11
まあ頼みごとなら、仕方ないか。
俺はもうそう考えることにした。
なぜって?
……だって、二時間探して
これって?
……全く進展していないという状況だ。
俺は放課後、荷物をまとめ校門へと向かった。するとセレカが手を振り、
「あっ、来てくれたんだー。ありがとー」
と言ってきた。このお礼にはどのくらい気持ちがこもっているのかはわからないが、そんなことはどうでもよかった。
「じゃ、早速始めようか。えーと、……刈岡くん」
……せめて、手伝ってもらうんだから、その人の名前くらい覚えておいたらどうだ?
……まあ、もしかしたらこいつがものすごく薄情な人かもしれない。それともただ単に天然なだけかもしれない。
そう思う俺が、一番薄情な奴なのかもしれないが。
……そして、今に至る。
下校時刻いっぱいまで校舎内を探し、見つからなかった。ということは、校舎の外ということになるのだろう。……道端で落としたとか、知らんぞ。
「ほんとごめん、まさかこんなにかかるとは……」
まあそれについては同感だ。なにせ校舎内を約一時間、そしてグラウンドや中庭など外を一時間。ふと外に目を向けると、カラスが鳴いており日ももうすぐ落ちそうだ。
「……まあ鍵がないと入れないんだろ。いいよ、あれだ、乗りかかった船だ。見つかるまで探してやるよ」
さすがに俺もつらいとはいえ、黙って困っているクラスメートを見過ごすようなことはしたくない。
「う……ありがと」
それから、また鍵を探し始めた。
外で鍵がありそうなのが、中庭と建物の裏、それに花壇ってとこか。
……なんとも、面倒くさいところが残ったものだ。
だが、探すしかない。
「んー……どこにあるんだー?」
俺は呟きながら目を光らせる。
側溝の中、倉庫の奥、フェンス──
ありとあらゆる場所をくまなく捜索する。
「ないぞ?」
俺は、独り言を零した。
そして、さらに一時間後。
「はぁー……見つからねぇぞー?」
午後六時、いつもならもう夕食の時間だ。
こうなっては当然ながら賢人との約束は果たせず、最悪の場合姉貴が夕飯を出してくれないかもしれない。
ただこれは俺の事情だから、それで探すのをやめるわけにはいかない。夕食と家の鍵、天秤にかけてみればどちらのほうが大切か、よくわかる。
……まあ、そもそも俺が鍵を探されてるのも、セレカの事情なのだが。
「あーっっっっっ‼︎」
セレカが、突然思い出したように呟く。
一体何事だ。
「……どうしたんだ?もしかして、もう時間が……」
俺が言葉を言い終えぬうちに、セレカが自分の鞄を探る。……やめてくれよ。それだけは、やめてくれよ?
「あっ……た……」
見ると、セレカの鞄の横のポケットに、鍵がぶら下がっている。……まさか。
俺はそれにはずっと前には気づいていたが、セレカ本人も知っているものだと思い、学校のどこかの鍵だろうな、とでも思っていた。
それがまさか、家の鍵だとは。
「〰︎〰︎〰︎〰︎」
セレカはおそるおそる、こちらの方を見る。
その目は虚ろで、額には冷や汗を浮かべている。
「………」
次の瞬間、セレカはばっと、勢いよく頭を下げてきた。
「ごっ、ごめんっ‼︎」
……まあ、セレカの不注意とはいえ、こいつには非はないだろう。
それに、今更俺が責める気もしないしな。
「……まあ、あったならいいさ」
とりあえず俺としては、すぐ帰りたいものだ。
と、その時、タイミングを見計らったかのように。
ブー、ブー、ブー。
俺の携帯が鳴った。
「ん……?」
見ると、メールが届いているようだ。差出人は……姉貴か。
俺は悪い予感を抱きつつ、メールを確認する。
そこには、こう書いてあった。
『もう迅火が帰ってこないから、今日の生姜焼き、迅火の分まで食べちゃいました〜
てなわけで、迅火、どっかで食べてきてね〜
あ、もちろん自腹でね。
迅火が愛してやまないであろう京子お姉様より』
……あんのくそ姉貴。
何が俺が愛してやまないであろう、だよ。
俺は舌打ちしながら、ガシガシと頭をかく。
「はー……」
すると、セレカが怪訝な表情を浮かべ、こちらを覗き込んでくる。
「?迅火くん、どーしたのーっ?」
「……いや、ちょっと、な。……ま、鍵も見つかったし、帰っていいか?」
するとセレカは暗い表情を浮かべ、鞄から財布を取り出した。
「ね、もしかして、ご飯は外で食べてきなさいってことー?」
……なんと鋭いやつだ。これを、家の鍵にも使えばよかったのに。
俺がたじろいでいると、セレカはふふっと笑って、
「……そっかー。なら、こんな遅い時間まで探してもらったことだし、なんか奢るよー!」
「……えっ、いいのか?」
「もちろんもちろん。……ね、迅火くん、どこがいーい?」
ハイテンションで言った。まあ、この際だから、素直に奢ってもらうか。
「……そうだな……俺はどこでもいいんだけど」
「んー……、それなら、私の行きつけがあるんだー。一緒にそこ行こっ!」
なるほど、行きつけか。この性格のことだから、行った回数は10回じゃきかないだろう。となれば、相当美味しいものが出されると思っていい。
……それなら、まあお礼としてでも悪い気はしない。
「……ああ、そこにするか」
「んっ!じゃ、レッツゴーっ!」
俺たちは、セレカの行きつけの食堂へと向かって歩き出した。
さて、どんなものが出てくるのやら。
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