第2章 喰われし平穏

9

「いやー、辛かったわぁー」


朝、教室に入るやいなや、賢人が俺に抱きついてきた。

とりあえず気持ち悪いので、俺は賢人を払いのけ自分の机に鞄を下ろした。


「抱きつくな気持ち悪い。で、どうしたんだ?」


さりげなく罵倒しておき、俺は賢人に問うた。

すると賢人はため息をつき、語り始めた。


「それがさー……昨日の夜のことなんだけどよ」


話を聞くところ、こういうことらしい。

賢人は昨日、夕飯を食べた後部屋で勉強しようと思っていたら、窓から人影が見えたそうだ。

だが、ただそれだけで俺に話すわけでもあるまい、その人影はとても速く、かつ建物の屋根を飛び移って移動していたそうだ。

ちなみに、賢人の家はマンションの上層階であり、外の景色を見下ろす形になるため、この言葉に間違いはないだろう。


「確かに、それは不気味だな……」

「だよな。……怖いこともあるもんだなー」


高速で建物の屋上を飛び移る人影など、不気味以外の何者でもない。ましてや夜だ、何の目的があってそんなことをしているのか。


「てなわけでさ、迅火、悪ぃんだけどさ……」


おい、ちょっと待て。まさか君、一緒に探索に行こうぜなんて言う気ではないでしょうね……?


「ちょっと、そいつの正体、確かめてみよーぜ」


おい。

……まあ、口ぶりと言葉からして、こいつまで⚫︎⚫︎にいる人間だとは思えないから、少し安心だが。

……安心だが、その賢人が見たという人物が、もしかしたら「そういった」人間かもしれない。

でも、まあこいつに悪気はなさそうだ。それに、友達たるもの、たとえ仮でも一緒に行くのが筋ってものか。


「……おう、いいぜ」


俺は了承する。まあ、すごく望みは薄いが、これでJ-ノグリーフの裏を探れるかもしれないし。


「そうか!ありがとう!てなわけで……」


賢人は、不敵に笑った。


「今日の放課後、早速捜査にレッツゴー!」


ま、まあ、まさか、今日も、また、変なのが、出てくるわけじゃあ、ない、よな?

……別にフラグを立ててるわけじゃないからな?

俺は、心の中で、誰にかけようとしたのであろう言葉を発した。


だが、これが本物のフラグになろうとは。

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