19

「……お、いらっしゃーい」


姉貴は、家に帰ってくるとセレカをそう言って迎えた。

時刻はすでに午後7時半。まだ雨は激しく降り続いており、未だにセレカは帰れそうにない。


「……すみません、急に押しかけてきてしまって……。ご迷惑ですよね?」


セレカは妙に丁寧な敬語で、謝ってきた。

それを姉貴は、笑って軽く受け流す。


「いーっていーって。困ったときは、お互いサマでしょー」


……この人がお互い様と言うと、本当に向こうに何かしでかしそうで心配だ。

まあ、セレカとしては本当にそれで構わない、と思っているのかもしれないがな。

さて。


「そういえばセレカ、夕飯はどうするんだ?何か持ってきてるか」

「……いや、何も」


まあそりゃそうか。もともとセレカは動画を見に来たのだから。

となれば、もう答えは一つ──


「なら、うちで食べてくか?」

「えっ?」


それしかないだろう。というか、もともとこっちから泊まってけよーと言ったのだから、そのくらいしてやるのが筋だろう。

そもそも、クラスメイトを助けるくらい、それこそお互い様だ。


「……じゃ、じゃあ、お言葉に甘えてっ」

「よろしい」

「どこから現れたんだよ姉貴……」


というわけで、共に夕食をとることになった。

夕食というより、晩飯だが。


「できたぞー」


俺はそう言って、テーブルの上に餃子の乗った皿を置いた。


「おおー……」


セレカが目を輝かせた。まあ、夕飯にしてはけっこう遅い時間だし、早く食べたい気分はわかる。


「ね、迅火くん、これ冷食?」

「いや、手作りだ。とはいっても、適当に具を詰めて皮で包んだだけだけどな」

「へぇー……」


別に冷食だろうがそうじゃなかろうが、大して差はないだろう。もともと、俺は餃子を作るときに冷食の餃子を参考にしたのだから。


「ま、じゃあ」

「いただきまーす」


俺たちは手を合わせて、ご飯を食べ始める。

今日のメニューは簡単、白米に餃子、コンソメスープ、ポテトサラダだ。コンソメスープは素を使ったので、だいぶ手間が省けた。


「そういえばさ」

「はい?」


姉貴が、ふとセレカに問う。


「セレカちゃんってさ、迅火のクラスメートなんだっけ?」

「はい、そうですよ……うまいうまいっ」

「ならさ……ちょっと聞きたいんだけど」

「?」


嫌な予感がする。例えばこう、俺に友達はいるのかとか───


「迅火ってさ、いっつも休み時間とかどうしてんの?ぼっち?」

「っおい」


なんで俺はこう、フラグ立てるのが上手いのか。

そんなギャグみたいな展開は狙ってませんが。


「んー、まあそこそこ楽しそうですよ?」


そこそことか言ってごまかすのやめろ。いよいよ悲しくなってくる。

というか、姉貴がこんなこと言い出すから……


「へぇ、そこそこねぇ。……んじゃ、セレカちゃん、迅火とはどうやって出会ったの?合コン?」

「なわけないじゃないですか。……迅火くんは、私が家の鍵をなくしたときに一緒に探してくれたんですよ」


セレカが、わずかに頬を赤らめながら言う。

……正確には、『探させた』だけどな。


「おおー迅火、やるじゃん」

「黙っとけ」


隙あらばからかってくる姉貴を、俺は一蹴。

とんだ茶番だ、まったく……


「ね、ね。じゃあ、迅火の恋バナとかは……」

「何聞いてっ」

「……えー?私は知らないですけどー……」


なんやかんやで、こんな話が30分も続いた。

もっとネタあったろ……

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