10
……それにしても、次から次へと……。
俺は、何回トラブルに会えばいいのだろうか。
ふと、教室に入ってきたフレイを見て、そう思った。
「いやー、まさかあそこでお前がシュート決めるとはなー」
「まー……シャルがあそこでいいパス出してくれたからな」
どうやら話を聞く限りでは、フレイはクラスメートたちと昼休みにサッカーをしていたらしい。……盗み聞きの限りだが。
「ぷは〜っ!いやー、運動後のスポドリは美味いなー」
見るとフレイは、水筒に入ったスポーツドリンクをがぶ飲みしている。……なんとも。昨日あんなことがあったのに、よくもここまで普通のクラスメートを装えるな……。
っと!
俺は、フレイと目が合う。どうやら俺は、フレイを凝視しすぎていたらしい。
俺はどう返せばいいか迷った。もうフレイが復讐を望む、黒い人間だと知ってしまった今、今みで通り普通に会釈などはできない。かといってここは教室の中だ、何か特別なことができるわけでもない。
するとフレイの方から、左目を一瞬瞑ってきた。つまり、ウインクだ。……それは、もっと、な……。
とまあ、俺がそんなことをしていると。
「あーっ‼︎」
教室の中心で、叫ぶ声が聞こえた。
見ると、学級委員である、セレカ・マーレンが、何かを思いだしたように慌てふためいていた。
「やっばーい、家の鍵なくしたーっ‼︎」
すると二つのことが同時に起きた。
一つは、セレカがクラスを見渡したこと。
もう一つは、クラスメート全員がセレカから目を逸らしたこと。
「……?」
俺は、クラスに何が起きたのかわからなかった。だが、かといってクラスメートに合わせる気もしないので、俺は先ほど読んでいた本に視線を戻した。
だが、セレカが教室を見渡していた理由はすぐにわかった。……災厄という形で。
「んー……。一人じゃ見つけられないかなー。誰か手伝ってくれる人はいないかなー。暇人いないかなー」
頰に手を添えながらそう言うセレカは、どこか白々しい。……まさか!
俺の予想を嘲るように、クラスメートたちが言う。
「い、いやー、俺今日塾なんだよ、なー」
「あっ、やーっべ、俺も今日大事な用事があるんだった!」
「あっ、えっ、私は……じゃあ、美容室が……」
じゃあとか言ってる時点で、もう嘘確定だろ。
……待てよ?暇人と言ったな?
俺は、暇人から連想されるモノを想像する。
……読書している人。
あっ
「あーっ、こんなとこにー!……ねぇねぇ君、ちょっと私の家の鍵探すの手伝ってくれなーい?」
セレカの目は、バッチリ俺を捉えていた。……くそっ、この女狐が。
「……?なんで、自分の責任なのに人に押し付ける?自分で探せばよかろう」
俺は、おそらく無駄だろうなと思いながら正論を口にしてみる。
しかし案の定、それはことごとく打ち破られる。
「えーっ?私、いーっつもクラスのために働いてるのになー?……ねっ、一生のお願いっ♪」
……そんなキラキラした目で俺を見るな。
……ああー、もう。
「……はいはい、わかったよ。でも、今回だけだからな?」
というか、一生のお願いって……。お前の一生、軽すぎないか?
だがそうなると、賢人との探索は無理だろう。まあ早く見つかればその限りではないが、なくしたということはすぐに見つかるものでもないだろう。
……まあ仕方ないか、賢人との約束は明日にしよう。
こちらはなんとしても今日やらねばならないのだから。
「あっ、ありがとーっ。じゃ、放課後、一緒に探そーねっ」
そう言って、セレカは教室から駆け出していく。……全く、なんなんだよこの茶番は……。
ふと気づくと、クラスメート全員が、俺を憐れむような目で見ていた。
……悲しくなるから、やめろ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます