ネイティブアメリカン その⑥イヌイット

 今回はイヌイットの民族衣装についてです。

 イヌイットはアラスカからグリーンランドまでの北極圏で暮らしているので、主な素材は毛皮になります。保温と断熱効果のため、衣服に空気を沢山含ませなければならないのです。その点、カリブー(トナカイ)の毛の内部は蜂の巣状になっているので、寒さから身を守るのにうってつけです。また軽くて柔らかいため、主に冬用の衣服に用いられていました。夏用の衣類はアザラシの毛皮から仕立てられていました。アザラシの皮は優れた防水性があるので、この点も夏向きでした。また、毛の種類に限らず、毛を内側にするのも保温効果を高めるための工夫の一つです。

 内着と外着、男物と女物の区別がほぼないのもイヌイットの民族衣装の特徴です。子供服は大人の物と形は全く同じになります。もっともヨーロッパでも子供服というものが誕生したのは結構近代になってからなんですけれどね。


 上記のような理由で、イヌイットの夏用の内着(チュニックやシャツ)は毛を内側にして仕立てられていました。この内着と長ズボンを合わせ、裾は履物に入れて着用するのです。ズボンは膝下で紐で結んで着用しました。

 内着には男女の区別があり、女性用は赤子を運ぶため、背中の部分が大きく作られていました。赤子の世話をする際は、その大きく作られた部分を前にすることもできます。また、男性の場合は屋内ではカリブーのなめし皮製の、ブリーフのような下着を身に着けていたそうです。


 外着であるパーカー(パーカ)は、イヌイットの主要な衣類で、一般に毛皮の断片から仕立てられていました。もっとも、アザラシやセイウチの腸製のものや、地リスやウサギの毛皮製のものもあるのですが。なお、ツノドリや鵜、はたまた他の水鳥などの鳥の皮製のパーカーは大変珍重されていたものの、男性用だったそうです。貴重品だったためか、鳥の皮製のパーカーは見事な装飾も施されていたのだとか。

 イヌイットのパーカーには、我々が知るパーカーのように(というかイヌイットのパーカーこそがその起源なのですが)、普通はフードが付いています。丈は地域によって異なるものの腰丈もしくは膝丈でした。もっとも、後ろは氷の上に座るため前よりも長くなっているのですが。

 防寒のための工夫は他にもあり、フードの被ると顔の周りに来る部分はクズリ(イタチ科クズリ属の動物。別名クロアナグマ)や狼の毛から作られていました。こうすると、息を吐いた際にできる氷の雫を弾くのに役立つのだそうです。

 パーカーは首元に一対のセイウチの牙を取り付け、更にビーズ刺繍や毛皮のアップリケで飾られました。中でもセイウチの牙は北極全土のパーカーに共通する要素なのだそうです。

 パーカーにもまた、女性のものには子供を運ぶための袋が付けられていました。この袋は全ての年齢の女性のパーカーに付けられているのですが、子供を運ぶ必要がない女性のものは、幼子を持つ女性の者よりもはるかに小さくなっています。女性のパーカーの袋には、底にホッキョクグマや牡牛、あるいはカリブーの皮が敷かれています。すると子供によって汚されても、皮を取り出して洗うことができるので、極めて合理的なのです。子供が落ちるのを防ぐため、ウエストの周りにサッシュを結ぶところもありました。ついでに女性用のパーカーには、ビーズだけでなく房や色糸の刺繍が施されていたという違いもあります。


 イヌイットの履物はブーツもしくはスリッパでした。スリッパは夏に、ブーツは一年中使用されていたのです。

 ブーツの素材はぶちのアザラシや髭の生えたアザラシの皮、もしくはカリブーの毛皮でした。髭の生えたアザラシの皮はセイウチの皮のように丈夫だけれども、セイウチの皮よりも軽いのだそうです。ブーツの丈は、男性用ならば膝まで、女性用はそれ以上の高さがありました。もっとも、女性用のブーツは前と後ろで高さが異なり、男性用よりも高いのは前だけなのですが。とにもかくにも、この丈の部分は帯状や紐状の、様々な色合いの毛皮で飾られていました。

 ブーツの靴底の部分には湿気を吸収するための草や苔が詰められていました。氷の上を歩くため、骨や象牙製の鋲を付けられたものもあったそうです。 

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