7

そして、廃墟地域。


「……ここか」


今俺の目には、誰もいない古ぼけたビル、スプレー塗料でよくあるような落書きをされている倉庫、膝下まで生い茂る草、そしてフレイ。主にこの4種類のものが映っている。


「それで……傷痕っていうのは」


俺が言うと、フレイは倉庫の方を黙って指差した。

なるほど、真一文字にシャッターが裂かれており、不自然な形でそこだけ荒らされていた。

確かに真相を確かめたくなるのはわかる。


⚫︎⚫︎見たら、こんなんになってたんだ。傷痕のつきかたも変だし、ちょっと迅火についてきてもらおうと思ってな」


……一見筋は通っているように見える。

だが、このフレイの言っていることは穴だらけだ。

……俺はカマをかけてみる。


「なるほどなー。……にしても、フレイ、⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎


するとフレイは、へへっと笑っていう。


「いやー、昨日のあの後、ちょっとヤボ用でここらへんに来たんだよ。そしたら、こんなことになっててさ……」


(……用意してきた返答だな──)

俺は直感的にそう思った。

ヤボ用と言ったが、一体五時半から、ここで何をしたのが“ヤボ用”になるんだ?


「……そうか。で、この後は?」

「……へ?」


とぼけるな。俺がカマをかけていることくらい、とっくに気づいているだろうに。


「いや、だから、この後だ。傷痕を見たはいいが、それからどうするんだ?まさか、この傷痕をつけた人物を調査しよう、とでも?」

「──まさか。いや、一応迅火にも見てもらいたくてな。……この後、何も起こらないといいんだが……」


……何が俺にも見ておいてほしい、だ。本当なら、そんなくだらない理由のためにここまでするか。


「……だが?」


一瞬の沈黙。

やがて、フレイは言葉を紡いだ。


「……ま、大丈夫そうだからな。じゃ、迅火、帰るか」


茶番はもういい。

お前の算段はこうだろ──

この後、廃墟倉庫街を出るあたりで異形⚫︎ ⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎と遭遇、俺の値踏みをする。

そしてあわよくば、俺をある施設への、フレイの復讐計画に勧誘──

それを俺は『予見』。


「そういうことか」


俺は、わざとフレイにも聞こえるような声の大きさで、呟いた。


「どうした?」


フレイは、あっけらかんとした態度で俺に問う。

……もういい。真実を話せ。


「やめにしよう」

「何を?」

「この茶番を、だ」


一陣の風が吹く。

お互い、何も喋らない。

静寂が訪れる。

静寂が支配する。

静寂が場を司る。


「茶番?なんだってそんなこと……おい、どうしたんだよ。居眠りしたり、全く今日の迅火は……」

「フレイ・ドルセラー」


俺は、呼ぶ。

元、友人の名を。

現、⚫︎⚫︎⚫︎の名を。

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