ネイティブアメリカン その④平原部族

 ミシシッピ川からロッキー山脈まで。別の言い方をすればテキサスからカナダのアルバータ州にかけて広がる大平原で暮らしていたネイティブアメリカンは平原部族と呼ばれます。一般にネイティブアメリカンという単語からイメージされる服装は、彼らのものでもあります。


 平原部族の基本的な衣服――スキン・ドレスの(ここでのドレスはいわゆるドレスではなく、「衣服」を指しているのでしょう)素材はやはり皮でした。なめし皮で、ゆったりとした幅広の袖のように見えるフラップ(「ぱたぱた動く」や「垂れ下がったもの」を意味する単語)のある、Aライン(大文字の「A」のような、上が小さく、裾に向かって広がったシルエットのこと)の衣服を仕立てました。もっとも、その形は素材である獣の皮の大きさと形状次第でもあったのですが。フラップはバタフライスリーブとも呼ばれ、余分な皮の部分には房飾りが付けられていました。また、余分な皮や縫い代は前後に垂れるようにもなっていました。

 こういった衣服の形は、後になめし皮が工場製の生地に取って代わられても、基本的には変わりませんでした。 


 衣服の素材は、どの動物の皮でもよかったわけではありません。例えば水牛の皮はなめしたとしても衣服にするにはあまりに厚く硬すぎたそうです。そのため、鹿やヘラジカ、アンテロープの皮が用いられていました。ここらへんは他の部族と同じですね。後に工場製の布に取って代わられたのも。

 ついでに、ヘラジカは歯も装飾のために用いられていました。もっともヘラジカの歯のうち二本しか飾りに使われなかった(二本しかアクセサリーには適さないと考えられていた)のですが。そのため、衣服に付けられたヘラジカの歯の数は、着用者の社会的な地位を率直に表していたのです。着用者が女性であれば、彼女を扶養する者――多くは夫の狩の腕前をも。そのため、中には愛する女性のため骨を彫刻してヘラジカの歯の模造品を作った男性もいたそうです。タカラガイも、色と大きさがヘラジカの歯に似ているので代用品として使用されることがあったそうです。

 現在では、本物のヘラジカの歯を入手するのはほぼ不可能ですが、プラスチック製や先述の彫刻した骨製の模造品は普通に日用品店などで販売されているのだそうです。


 衣服を飾るパーツには、前述のヘラジカの歯やタカラガイの他に、房飾りやツノガイ、ビーズがありました。あとはリボンも、ヨーロッパとの交易によってもたらされ後は、女性の服の飾りとして用いられていました。

 ツノガイは僅かに湾曲した長い円錐形の薄い貝殻なのですが、タカラガイよりも高価だったそうです。フリンジは、好きな場所に付けることができました。もっともフリンジは、時の流れとともに用いられることが少なくなったそうなのですが。フリンジは皮で作れば美しいのですが、織物で作れば単に解けるだけなのです。

 タカラガイは円形あるいは直線状に横に並べたり、前身頃のみに付けられたり、袖を含むドレス全体を覆うように付けられていました。白いツノガイで飾ったウールのドレスは平原部族の女性の間では非常に好まれていました。ツノガイはドレスの表面に何列も何列も、袖の縁から時には肘に至るまで、飾りとして縫い付けられたのです。ちなみにタカラガイもツノガイも、ヘラジカの歯の模造品と同じく日用品店などで購入することができるそうです。

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