第3話

「お前は子竜を助けろ! 無理はするなよ」

「お任せを。お兄さまも、お気をつけて」

 ヴァレリに併走していたルネッタは、翼を大きくはためかせて、左へ逸れる。

 剣を両手で持ち替えながら、ヴァレリも足を大きく踏み出した。

 ルネッタによって強化された体は風のように軽く、素早い。

 子供に凶器を向けていた侵入者の背後へ回り込むと、剣の一振りで首を切り落とす。

 泣きわめく子供を片腕で抱き寄せると、地面を蹴って屋根の上に移動した。

「僕、怖いだろうから、しばらく目を閉じているんだよ」

 子供は泣きながらもうなずき、ヴァレリの肩に顔を押しつけた。

 侵入者達はヴァレリめがけて攻撃を放つ。

 米粒程度にしか見えない弾丸は、人の目では捉えられないほど早い。

 だが、ヴァレリは全ての弾丸を視覚に捉え、剣で弾き落とした。

 さすがに侵入者も驚いたのか、一瞬隙が生まれる。

 それを見逃さなかったヴァレリは、即座に地上へ降り、一撃で敵の首を落とした。

 ひとまず目に付く敵を倒すと、空にいた守衛たちがヴァレリの傍に降り立った。

「ヴァレリ君、ありがとう。助かったよ」

「どういたしまして。この子、頼めますか?」

「ああ、預かろう」

 子供を守衛に預け、ヴァレリはきびすを返す。

 まだルネッタが侵入者と戦っているのだ。

 子竜を背に隠して奮闘している彼女を見つけると、右足を深く踏み込む。

 たった一度地面を蹴っただけで、ヴァレリの体はルネッタを襲う敵の背後へ移動していた。

 敵に気づかれる前に、剣を横へ一閃し、一人首をはねる。仲間の首が地面に落ち、驚いた侵入者は得物をヴァレリに向けた。

 直線的に発射された弾丸は、軌道が読みやすい。

 というより、まっすぐしか進まない。

 撃ち出された弾丸を全て斬り捨てると、ヴァレリは剣をひるがえし、鎧の隙間から敵の喉笛に押しつけた。

「武器を捨てろ。地面に這いつくばれ」

 侵入者はくやしそうに顔を歪める。

 おとなしく両手を挙げ、地面に伏せるかと思ったが、

「あぐーーっ」

 兜の下から、うめき声と共に何かが転がり落ちた。

 舌だ。

 ヴァレリが気づいたときにはすでに遅く、敵は糸の切れた操り人形のように、地面へ倒れ込んだ。

「くそっ」

 侵入者について何か手がかりが得られるかと思った手前、敵の自殺を考えなかった自分に対し、ヴァレリは憤った。

 それをなだめるように、ルネッタが寄り添う。

 頭部を肩にすり寄せ、鼻を鳴らした。

「お兄さま、御山をご覧下さい」

 彼女の尾を追うように霊山を見ると、ひときわ大きな戦艦が、霊山の真上に滞空している。

 あの場所には今、アルマンがいる。

 彼だけではなく、護衛の人間や、彼らを霊山まで運んだ竜達も一緒のはずだ。

 リフロディアの警備を任される守衛ですら、侵入者には苦戦している。

 ましてや護衛程度、剣を抜く前に殺される。

「父さん・・・・・・!」

「急いで霊山へ参りましょう! どうぞ、わたくしの背に」

 ヴァレリは即座にうなずき、姿勢を低くしたルネッタに飛び乗った。

 勢いよく飛翔する彼女のたてがみを握りしめ、どうか父達が無事でありますようにと、祈るしかない。

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ELENORE 〜竜騎士ヴァレリと悪しき女神〜 哀楽 @airaku0616

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