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「ただいまー」


俺は、玄関を開けて、家の中へと呼びかけた。

家の奥から出て来たのは……


「あら、帰ってきたんだ、迅火」


俺の姉貴、刈岡 京子きょうこだ。

性格は……言及したくもない。


「当然だろ」


俺は、姉貴の言葉に少々苛立ちを覚えながらも返事をする。

まあ、何はとまあれ、戦乱の中、俺を助け出してくれたのは他でもない、この姉貴なのだ。その一点については感謝している。

その一点だけは。


「帰ってこなくていいのに。学校でまだハーレム楽しんでれば?」

「死ね。というか、そもそもハーレムなんて」


こいつは、こういう冗談を平気で言う。

しかも、実の弟に帰ってこなくていいなどと……。

まあ、今に始まったことじゃないし、別に構わないが。


「まあ、晩御飯できてるよー」

「……毒は」

「どうでしょーかねー」


前はカマキリだったからまだ気づけたが。

……って、ハンバーグの中にカマキリ入れるやついるか?

まあいいや、とりあえず食うか。


「いただきまーす」


俺は箸を手に取り、夕食を食べ始める。

と、間髪入れず、姉貴が俺に聞いてきた。


「で、どーよ?」

「何が?」

「あれだよ。学校生活」

「どうした?俺の飯に盛るはずの毒、間違えて自分のに入れちゃったか?」


こいつがこんなことを聞いてきたのは、おそらく初めてだ。

第三次世界大戦のとき、姉貴は確か8歳くらいだったか。つまり、今はもう二十代半ばだ。

だがその間、一度くらい弟のことを聞いてもいいはずなのに、そのようなことは全くなかった。


「バカね。たまには聞いたっていいでしょ」

「たまに、なのかねぇ……」

「で、実際どうなのよ?あんたの性格じゃ、友達すらできるか分かんないし」


……まあ、それについては否定できない。

俺は──


裏切られるのが、怖いのだ。


いや、正確には、裏切るのは俺か。

いずれ戦争の元凶が俺だと露見し、誰もが俺から離れていく。それが俺は怖いのだ。

だから、結局ただの臆病ともいえる。

自分勝手とも。


「いや、でもいるぞ。何人か」


これは……半分ほど本当だ。

賢人たちは⚫︎⚫︎俺のことを友達だと思っているだろう。だが、俺は──?


「へーえ。あの迅火にねぇ……」


腕を組み、何か面白そうに考える姉貴。

その間ずっと、無言でかちゃ、かちゃとスプーンでスープを飲む俺。

……………

さっさと終わらせるか。


「じゃ、ご馳走様」


俺は皿の上に箸を置き、席を立つ。

「え、ちょっ、まだおかず残ってるよ?」

「あぁー……明日の朝食うよ」

俺は振り向かずに言う。

そのまま、俺の部屋がある二階へのぼる階段へと歩いた。


(余計なお世話だっての……)


俺は、何とも言えない、複雑な気持ちを抱えたまま宿題に取り組んだ。

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