息の糸
神﨑公威
温い。
もう朝が来たらしい、そして近頃毎日のように感じていたナイトブラのずれた感覚がない。もしかして付けて寝なかったのか、なぜだろうか。温い布団の中、私は考え始める、そして同時に音を聞いている。声になりかけの音、音の糸がゆったりとでてゆく。その糸の出ている方を向き横になっている私は瞼をゆっくり開ける。そして強く閉じ、また開けて弱く閉じる。よほど疲れて寝ていたのか朝に弱いせいなのか、はたまた両方が原因だろうか瞼が重たい。重たい物を動かしてやっと見たところには知った女子の額、眉、閉ざされた瞼に長いまつ毛、それらは音の糸と共に動いていた。深い音、聴きながら私は目を閉じた。そして額に唇を近づけた、あぁ、優しい温かさだ。
昨晩何があったのか、絶対に思いだそう。私は以前より彼女を気になってはいたが愛すという気持ちを今ほど持ってはいなかった。
確か、一週間ほど前に彼女は彼氏を振ったと言っていた。そして昨日は女二人で心置きなく飲んで話そうと私の家へ来た。そこまでは確実に覚えている。そこからは...たぶん着いてから、私のソファで二人で飲んでいた。が、彼女はあまりお酒は強くなかったようだった。しかし、彼女は何度も飲んだ。別れ話を持ちかけてきたのは彼氏側ということを泣いて言いながら、確か、そう言いながら飲んでいた。私も彼女に合わせるように飲んだ、彼女はすぐに涙に眼を赤くして酒で顔を火照らせて私を見ていた。
その顔を見ながら私は接吻をしたような気がする。あの顔を見ていると無性にしたくなった、この衝動と動作はかすかに覚えがある。私は唇を震わせている彼女にいきなり口づけをした。酒の味が、匂いが強くその濃度だけでクラっときた、しかし私は彼女の辛さや悲しみを吸ってやるような気持ちで口づけを交わし続けた、歯茎の裏へ舌を入れてやると彼女の身体は一瞬固まったがすぐに溶けた。徐々に強かった酒の味は甘い彼女の唾液の味へと変化していった。甘い。もっと飲んでいたい。そう思ってから私はどうしたのだろうか...
そういえばナイトブラのない違和感というか服のない違和感を感じた。床には彼女のと私の2つの服が落ちていた。目が覚めてから少し考えすぎたようでもう二度寝できないほどに冴えてしまっていた。温い布団の中、冴えきった私は彼女の唇をまた吸った。すると、彼女は吸い返してきた。なんだ、起きていたのか、気づけば音の深い糸、寝息は消え、少し早めの呼吸と強い鼓動が彼女から感じ取られた。そうして、眠りはしないが私たちは目を閉じあっていた。
息の糸 神﨑公威 @Sandaruku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます