第二章 キツネと研究所と その1
私と碧くんが連れてこられたところ、研究所、は、多分いわゆる、気象所みたいなところだった。
「私、どうせだったら、気象所よりも天文所の方が、よかったなぁ」
つぶやくと碧くんは言う。
「どっちも大して変わらん。空を見るのは一緒だ」
けど、やっぱり、満点の星の方が何処なく神秘的で、宇宙の果てってどんななのかとか想像力駆り立てられて好きなんだけどな。気象所って言うとどっちかって言うと理科の授業思い出しちゃうだよね。嫌いじゃないけど。
青い空って大好きだからなー。春には桜の花が咲いて、青い空とのコラボレーションなんて最高だし!秋の高い空も大好き。
とん。
何の音?
私は意識を戻して、音の方を見る、と、キツネがテーブルの上に真っ白なティーセットを置いてるところだった。それから紅茶らしきものを入れて、多分おそらくクッキー、を、持ってきて、言った。
「お座りになりませんか?」
特に何か危険なものもなさそうだと碧くんは思ったらしく、さっさとテーブルに着いた。だから、私も一緒にテーブルに着くことに。
私が座るとすぐ、碧くんは
「で。結局俺たちをここに呼んだのは、あんたなのか?」
単刀直入に言ったの。しっかりクッキーに手を伸ばしながら。私はカップを持っていた手を止めて
「碧くん、あんた、じゃないでしょ」
ちょこっとにらんで言った。そんなにらみなんて碧くんに効くわけないんだけどね、けど、やっぱりいくら碧くんの口が悪いからって、初対面の方にそれはちょっと失礼かな。せめて、あなた、のほうが。
そんな私と碧くんを見て、キツネは申し訳なさそうに笑いかけながら
「いいんですよ。お気になさらずに。――私があなた方を呼んだ、というよりは、あなた方の方が『選ばれてここに来た』んです」
「……なんか、いやーな感じがするな……」
嫌そうな顔をして言う碧くんをよそに、どういうことなの?と私が聞きたがるのでキツネは話してくれた。私と碧くんが「ここ」にいる理由を。
話は大体こんな感じだった。
この気象所は私と碧くんの定期に書いてた「七ノ森」という、動物が人間のように服を着たり、二本足だ歩いたり、あと、働いたり勉強したり、ていう人間みたいな暮らしをしてることの一つの町なんだって。
で。私と碧くん、その他大勢のいわゆる「人間」の暮らしてる場所と、この七ノ森のような場所は、実は共存してるそうなんだけど、行ったり来たりはできないんだって。
けど、何かの拍子に二つの場所の接点(今回の場合、汽車と線路だったらしいんだけど)が出来ることはあるらしいけど、ほとんどの場合相手側の場所にいるということは認識せずに過ごすんだって。
そうね……たぶん、私と碧くんも、着いた駅が「七ノ森」じゃなくって、「いつもの駅」で普通に人間がいる駅に着いてたなら、途中目が覚めて動物が乗ってたこと……は、おそらく夢として深く考えもしなかったと思う。お互いの場所に干渉をするのをできるだけ避けるため、なのかなぁ。うーん。確かに深く詰めると今の人間の場所での生活に支障がきたしそうなことはあるかもしれない…
で。七ノ森を含むこっち側の場所全体を治めているのが龍神様。ちなみに、人間側全体を治めてるのは教えてもらえなかった。あっち側のことだから知らないんだって。
こっち側の世界に異変が起きたのは、二、三か月前。雨も風もなくてただ太陽が照りつけるだけの状態が続いてるんだって。今のところはまだ今まで貯蓄していた水で何とかしのいできたんだけど、これ以上続いちゃった場合、水がなくなってしまって大変なことになっちゃう可能性が高いんだって。
だから、気象所の所長であるキツネが代表としてどうしてこうなってしまったのかってことを、大昔からここに住んでいる大樹に聞きに行ったわけ。ここらあたりは、科学の力で解明しようとするあっち側とは違うんだね。
「いったいどうしたら天気は元に戻るんですか?」
「――空に、月と金の星が交わる日に二人の能力を持った者がここに導かれてやって来るだろう。その者たち二人を龍神の住む東の山に連れて行くといい」
大樹はそう答えて、こう付け足したんだって。
「雨も風もないのは、この地の統治者であると同時に雨・風を司どる龍神の力が弱っているからだろう。それ故、天気に異常をきたしているだ」
って。
キツネはそこまで言うと、紅茶を一気に飲み干した。
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