明日へ向かって
ユウ
第1話
室内には人が多かったけど、騒いでいる人の姿はなく、皆熱心にテキストに見入ったり、ノートを見たりしている。
僕も、見はするものの、昨日の夜、詰め込みすぎたおかげで、見ても見慣れたものばかりだったし、何より頭がついてこなかった。
やがて、講師らしき人が部屋に入ってくると、今日の予定表が張り出され、皆はそそくさと片づけをし、筆記具を丁寧に机の上に並べる。
皆そわそわとしていて、自信に満ち溢れた顔や、もうあきらめているのか、呆けたような顔が並ぶ。
やがてプリントが配られ、いよいよ僕らは試されるのだ。今まで、僕らがどんな行いをしてきたか、どんな努力をしてきたか、それがついに試される。
◇
「どうだろうな、お前の実力だと少し難しいかもしれないな」
僕はその言葉に黙り込んだ、身に覚えがなかったわけではなかったからだ。僕は頑張っただけど、それだけでは全然足りないことも知っていた。
「だけど、僕はここに行きたいんです。夢をかなえたい。」
先生は少し黙り込んだのち、ゆっくりと口を開く。
「お前がそこまで言うなら、受けてみてもいいが……」
◇
最初の年は酷いものだった。勉強など全くやる気はなく、面白いと思ったことなど当然なく、これが何なのかすらわかっていなかった。
部活も適当に終わらせるとただ家に帰った。
僕は僕のやりたいことだけをして過ごしていた。ただただ遊んでばかり。
二年目の年に入ったころ、皆の空気に張り詰めたようなものを感じ始める。僕の通っていた学校には、進学クラスというものがあり、二年目頑張ったものは、そのクラスに入れるという。
皆、そわそわとしていた、つまりはそれで明暗が分かれるのだ。はっきりと。
なぜだか僕は無性にそれが欲しくなった。それはなぜだか僕にもわからなかったけど、無性に進学クラスというものに憧れてしまったのだ。
最初こそ、勉強など、全くわからなかったのだけど、やっていくうちだんだんと僕はそれにのめりこむ。
そのあとの僕はというと、食べることも寝ることも忘れ、遊ぶことなんてもってのほかだった。
ひたすらに机に向かい、片っ端から参考書を開いた。
ただそうしていることが楽しかった。問題を解けるということが。
僕はひたすらに解きまくった。
◇
「どうしてこれも解けないの。初歩中の初歩よ」
僕は黙り込んだ。そう言われても分からないものはわからないのだ。もはや僕には問題の意味すら分かってなかった。
そして、僕ら数人は残され、居残りをさせられた。だけど、僕はなんとも思っていなかった、それが僕なんだと、僕なんてそんなものなんだとそう思っていた。
誰も助けてはくれなかった、もしかしたら、助けてくれていたのかもしれない。あるいは手を伸ばせば、味方をしてくれた。今思えばそんな気もする。
◇
プリントに向かい合った僕からは、すべてのものが消え、ただひたすらに問題に集中する。
解ける問題はよかった、だけど、次のページをめくった時、僕の額からは冷や汗が流れる。
僕は思い出していた、解きながら、今まで頑張ってきたこと、僕には何もできないんだと、悔しくて泣いたこと。
すべてが走馬灯のように頭の中を駆け巡り、気づいたら、プリントは濡れていた。
今まで何もできなかった僕、悔しかった、みんながうらやましかった。心のどこかでみんなに憧れていた。
僕はそれをこらえて、プリントに向かった。これに僕の全てをぶつけるんだと。
◇
発表の時、僕は他の人に目もくれず、自分の番号を探した。
269、270、271……
明日という日はきっと誰も憎んではいない。
個々がそれぞれに頑張っていることを空は知っている―――――
明日へ向かって ユウ @yuu_x001
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