21

俺は、黙って救急車を見送った。

さて。


やる事は決まっている。


「どいつだ、賢人を傷つけたヤツは……‼︎」


俺は、怒りのあまり、ドン、と拳を壁に殴りつけた。

未だに、少し血が残っている。

(…………)

ふと、時計を見やる。時刻は午前7時30分、もう数人のクラスメートはこれに気づいて動揺している。

だが俺がまだ閉じこもっていることで、教師も生徒も中の様子を確認できていない。

救急車が来たときには開けたが、パニックを少しでも抑えるためにまた鍵は閉めた。


ドンドンドン。

音がする。


おそらく、教師か賢人の親友がドアを開けようとしているのだろう。

さて、次の話だ。

ここから、いつ抜け出そうか。

もちろん鍵を開けてただいまーなんてことはできない。

かといって、コッソリ抜け出すのも難しい。

しかしこうやって考えている間に、教師はなんらかの手を打ち無理やりドアを開けるだろう。

窓から脱出もできなくもないが、それも見られたらアウトだ。


そもそも、なんで俺がこっそり抜け出す方法を模索しているのか。

それは俺に疑いの目を向けられるのを回避するためだ───

であれば、大分選択肢は限られてくるが……?


「よー、迅火。困ってるみたいだな」


フレイの声。……⁉︎どこから⁉︎

俺は慌てて声のした方、つまり後ろを振り向く。


「あー、落ち着けって。話は大体読めた、賢人が襲われたんだろ?」


そこまでは知っていても何ら問題はない。だが、どうやってここへ……


「ま、とりあえずそろそろ見つかりそうだし、とりあえず

「入る?それって……」

「いいから、とりあえずこっち来い」


フレイはそう言い、俺の手を強引に引っ張る。

そして連れていかれたところは……


「まずは、俺がなんでここにいるのか、この変なとこはどこなのか説明しようか」


変なところ──回りはよくわからないような、混沌の茶や黒の模様があるし立っているところも地面ではない。まるでその模様の上に浮いているようだ。


「俺の能力は、『空間隔絶』。まああれだ、空間を自在に操れるのさ。ありもしない空間をつくったり、空間にひずみをつくって壁や物を通り抜けたり。さっきの二つはこの理由だ」

「なるほどな。で、これからどうするんだ」

「どうするっていうのは……たった今のことか?それとも、少し先の話か?」

「両方だ」


空間が現実とは隔絶されているのはわかった。だが、ここから抜け出すのも必要だし、さらには賢人襲撃の件をどうやって処理するか。


だが俺の両方という回答に対し、フレイは思いがけない言葉を返した。

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