明日へ向かって

ユウ

第1話


 室内には人が多かったけど、騒いでいる人の姿はなく、皆熱心にテキストに見入ったり、ノートを見たりしている。

 僕も、見はするものの、昨日の夜、詰め込みすぎたおかげで、見ても見慣れたものばかりだったし、何より頭がついてこなかった。


 やがて、講師らしき人が部屋に入ってくると、今日の予定表が張り出され、皆はそそくさと片づけをし、筆記具を丁寧に机の上に並べる。

 皆そわそわとしていて、自信に満ち溢れた顔や、もうあきらめているのか、呆けたような顔が並ぶ。


 やがてプリントが配られ、いよいよ僕らは試されるのだ。今まで、僕らがどんな行いをしてきたか、どんな努力をしてきたか、それがついに試される。





「どうだろうな、お前の実力だと少し難しいかもしれないな」


 僕はその言葉に黙り込んだ、身に覚えがなかったわけではなかったからだ。僕は頑張っただけど、それだけでは全然足りないことも知っていた。


「だけど、僕はここに行きたいんです。夢をかなえたい。」


 先生は少し黙り込んだのち、ゆっくりと口を開く。


「お前がそこまで言うなら、受けてみてもいいが……」





 最初の年は酷いものだった。勉強など全くやる気はなく、面白いと思ったことなど当然なく、これが何なのかすらわかっていなかった。

 部活も適当に終わらせるとただ家に帰った。


 僕は僕のやりたいことだけをして過ごしていた。ただただ遊んでばかり。


 二年目の年に入ったころ、皆の空気に張り詰めたようなものを感じ始める。僕の通っていた学校には、進学クラスというものがあり、二年目頑張ったものは、そのクラスに入れるという。

 皆、そわそわとしていた、つまりはそれで明暗が分かれるのだ。はっきりと。


 なぜだか僕は無性にそれが欲しくなった。それはなぜだか僕にもわからなかったけど、無性に進学クラスというものに憧れてしまったのだ。

 最初こそ、勉強など、全くわからなかったのだけど、やっていくうちだんだんと僕はそれにのめりこむ。


 そのあとの僕はというと、食べることも寝ることも忘れ、遊ぶことなんてもってのほかだった。

 ひたすらに机に向かい、片っ端から参考書を開いた。


 ただそうしていることが楽しかった。問題を解けるということが。


 僕はひたすらに解きまくった。





「どうしてこれも解けないの。初歩中の初歩よ」


 僕は黙り込んだ。そう言われても分からないものはわからないのだ。もはや僕には問題の意味すら分かってなかった。

 そして、僕ら数人は残され、居残りをさせられた。だけど、僕はなんとも思っていなかった、それが僕なんだと、僕なんてそんなものなんだとそう思っていた。


 誰も助けてはくれなかった、もしかしたら、助けてくれていたのかもしれない。あるいは手を伸ばせば、味方をしてくれた。今思えばそんな気もする。





 プリントに向かい合った僕からは、すべてのものが消え、ただひたすらに問題に集中する。

 解ける問題はよかった、だけど、次のページをめくった時、僕の額からは冷や汗が流れる。

 僕は思い出していた、解きながら、今まで頑張ってきたこと、僕には何もできないんだと、悔しくて泣いたこと。

 すべてが走馬灯のように頭の中を駆け巡り、気づいたら、プリントは濡れていた。

 今まで何もできなかった僕、悔しかった、みんながうらやましかった。心のどこかでみんなに憧れていた。


 僕はそれをこらえて、プリントに向かった。これに僕の全てをぶつけるんだと。





 発表の時、僕は他の人に目もくれず、自分の番号を探した。

 269、270、271……


 明日という日はきっと誰も憎んではいない。

 個々がそれぞれに頑張っていることを空は知っている―――――

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明日へ向かって ユウ @yuu_x001

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