3-3

 その時。

 夏海はターミナルビル三階にある大会議室にいた。


 この建物の中でも最大の広さを誇る大会議室の中は今、フライトジャケットを羽織った多くの人々が詰めかけていた。

 老いも若きも、男も女もいる。会議室といいながら室内にはテーブルや椅子は一切無く、彼らはめいめいに立ったままで壇上の男の声に耳を傾けている。夏海は最後方から、彼らの肩越しに白髪頭の男の動きを見守っていた。


「えー、次は……」


 壇上の男が手にしていた書類をめくった。

 老眼鏡をかけた顔を寄せ、そこに書かれている内容をじっくりと読み込んでから、おもむろに聴衆に向かって声を上げる。


「調布から富山まで貨物輸送の案件だな。積荷はコンバインの部品、重さは乾燥重量で三〇〇キログラム、一・五メートル四方のコンテナ三つに小分けされてるらしい。荷物は明日の午前中に調布へ運び込むので、その日の午後三時までに届けて欲しいそうだ。誰かやりたい奴──」


 人々が一斉に手を挙げる。夏海も負けじと、その場でぴょんぴょん飛び上がりながら両手を挙げた。


「はい! はいはい!!」

「よし、一番手が早かった中野航運さんに頼もうか」


 あー……と微かに落胆の声が響き、人々の手が下ろされる。


 はいごめんよ、ちょい通して、と中段から一人の男が進み出た。壇上から受け取った書類に目を通しながら、足早に会議室を出て行く。

 その後ろ姿を見ながら、さっきのは一歩出遅れた、次こそは誰よりも早く手を挙げなくちゃ、と考える夏海である。


 正式名称を『玉幡飛行業組合依頼案件公開受注会議いらいあんけんこうかいじゅちゅうかいぎ』という。


 しかし面倒くさがりな事にかけては人後に落ちぬ玉幡の甲斐賊たちが、こんな長ったらしく舌を噛みそうな名前を正直に呼ぶはずもなく、単に『組合仕事会』と呼ばれている。


 早い話が、組合に持ち込まれた仕事を零細業者へと割り振っていく会議である。

 大企業から出される案件についてはほとんどが契約している空輸会社に回されるが、空輸会社と契約していない中小企業や個人間の輸送案件については玉幡飛行業組合が一元的に受注し、それらを個人営業の業者へと流していくのだ。


 玉幡飛行場に在籍しているパイロットの七割が、所属機フリート三機以下の独立系空輸業者である。

 中には社員一人・機体一機という個人業者もいて、彼ら零細業者は大手の空輸会社と契約して繁忙期の臨時貨物便を運行したり、こうして組合から回されてくる仕事を回して糊口をしのいでいた。


 会議と名は付いているが、基本的に組合仕事の受注は早い者勝ちだった。

 自らの能力と仕事の内容を秤にかけ、責任を持って仕事を受けるようにするための配慮だったが、入札制にすれば不当なダンピング価格で受注しようとする連中も現れるので、それはそれで全ての業者に平等なやり方ではあった。


「───じゃあ、次にいこうか」


 その声で、夏海は再び壇上へと視線を戻した。

 ちょいちょいと指先を舌で湿らせながら書類をめくった組合の業務課長は、目を通すなり「これはちょいと難題だな」と呟く。


「滋賀県のスーパーマーケットチェーンからの依頼だ。経路は松本から八日市ようかいち。積荷はリンゴ、一〇キログラム入り段ボール箱で五〇箱。明日の朝十時に松本に来て、その日の午後二時までには届けて欲しいんだとさ。さあ、これはどうだ?」


 今度はどこからも手が挙がらない。隣り合わせた者同士で顔を見合わせ、案件の内容について話し合っている。

 室内のざわつきが、一層大きくなった。


「五〇〇キロもリンゴ食うバカがいるのか?」

「スーパーだって言ってたでしょ。あんた話聞いてる?」

「何でも、産地直送の特売品として予定してたんだが、農協と折り合いが付かなくて急遽松本から仕入れることになったんだってよ」

「ウチは無理だな。その重量で松本から八日市だと往復の燃料が足らねえ」

「八日市で帰ってくるぶんの燃料入れるっつっても、今月に入って近畿は燃料高くなってるからなあ」


 中には、もうこの案件に見切りを付けた者もいるらしい。我関せず、とばかりに腕を組んで目を閉じている者もいる。

 チャンスだ、と思った。


「───ハイッ!!」


 しゅたっ、と音が立つくらい勢いよく、夏海は手を掲げた。

 室内の視線が全てこちらに集まるのを感じながら、一息に宣言する。


「松本から八日市までリンゴ輸送の案件、あたしが受けまふううむうぅぅぅううっ!?」


 ───突然。

 背後から忍び寄ってきた誰かの手で口を塞がれた。

 驚いて振り上げた手もがっしりと掴まれ、そのまま夏海は後ろ向きに会議室の出口へとずるずる引きずられていく。暴れようにも上半身は万力のような腕で固められ、指一本たりと動けなかった。


 壇上の業務課長が、呆れたような顔でこちらを見ている。


「……天羽さん、いいのかい?」

「構わねえ。こっちは放っておいて続けてくれ。邪魔してすまねえな」


 無理やり首を動かし、視界の隅で背後を見やる。冬次郎の特徴的な白い口髭と傷痕だらけの顔がそこにはあった。

 まるで荷物のように廊下へ引きずり出されてから、夏海は祖父の腕からようやく解放された。


「───ぷはっ! 何すんのさ、爺ちゃん!!」

「お前にゃまだ長距離の仕事は無理だ、やめとけ」


 怒って詰め寄る夏海に、冬次郎は淡々と答える。


「そもそも、つい最近仕事で飛び始めたばっかの新米がホイホイできる程、組合仕事は甘くねえ。ああいうのはもうちょい経験を積んでからだな……」

「そ、そんなこと無いって! ちょっとリンゴを運ぶくらい!!」

「近所の薬剤散布の仕事も満足にできねえ奴がか?」


 ぴしゃりと言い放つ冬次郎に、夏海は不意を突かれたようにきょとんとした表情を浮かべた。


「───はい?」

「まだ聞いてねえのか? 秋穂から聞いたがお前、隣の屋敷に薬ブチ撒けたらしいじゃねえか。お前の代わりに秋穂が住人に謝ったっていうから、後であいつに礼言っとけよ」


 そういえば帰還してからすぐに会議室へと来たから、さっきの仕事の結果をまだ聞いてなかったんだった。

 てっきり上手くいったものだとばかり思っていたのに、まさか別の場所に薬をバラ撒いていたとは。

 うわー、あの子、怒ってるだろうなあ……と、夏海は暗澹たる気分になる。

 何とか機嫌を直して貰わなければ、ずっと事ある毎にネチネチ言われ続けるに違いない。妹は、ああ見えて意外に根に持つタイプなのだ。


「そ、それはともかくとして! リンゴの箱を松本から八日市まで運ぶだけの仕事じゃん。どうしてあたしにはできないのさ」

「ちったあ頭使え。松本から八日市まで、どんだけ距離があると思ってんだ」


 冬次郎は呆れたように溜息をつく。

 夏海は自信なさげに、


「ひ、一〇〇キロくらい?」

「二〇〇キロだ、このバカ。これくらい地図が無くても、ざっくりした数字でいいから思い浮かべられるようになっとけ」


 二〇〇キロメートル。だったら航続距離が短い三式連絡機ステラでも十分に届く距離だ。

 しかし冬次郎は、夏海の表情に何かを察したのか首を横に振った。


「お前、今『二〇〇キロなら余裕よゆー、全然大丈夫じゃんウヘヘー』とか思ったろ」

「いや、ウヘヘーなんて思ってないけど……」

「ちなみにこれは二点間の直線距離だから、その間にある地形や風向きは全て無視した数字だ」


 夏海の呟きを無視して、冬次郎は続ける。


「この直線航路を馬鹿正直に飛ぶなら、途中で標高三〇〇〇メートルの飛騨山脈ひださんみゃくを越えなきゃならねえ。五〇〇キログラムなんて大荷物抱えて気流乱れる飛騨山脈越えて、航続アシの短けえステラで八日市まで飛んで行けるなんて本気で思っているのか?」


 松本盆地の西部には、標高三一九〇メートルの奥穂高岳を最高峰とする飛騨山脈が屏風のように切り立っている。信州まつもと空港は松本盆地の底近く、標高六五七メートルの場所に南北へ滑走路を伸ばした地方空港だった。


 つまり、松本から飛騨山脈を越える直線ルートを取るためには、松本を飛び立った後で一気に二四〇〇メートルもの高さを駆け上がらなければならない。他の機体ならいざ知らず、ただでさえパワーで劣る上に重量物を載せたステラがこれだけの高さを稼ぐには、一体どれだけの時間がかかるだろうか。


 しかも、機体が滑走路を蹴って空へと浮かぶことができる最大の重量───最大離陸重量とは、搭載している燃料も含めた数字である。五〇〇キログラムもの貨物を載せるためには、それだけ燃料を降ろさなければならないのだ。


 すなわち───ステラでは、八日市まで届かない。


「……うっ…………」

「判ったか、ワシの言ってる意味が。いいか、仕事の内容と自分の機体の性格を天秤にかけて、その相性を即座に判断できねえような奴には、まだ甲斐賊の仕事は無理なんだよ。たとえ受けたとしても他の連中に迷惑かけちまう」


 祖父の言葉がざっくりと心に刺さる。

 冬次郎が並べた言葉は、そしてそこから気付いた事実は、取りも直さず全てが自分の未熟さの表れだった。


 夏海としても、この一ヶ月にわたってステラとともに空の住人として過ごしてきた。自分としてはそれなりに上手く仕事をこなしてきたつもりだったし、これから甲斐賊の一員として生活していくことに少しばかり自信が芽生えつつあったのだ。

 そう思っていた矢先にこれである。やはり背伸びせず、着実に一歩ずつ進んでいくことが早道ということなんだろうか。


 がっくりと肩を落とした夏海を、腕組みした冬次郎がねめつける。


「お前、仮にもステラエアサービスで働く社員なんだろうが。なのに勝手に仕事会に参加したり、身の丈に合わねえ仕事を受けようとしたり……何か理由でもあんのか」

「理由、ていう程のもんでもないんだけど……」


 腰の前で組んだ手をもじもじさせながら、夏海は心の内を吐露する。


「ずっと近所で農薬散布の仕事ばかりやってきて、自分が成長してるのか不安だったんだけどさ。こないだエアポケットに行ったときにマスターに言われたんだ、ちゃんと成長してるから大丈夫だって。だったら自分がどれくらい成長してるもんなのか確かめてみたい、って思って……」

「……フン」


 孫娘の言葉に、冬次郎は呆れたように鼻息を噴いた。


「下らねえ。そもそも昨日今日飛び始めたばっかで右も左も判らねえヒヨッコが、自分でどれくらい成長してるかなんて判るわきゃねえだろうが。手前ェが成長してるかどうかなんざ、あくまで他人からの評価で判ることなんだよ。もし、それで自分の実力ってのが判ったところで、較べられるのは少し前の自分との差だけだ。お前がこれから生きてく世界ってのは、そんなに小せえ了見で語れることなのか?」

「でも……」

「勘違いするなよ。実力主義の飛行機屋の世界で、お前のそんな小せえ了見なんぞ毛ほども意味なんか無え。生き馬の目ん玉ひっこ抜く飛行機屋の生活の中で自分を見失わずに生きるのは大事だが、手前ェの尺度だけで自分や他人を計ることになったらお前、明日にでも空のバケモンに取って喰われちまうぞ」


 台詞こそ厳しいが、声音は柔らかい。

 だからこそ夏海は、冬次郎が自分に伝えようとしていることが何なのか心の底から理解した。


 空の世界は、厳しい。

 天候のわずかな変化が、愛機のちょっとした不調が、自分では気付かなかった少しのミスが───そんな小さな失敗が死に直結する、冷酷で非情な世界なのだ。


 これから甲斐賊として大空を仕事場に生きるという事は、そんな世界で生き抜いてきた海千山千の猛者たちを向こうに回し、少しでも多くの果実をその手に掴んでいく日々であることに他ならない。自分で自分を測り、その僅かな変化に一喜一憂するような無意味なことをしている余裕など、どこにも無いのだ。

 祖父は、そんな厳しい世界で生きていく覚悟を問うているのである。


「にしてもお前、いきなり仕事会に乗り込んで組合仕事をやろうとするなんざ、そんなに薬剤散布の仕事が嫌になったのか」

「嫌になった訳じゃないけどさ……う~ん」


 夏海は腕を組んで考え込む。


「……マンネリっていうの? そういうのを感じてたのは本当だよ。一ヶ月毎日まいにち畑へ薬や肥料撒く仕事してきて、何だか『流れ作業』になりつつあるなあって自分で思ってたしね」

「流れ作業で失敗してりゃ世話無ェやな」

「いやそうなんだけど! そうなんだけどもね!!」


 夏海は恥ずかしさで顔を赤くしながら言った。

 知らなかったとはいえ、改めて秋穂には誠心誠意謝っておかなくちゃ、と思う。


「ともかく、そういう流れ作業になっちゃうと上達も遅くなる、っていうのはスポーツでも何でもよく聞く話でしょ? だったら他にも仕事をいっぱいして、少しでも操縦の腕を磨きたいって思って」

「はん。他人様のツラに白粉ぶっかけたバカ娘が、よく言うじゃねえか」

「うん判ってる判ってるからもうその件は言わないで、情けなさで泣きたくなってくるから!」

「そんなお前のために、いま美春が別の仕事を探してる」


 耳を塞いで蹲っていたために、危うく聞き逃しそうになった。


「………………えっ?」

「聞こえなかったか? 美春の奴が、組合仕事の中から今のお前に合った仕事を引っ張ってこようとしてるんだよ。前に組合で働いてたツテを使って、いいのがあれば仕事会に回される前に事前におさえておくってな。

 ……おっ、噂をすればだ」

「あら、二人ともここにいたの?」


 廊下の向こうから涼やかな声が響く。バインダーを手にした美春が、ゆっくりと歩み寄ってきた。


 美春は二人を交互に見ると、小さく笑いながら


「またお爺ちゃん、なっちゃんを苛めて……」

「んな事してねえよ。こいつに甲斐賊のなんたるかを説明してただけだ」

「そ、そんな事より!」


 夏海は二人の間に割って入った。


「お姉ちゃん、あたしに合った仕事を探すってどういうこと。あたし何にも聞いてない!」

「そりゃあそうよ、ついこないだ思い付いた事で言う機会がなかったんだもの。もう少し時間がかかると思ってたけど、早速いい仕事が見つかったわ」

「それ───って?」


 勢い込む夏海の胸に、書類の束が押しつけられた。


「明後日の祝日の午後。山小屋の郵便物を回収するお仕事よ」

「郵便物の、回収?」

「そう。普段は歩荷ぼっかさんが担いで麓まで下ろしてたんだけど、ゴールデンウィークのかき入れ時で歩荷さんがいないって、今しがた組合に依頼が来たの」


 歩荷とは、往路は山小屋で使う消耗品や食料品を背負い、帰路は山で処分できないゴミなどを担いで、麓と山頂を徒歩で往復する仕事のことである。

 書類を手にしながら、夏海は単純な疑問に首を傾げた。


「山のてっぺんから手紙を送るの? 何で?」

「あら、なっちゃんは知らない? 山の頂上にあるポストに手紙を投函したら、そこにしかない消印を捺して送ってくれるのよ。絵葉書と一緒に送ったら記念になるから、山登りする人にはそれなりに人気なの」


 姉の説明を聞きながら、受け取った書類を読み込んでいく。


 貨物重量の欄が『およそ二〇キログラム』となっているのは、その日によって投函される手紙の量が異なるからだろう。誤差プラスマイナス一〇キログラム程度なら機内積載でも特別な調整なしでいけそうだ。

 寸法も大きめのボストンバッグ位で、ステラの後席を取り外さなくとも余裕で積み込む事が出来るだろう。


 回収地点は南アルプス・北岳きただけ間ノ岳あいのだけの中間の稜線上、標高二九〇〇メートル地点となっている。

 あの辺りの山を上空から見た事があるが、いずこもゴツゴツとした岩肌が広がる荒涼とした景色で、飛行機が降りられそうな場所は何処にも無かった気がする。


「あそこに降りられるスペースなんてあるの? いくらステラでも五〇メートル、余裕を見て一〇〇メートルは平坦な場所がないと……」

「その辺は大丈夫。準備はこっちで進めておくから、実際に行けば判るわよ」


 どことなく含みのある言葉に美春の顔を見るが、姉はいつも通りの柔和な微笑を浮かべるばかり。

 それが逆に、夏海には不安で仕方ない。


「どうする? そういえば明後日の予定を聞いてなかったけど、他に予定が入っているなら見送っても構わないわよ」

「…………やる」


 決断を迫る美春に、夏海は小さく言った。

 自分が待望していた、薬剤散布以外の仕事である。否であるはずがなかった。


「やる、やります!」

「そう? 良かった。じゃあ組合にはウチで受ける事を伝えておくわね」


 夏海は書類を祖父に押しつけると、廊下を走り出した。

 こうしちゃいられない。今のうちにステラを万全の状態にしておかなければ。


「今からステラの点検してくる! 爺ちゃんも後から来て!!」


 背後に呼びかけながら、夏海はターミナルビルの中を全力で駆けていく。

 今なら格納庫に陸生がいるはずだった。自分が出来る事は限られているけど、整備を手伝う程度なら出来るはずだ。




「───あらあら」


 大喜びで走り去っていく妹の背中を見ながら、美春は小さく笑った。


「そんなに薬剤散布の仕事に飽きてたのかしら? それは悪い事しちゃったわね」


 美春の呟きに、冬次郎は反応しなかった。

 夏海から押しつけられた書類をめくりながら、そこに書かれている内容をじっと読み込んでいる。

 やがて、冬次郎は書類に視線を落としながら言った。


「……おい、美春。こいつは…………」

「ふふっ」


 しかし、美春はそれに答えない。

 ただ小さくなっていく夏海の後ろ姿を追いながら静かに笑顔を浮かべている。


「……判ってて、か。悪人だな、社長さんよ」

「あら、そんな事はありませんわ会長」


 そう、自分は判っている。この仕事が、どれだけ大変な仕事なのかを。

 そして同時に、あの子にどれだけの成長を促してくれる仕事なのかを。

 だからこそ、妹には何の先入観もなくこの仕事に全力を傾けて欲しかったのだ。


「それに、ね……」

「ん?」


 夏海が去っていった廊下の端を見ながら、美春はぽつりと言った。


「父さんに追いつこうとしてるあの子にとって、これは最初に超えておくべき壁だと思うから」

「……ちげえねえ」


 再び書類に目を落としながら、冬次郎は頷いた。


「でもよ。その『最初の壁』とやらで、あいつがヘコんじまったらどうすんだ?」

「それは大丈夫よ」


 美春は、即答した。

 それは何処までも誇らしげで、確信に満ちた言葉だった。


「だって、なっちゃんは───あの子は、私の自慢の妹なんだから」


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