十五冊目 宦官について

はじめに

 今回からはしばらく、宦官――それも中国の宦官について述べていきます。と、いうのも私がそのうち(約三十冊の参考文献を全て買って、なおかつ読み終わったら)、中華後宮モノにチャレンジするからです。で、なぜ宦官なのかというと、宦官こそ中華後宮モノの最たる特徴のように思えるからです。

 数多の女性たちが、ただ一人の権力者のためだけに集められた場所というのは、存外多い。性器を切除された男性は、中国以外にも存在した。でも後宮と宦官が組み合わさると、「中華だなあ~」という感じがしませんか? そして何より、宦官という存在を最も必要としたのも、中華の後宮であるような気がします。中国において宦官と後宮は一心同体だった。そう言っても過言ではないのではないでしょうか。

 ……と、いう次第で、そのものずばりで「宦官」と題する二冊の本「宦官――中国四千年を操った異形の集団」と「宦官 側近政治の構造」の内容を私なりにまとめて行こうという次第です。ただ、あくまで私なりにですし、この二冊はどちらも大変興味深くためになる本ですので、宦官に興味がある方はぜひとも手に取ってみてください。また、この二冊の他に中国の宦官について述べている本があったら、ぜひぜひ教えていただきたいです! 


 以下では、三十以上もあるという宦官の異称のうち幾つかを、由来も併せてご紹介していきます。 


閹人えんじん……「閹」は「性器を切り取られた者」を意味する「奄」に、彼らの最初期の役目である宮城の門を守護するという役目の象徴たる「門」を組み合わせてできた文字です。閹人は異民族の捕虜を去勢して作りました。


内竪ないじゅ……中国の最初期、貴族の家で使役されていた奴隷身分の童僕が「竪」と呼ばれていたことから。


寺人じじん……周代、宦官の主な仕事は周王とその妃たちに侍ることだったことから。「寺」と「侍」は発音も意味もほぼ同じです(「寺」はもともと、「宮中の役人がいる場所」を意味します)。


閹寺えんじ……「閹」と「寺」を組み合わせてできた呼称。多くはランクが低い小間使いという、多少の侮蔑の意味を込めて使われていました。「閹竪えんじゅ」や「中人ちゅうじん」、「内侍ないじ」も同じような意味を有します。


宮人きゅうじん……宮刑(性器を切断する刑)から。宮刑は、それを受けた者の生命の根が腐ったという意味で「腐刑」とも呼ばれていたため、「腐人ふじん」もしくは「刑余の人」という呼び名もあります。


 上記の呼称は大なり小なり侮蔑の意味が込められた蔑称ですが、宦官を指す雅称も存在します。「私白しはく」や「浄身じょうしん」がそれです。この二つの呼称は「不浄の物=性器を切り取った者」を意味します。

 成長してから性器を切断したものと、幼少期に性器を切断した者のそれぞれを指す呼称もあります。前者の場合は汚れの無い身を意味する「浄」もしくは「貞」、後者の場合は「通貞」がそれです。「通貞」は「生涯純潔」を意味しています。


 また、ここまで散々「宦官」という言葉を使用しておいてなんですが、「宦」は「宮廷に仕える臣下」ほどの意味を持ちます。だから「宦」と「官」がくっついてできた「宦官」(及び宦人かんじん宦者かんじゃなどの単語)が、「去勢された官吏」だけを意味していたわけではないのです。ただ、歴史の流れで、閹人や内竪などと呼ばれ蔑まれていた者たちの地位が上がり、「宦官」と呼ばれるようになり、定着しただけで。同じような経緯で宦官を指すようになった単語には「太監」があります。もっとも、「太監」が宦官の意味で用いられるようになったのは明代からで、太監=宦官となったのは清代からだそうですが。


 「宦官」と同じような意味を持つというか、侮蔑の意味を含まない呼称には「黄門」もあります。皇帝の色である黄色に塗られた門を守る人というぐらいの意味で、貶める意味は全く含んでいません。秦の始皇帝の死後、「閹人」が権力を握るようになると同時に新たな呼称が必要とされたため、できた言葉だそうです。そりゃあ、権力者に対して蔑称を使う訳にはいきませんからね。

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