第3話

 右左前方後方どの方位に進んでいるのかさえ把握できないほどの揺れであるのに加え、真夏の日差しは本来ならば麦わら帽子必須なほどであった。全身がじりじりと蒸されているのを感じた。噴出した汗が傷口を流れていく。

 

 私の上空をバイクが飛んだ。何かが落ちてきた。

 白いヘルメットで真っ青のつなぎを着た、険しい顔の男だった。落ちてきたそれは、沼のような色をした手りゅう弾であった。厳密にはどうか分からないが、近くにあったらまずいことは確かである。

 

 まだ爆発していない。なんとか、そこに倒れこみ、私はその手りゅう弾とおぼしきものを咥えて、荷台から捨てた。それはしばらくすると破裂した。周囲にたくさんの金属片をばらまいた。忍者にでもなったかのような気分であった。


 やがて私は荷台の隅に陣取ることができた。揺れても壁となって支えてくれるためずいぶん楽になった。安堵した瞬間に血と胃酸を吐き出してしまった。我慢できず全て吐き出すほどだった。風速がきついため匂いが鼻についた。刃物と距離をとることもできた。そのとき、ようやく胸を下すことができた。


 しかし、それも束の間のことだった。何が起きたか分からないうちに私は遥か遠くに吹き飛ばされていた。荷台から投げ出されてふわりと宙に浮き、頭から地面に落下した。頭皮が裂けるのを感じ、首があらぬ方に曲がった。当然受け身をとれるはずもなく、全身を強打する。鼓膜を破られたかのような爆音が轟いた。

 

 [……です。 繰り返します。 北側応援団よりロケット弾の使用が確認されました。 係りの者は速やかに実行犯の排除を急いでください。 場所は……]


  

 聴覚を取り戻した時、私は仰向けのまま動けなくなっていた。肌は赤い場所ばかりになっていた。ガリガリと砂地に削られた私の皮膚片がその辺りに散っていることだろう。露出した神経の中に砂が入り込むような痛みだった。


 客席の南側が大変盛り上がっていた。ファールは、新しく有利に仕切りなおすことができるようだ。彼らは私のもとになだれ込む。するとビニールシートのようなもので私をくるみはじめた。抵抗する間もなく、ミイラのように丁重に運ばれた。


 歓喜だけが、私の耳に届くのだ。

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ある日、車にはねられて 古新野 ま~ち @obakabanashi

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