気の…
「あ、碧くん、碧くん、碧くん!!!!こ、こわい!!!」
「えーい!うるさい!わめくな!」
言うなり碧くんは剣を、さっと抜いて。構えた。…あら、碧くん、思った以上にカッコいい。なかなか様になってるよ!口に出して褒めようかと思ったんだけど、そんなこと言ったら後でどんな(照れ隠しの)仕返しが怖そうだったから、やめておいたけど。…本当に、なかなか。うん。…私、怖かったのも一瞬忘れちゃって、見とれちゃった。
「だっから!剣でコイツを切りゃぁいいんだろう?!」
その声に私、はっと我に返り
「そ、そうだと思う!」
って答えから、ちょっと考えた。……切られちゃったら……痛い、よね……いくら化け物とはいえ……あと、よく考えたら、本来、彼?の住むところに私と碧くんの方が勝手に入ってきてるわけだし……
「碧くん!!」
まさに切りかかろうとした瞬間に私がいきなり叫んだ、もんだから碧くんはバランスを崩しそうになってしまった。けど、どうにか持ち直し
「なんだっ!」
って叫んだ。
「切らないで!!!お願い!!!切られたら痛いよ!!
勝手に入ってきたのは私たちの方だから!!!」
一瞬、碧くんは何も言わなかった。けど、やがて
「だったら、お前!どうしろって言うんだっ!」
って剣を構えて、とりあえず目で化物を射すくめて…碧くん眼力強すぎ…言った。
「どうするって言われても…」
そこまで考えてなかった。けど、だけど、だって…
「---こっのっ、わがままっ!!!」
思いっきり叫んで…うあぁああすっごい怒ってる!…碧くん、すきを見て私か碧くんを捕えようと頭を動かした化物の、その頭、剣でしこたま殴りつけた。
いやーーー!!!痛そう!!!
「逃げるぞ」
化物が痛がっているスキを見て、碧くんは化物と一緒なって痛がっている私の手を引っ張った。私は碧くんに引っ張られて走りながら、化物の頭、大丈夫だったかしらと考えてた。
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