5

それは、まだ、記憶が朧げな頃──


ぼくは、逃げていた。

どこから?

えーっと……確か、白い服の人がいっぱいいて、機械がたくさんあって……ぼくを「けんきゅう」するところから。


今日も、ぼくは、ここへ連れてこられた。

言葉は分からないけど、白い服の人が笑ってぬいぐるみをくれた。

ぼくは、それが嬉しくてずっとそのぬいぐるみで遊んでいた。

だけど、少したった頃に……。


ドオオオオオォォォォンンンンン‼︎‼︎‼︎


すごく大きな音が鳴った。

それと同時に、部屋の壁が崩れて、破片が飛び散る。

煙の中から、また人が出てきた。


「〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎」


白い服の人だ。でも、言葉が全然違うような感じがするし、顔がすごく違う。

後からやってきた白い服の人は、何かを叫んでいた。


「〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎!〰︎〰︎〰︎〰︎!………〰︎〰︎〰︎⁉︎」


そしたら、えーと、今度は……また後ろから人が出てきた。でも、白い服じゃなくて、黒とかの、しましま模様みたいな服で、黒いごつごつしたものを持ってる。


ドォン‼︎ドドドドドドドドン‼︎


黒いごつごつしたものから、いっぱい何かが出てきた。でも、速すぎて何が出てきてるのかは、ぼくにはわからなかった。


ドドドドドドドドドドドド、ドドドドドドドドドドドド………。


いっぱい、何かが出てくる。それに当たった人は、体から赤いのを出してる。

これは……血?

だいぶ前に、ママが教えてくれた。


ママ……。

突然白い服の人につかまえられて、それからぼくはここへ連れてこられて。それから一回も会ったことないや。


ドゴォォォォォォォォォォォン‼︎


空を、飛んでる?

と思ったら、ぼくのからだが落ちて、地面についた。


「〰〰〰〰〰‼︎‼︎」


いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい‼︎‼︎‼︎


ねぇ、たすけて!白い服の、お兄ちゃんたち!

いたいよ!

なんで?今まで、ぼくがつらかったらたすけてくれたじゃん!

ねぇ、なんで?なんでよぅ……

いたいよぉ……


「うわああああああぁぁぁぁぁっっっっっ、わああああああーーーーーーん」


ぼくは泣き出してしまった。

だって、いたいんだもん。

ぼくのからだから、いっぱい血が出てる。


燃える。

燃える、燃える、燃える。


ぼくが泣き止んだころには、まわりはみんな燃えていた。

白い服の人が、いっぱい倒れてる。


ギロッ‼︎


白い服の人の一人が、ぼくを睨む。

それから、あの黒いごつごつしたものを、ぼくに向けてきた。


「ひっ……」


声が出てしまった。


「〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎‼︎‼︎」


白い服の人は、何かを言ったあと、黒いやつから、さっきの何かを出した。


え…………?


ぼくの、みぎうでが吹き飛ぶ。


…………。


……………………………………。



────────────────


───────────────────。


〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎



〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎






「ちょっ、迅火。迅火ってば」


ん……?

ああ、フレイか。


俺は今、寝て……。

あっ‼︎


「あっ、やっと起きた、刈岡くん。だいぶうなされてたみたいだけど……どんな夢みてたの?」


俺は慌てて周りを見渡し、現状を振り返る。

……ああ、つい居眠りしてしまったのか。

クラスメイトたちの、俺を凝視するのがすごく痛い。


「おい、どうしたんだよ、迅火。らしくないぞ」

「ああ、すまない。……先生、すみません」


すると先生は俺に微笑んで、解説を再開した。

……それにしても、あの夢──

いや、夢、ではない。現実だ。

これは、俺の、2歳のときの記憶──


俺は毎日、白衣の男たちに、「研究対象」として扱われ、実験されていた。

俺を甘やかしていたのは、精神に影響が出ないようにするためだろう。


そして突然攻め込んできた軍服の集団。

手榴弾で壁を爆破して。

機関銃を構えていて。

今だからわかるが、あれはきっとロシア人だろう。


そして、悲惨な戦争。

その中心人物たる俺。

やがて、研究施設員のうち一人が、戦争の原因たる俺を憎み、銃を撃つ。



それで、記憶はおしまい。

ああ、なんで今更……。


俺は、動揺と恐怖心を隠すために、汚い字で、雑に黒板の字を書き写した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る