中米 その④パナマ・サンブラス諸島
北米と南米の間に位置するパナマ共和国のカリブ海沿岸部には、サンブラス諸島という約365の島々が浮かんでいます。うち約50の島には先住民であるクナ族が住んでいます。もっともクナ族は、スペイン侵攻以前は内陸部で暮らしていて、環境の変化(その要因は察してください)のため、サンブラス諸島に移り住んだそうなのですが。19世紀前半までには、サンブラス諸島への移住が概ね完了していたそうです。
記録によれば、クナ族はかつては男女ともに上は裸、下は腰布を巻く。女性は肌の露出した部分に美しいボディペイントを施す、といういで立ちだったそうです。サンブラス諸島は熱帯モンスーン気候なので、腰布だけで十分だったのです。が、1850年代からヨーロッパの文化を受け入れるようになり、まず男性がシャツとズボン、あと帽子を着用するようになりました。
現代でもサンブラス諸島の男性の服装の基本はシャツとズボンであり、彼らの祖先の文化の影響はほぼありません。けれども長老たちは祭りや儀式の際には伝統的な首飾りを身に着け(帽子も権威の象徴として用いられます)、また祭りの踊りの際は頭に羽根飾りを付けることがあるそうです。これが、クナ族の男性の服装に表れた、数少ない祖先の残り香なのです。
現代のクナ族の女性の服装もまた、ヨーロッパの影響を受けたブラウス(袖はギャザーがたっぷり入ったパフスリーブ)とスカートです。しかし女性の場合は男性の場合よりも民族的な要素が濃く残っています。
例えば成人女性が正装として着用するスカートは、模様をプリントした布の巻きスカートです。また手足にはビーズの飾り・ウィニを付ける他、金の鼻輪、貝やビーズなどの、色々な素材から作った首飾りや耳飾りで身を飾ります。加えて、木の実の汁で鼻筋には黒く細い線を描き、頬は赤く染めます。ウィニは成人式の際に、母親が娘の手足に巻くという、成人した女性のみに許されるアクセサリーでもあります。
また、クナ族ではモラという手芸が受け継がれています。もともとモラとはクナ族の言葉で「衣服」を意味する言葉です。現在では例えばモラの技法を使われたブラウスはモラブラウスと呼ばれています。
モラはやり方を解説している本もあるとはいえ、現段階ではさほどメジャーな手芸ではありません。モラを超簡単に表せば「逆アップリケ」なのだそうです。それも複雑な。
「逆アップリケ」であるモラは、何枚かの布を重ねて作ります。布に図案を描く→図案の通りに切り込みを入れつつ、布の端を織り込んで、細かな縫い目を表に出して縫う。そうすると輪郭線ができる→上に布を重ね、下の輪郭線に沿って……という手順を繰り返すのです。また、デザインの細かい表現(顔など)には、ヨーロッパの刺繍のステッチを使われます。
モラは二枚一組を基本(ブラウスの場合は胸と背中に配される)として作成されます。といっても、例えばブラウスの胸に配するためのモラを作る際、輪郭線にするため切り取った布は、背中用のモラの背景用の布にそのまま使えます。なので二枚一組で作るのは布を無駄なく使う知恵でもあるのです。
モラの模様は鳥や魚、動植物に日常生活の道具。また、神話や伝説、キリスト教やテレビや映画の登場人物、商標など、クナ族を取り巻くあらゆるものを抽象化したりデザイン化したものになります。色使いは主に原色やそれに準じた色を用いるためコントラストが明確なのですが、赤と黒で引き締めることで、鮮やかでありながら調和した印象になっています。肌に描いていた模様が腰布に描かれるようになる→貫頭衣風の衣服が着用されるようになると、腰布に描かれていた模様が裾に描かれるようになる、とモラの模様の起源はクナ族のボディペインティングにあるそうです。
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