18
おそらく、賢人は巫女装束とは不思議だなと俺に渡してきたのだろう。ただの高校生の一般人が、神話の知識を持っているわけないからな。
だが俺には、こいつは確実にイザナミに見える。
理由はって、それ以外の何物にも見えないからだ。
一般人が、こんな手の込んだ“コスプレ”なんてするはずがないからな。
「……?迅火くん、どうしたのっ?」
セレカの声で、俺は我に帰る。
どうやら、少しリアクションが大きすぎたらしい。
「……あ、ああ、大丈夫だ。こいつらは一体誰なのかと思ってな」
俺は慌てて誤魔化す。
俺がこいつら、正確には沖田遼平と縁があるなんて知られたらいけないからな。
「ほんとだよねー。……ね、迅火くん」
セレカが俺に尋ねてくる。
俺は、なんだろうかと、セレカの方を向き先を促す。
するとセレカはビデオを止め、そして沖田を指差して言った。
「わたし、この人……どこかで見たことあるよ」
なっ‼︎
そうだ、俺が知っているくらいなんだ、日本人は沖田のことを知っていて当然だろう。
なぜその可能性を……っ!
「……そうなのか?」
俺はセレカがどう思っているのか確かめるために、敢えて聞き返した。
「うん。なんか、どこかで見たことあるようなー……?」
「誰なのかはわからないのか?」
「……迅火くんがわからないぐらいなんだもん、わたしにわかるわけないよーっ」
「そうか……」
よかった……。
俺は思わず、ほっと安心する。
もしここで、セレカがJ-ノグリーフどうこう、などと言い出そうものなら、俺はセレカと縁を切らなければならないかもしれなかった。正体を隠すためだ。
極端すぎると思われるかもしれないが、その極端なことをしなければならないほど、俺の立場は危うい。だからできればいつまでも沖田がどのような人物なのか、わからないほうが良い。
「……まあ、もしかしたら昔会ったことがある人に似てたってだけかもしれないしな」
俺は、あくまでも自然な流れで俺の正体から遠ざける。これも重要なことだ。
「……かなー?ま、いいや。それよりもっ!」
そう言うと、セレカはばっと立ち上がった。
「動画も終わったことだしっ、今から賢人くんのところに……」
セレカがそこまで言った瞬間だった。
ゴロゴロゴロゴロ……ズドン‼︎
「ひっ!」
「……」
どうやら雷のようだ。……雷?
俺は慌てて外に目を向ける。
そうしたら……案の定、大雨が降っていた。
「……ゲリラか」
「えーっ、そんなーっ⁉︎え、え、じゃ、わたし、どうすればいいのーっ?」
セレカは人が変わったようにテンパる。……まあ、無理もない。まさに、青天の霹靂、だからな。
「……もう5時だしな……姉貴に電話してみる」
「?」
この際仕方ないが、雨が止むまでセレカにはここにいてもらおう。流石に俺も、この大雨の中、帰れなんて非情なことは言わない。
「……セレカ、いいってさ」
「なにが?」
「うちにいても」
「……あ」
セレカは意味を察したのか、なるほどと頷く。
まあ姉貴とこの大雨と俺のセリフとくれば、何を言っているかくらいはわかるだろう。
「……いいの?いつ止むかわかんないのに」
「それなら泊まってもらってもいいさ。あくまでも、お前の親の了承を取ってからだがな」
それにしても……。
この映像は、必ずや必要になりそうだ。
上への報告もしなければならないし、持っておくべきだろう。
「じゃ、動画終わったな。俺がSDカード預かっておくよ」
俺はそう言って、SDカードを回収する。
もちろん、これをそのままパクるわけではない。
コピーをとらせて貰うだけだ。
俺は自室へそれを持っていき、映像のコピーをとった。
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