第21話「結局俺はどの武器を選べばいいんだ……」
――ということで。俺たちは街の武具屋に来た。
あまり大きな店ではないが、初心者でも扱いやすい武器を取り揃えている。さらに、店主に相談すれば、右も左も分からない駆け出し冒険者の初期ステータスからふさわしい武器を判断してくれるらしい。
駆け出しの冒険者が多いこの街では、ほとんどの冒険者がこの店の世話になっているということなので、俺達もやってきたというわけだ。
「ケイタさん! これなんてどうですか!?」
チコナが指差す先には俺の背丈ほどの大きさの大剣。ゲームやアニメで主人公が装備していることが多い大剣ではあるが、はっきり言ってそんな大きくて重いものを振り回すのは無理だ。
「あっ、あれはどうですか!? 弓ですよ弓!」
チコナが背伸びをしながら指差す先には立派な弓。だが、弓矢はかなりの技術を要するはず。練習が必須なのは間違いない。怠けがちな俺には全く向いていないだろう。
「これは……っ! ケイタさん、とてもすごそうなものがありますよ! これにしましょう!」
興奮しているのか、だんだんと熱を帯びてきたチコナの目の前には大きな黒い鎌が置かれていた。
そんな大きいもの扱えないよ……なんて思いつつ、チコナが妙にテンションが高かったので気になってその鎌に近寄ってみると、
「え、なにこれ。『悪魔の鎌』? マジ?」
とても物騒な名前の斧だった。
「確かに細かい紋様や装飾で禍々しい印象ではあるけど……。さすがに本当に悪魔が使ってた物じゃないよな」
「どうでしょう……。なんだか強力な魔力を感じるので、もしかしたら本物かもしれませんよ」
なんてこった。なんでそんなものが駆け出しの冒険者向けの武具屋にあるんだよ。
「よぉ、いらっしゃい。駆け出しの冒険者か?」
店の奥から威勢の良い、髭が特徴的な男性が現れた。この人が店主だろう。
「あ、はい、そうなんです。どの武器がいいか、全く分からなくって」
「それなら俺に任せな! まずはギルドカードを見せてみろ!」
促されるまま、ギルドカードを手渡すと、店主の先ほどまでの笑顔が一瞬で消え、「まじ
か……」と小さく呟きながら俺のステータスを睨んでいる。
「ど、どうかしましたか? もしかして、俺の才能があまりに溢れすぎていてどの武器を勧めるべきか迷っているとか?」
「いや、むしろその逆だ。あらゆるステータスが平均、もしくはそれ以下。はっきり言ってここまで低い奴は見たことがない」
あれ。俺の冒険者人生、武器選択の時点で否定されてないか。
唖然とする俺にギルドカードを返し、店主は頭を抱える。
「すまねえ、こんなのは初めてだから、どの武器が合うかさっぱりわからん」
「ケ、ケイタさん! ドンマイです……っ!」
チコナがすかさずフォローを入れてくれるのだが、それが逆につらい。
あまり乗り気ではなかったとはいえ、せっかく冒険に出るつもりでいたのに、出鼻をくじかれた。
「ま、まぁ最初はそんなもんだ! 伸びしろがあるってことだから安心しな!」
店主もフォローしてくれるのだが、それが逆につらい。
「……で、結局俺はどの武器を選べばいいんだ……」
俺がそう呟いていると、小さな手が俺の服の袖を引っ張る。
「これなんてどうですか?」
チコナが持っていたのは小ぶりなダガーだった。
確かに他の武器に比べれば軽くて扱いやすいが、いまいち攻撃力に欠ける気がする。
「それならあんたでも使えるんじゃねぇか? ぶっちゃけどれでも変わらねえと思うぞ」
店主、あんたちょっとヤケクソになってない? 俺の可能性を見限らないで。
しかし、他に適した武器があるわけでもない。俺は渋々ダガーを手に取る。
「あんまり贅沢言える立場でもないしなぁ。これにするよ」
結局、ダガーを購入した。お金は昨日のキノコ狩りやイノシシ討伐でチコナが得ていた報酬金を使わせてもらった。チコナのお金を使うことを最初はためらったが、チコナが「私のわがままですから」と最後には説得された形でお金をありがたく使わせてもらうことになった。
ダガーを購入して余ったお金で、革の鎧も購入する。本当はもっと頑丈な防具が欲しかったが、試着した際にあまりの重量感に身動きが取れなくなり、諦めて革の鎧で身軽な格好になった。
「なんだか思ってたよりも様になりましたよ」
「思ってたよりってなんだよ。俺の可能性を見限らないでくれ」
「にいちゃん、さっきは失礼なこと言って悪かったな。これはそのお詫びだ。受け取ってくれ」
店主がそう言いながら差し出してきたのは、複雑な模様が描かれた白い紙。
「なんですか、これ」
「ダメージを肩代わりしてくれる特製の護符だ。あんたのステータスじゃ最初から苦労しそうだからな。それで少しでも長く生き永らえてくれ」
物騒なことを言う。だが、ありがたいのも事実だ。俺はお礼を述べてポケットに護符をしまう。
よし、準備は整った!
「さぁ、行こうか! いざ、冒険へ!」
「いえ、今日はもう行きません」
「…………えっ?」
ポカンとする俺に、呆れた様子の店主がカウンター越しに身を乗り出す。
「もう夕方だぜ? 日が沈んじまったら月明りだけが頼りだ。そんな危険な状況に自分から首を突っ込む奴はいねえよ」
どうやら結構長い時間装備に頭を悩ませていたようだ。もう夕方だったとは。
「買い物に時間をかけちゃうタイプですね」
「普段はそんなことないんだけど、今回は命が関わることだからな。慎重にもなるよ。それじゃあ、ありがとうございました」
「また来いよ! 色々な意味で期待してるぜ」
色々な意味でってなんだ。そこはきちんと誠心誠意で俺の武勇伝を期待してくれ。
この世界にはメガネが足りない @izurumatsubi
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