5-4 この愛だけは永遠に、胸に抱いていたかった。
優弥が美緑にプロポーズをしてから三ヶ月後。二人の結婚式が挙げられた。社会人になりたての二人に金銭的余裕はなかったが、彼らの両親が援助してくれた。
幼い頃から、お互いの子どものことをよく知っている二人の母親は「美緑ちゃんなら安心だわぁ」「いえいえそんな。優弥くんにお嫁にもらっていただけるなんて……。よかったわ本当に」などとにこやかに話している。
そして、美緑と優弥の挙式が執り行われる。
美緑は純白のウェディングドレスを着て、ヴァージンロードを歩く。
親戚や友人の前で、二人は愛を誓った。
変わらないものなんて、きっとこの世にはないのだけれど。
この愛だけは永遠に、胸に
「それでは、誓いのキスを」
神父の言葉に、美緑と優弥は向かい合った。
ゆっくりと、優弥の顔が近づいてくる。
唇と唇が触れる直前。
「幸せにしてね。優弥」
美緑は彼にだけ聞こえる声で言って、そのまま目を閉じた。
式は無事に終わり、披露宴が催されていた。
大学時代の仲間や、職場の同僚はもちろん、中学、高校時代の共通の友人も何人か出席している。大地や彩楓もその場にいた。二人が自然に話していたのを見て、美緑は嬉しい気持ちになった。
恋愛という形でなくても、二人にはお互いを尊敬できるような関係でいてほしい。そんなことを思った。
普段は食べることのない豪華絢爛な美味しい料理。きらびやかで上品な装飾。人々の笑顔。その全てが、幸せな空間を作り出していた。
美緑たち、新郎新婦の座る席には次々と友人や同僚が訪れ、祝福の言葉をかけていく。思い出話や近況報告に花が咲き、明るい笑い声が絶えなかった。
しかし、運命はどこまでも残酷で。
幸福を幸福のまま終えることを、決して許してはくれなかった。
「新婦のお色直しの時間です」
美緑が一度退場しようとしたその瞬間――。
彼女の背後で、バタンという音が聞こえた。
それは、人が倒れる音だった。
美緑の知らぬところで進んでいた、命を
運命に抗っていた一人の男に、その代償を払うときが訪れて——。
倒れた男に向かって、優弥が叫んだ。
「大地!」
本日の主役の一人が、美緑の夫となったばかりの男が、タキシードが乱れるのにも構わず、倒れた友人の元へと走る。
幸せで満ちていたはずの会場が騒然とする。
「誰か、救急車!」
優弥が怒鳴った。
式場のスタッフが、すぐさま倒れた大地へと駆け寄る。別のスタッフが青ざめた顔で電話をしている。
「大地! 大地⁉」
彩楓が取り乱した様子で、元想い人の名前を呼ぶ。
美緑は何が起きたのかわからず、ただそこに立ち尽くすしかなかった。
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