ネイティブアメリカン その③イロコイ連邦

 イロコイ連邦(ホデノショニ連邦とも言う)は六つの部族の連合からなる部族国家です。ニューヨーク州のオンタリオ湖南岸からカナダにかけて跨る森林地帯を保留地としています。


 古い時代のイロコイの衣服の素材は、ナバホ族やアパッチ族のように鹿の皮でした。形も似ていたようです。もっとも、ヨーロッパ人によってもたらされたウールや木綿にモスリン(木綿や羊毛などのを平織りにした薄い織物の総称。コーミングという櫛で梳いて長さや細さを均一にした糸を用いているため、光沢がある)、ガラスのビーズやリボンを使うようになったのですが。

 なお、ネイティブアメリカンが衣服の飾りとしてリボンやガラスビーズを使用するのには、彼らがリボンと出会うより前に遡ることができる由来があります。リボンが入ってくる前は、なんとヤマアラシの針(のような毛)を染色しパネル状に加工して、使用していたそうです。加工されたハリネズミの毛は、シャツやスカート、レギンスやショールの飾りとして用いられていました。

 そこから17世紀になりガラスのビーズが北米にもたらされると、精緻なビーズ飾りが発達しました。そうしてビーズで衣服や袋、靴を飾ったり、アクセサリーを作ったりしたのです。また、ビーズはヤマアラシの針よりも使いやすかったため、それまでの幾何学模様に加え花模様の装飾が誕生しました。

 現代日本で生きていたらガラスのビーズは(もちろん品質にもよりますが)、宝石には到底及ばない存在でしょう。しかし少なくとも往時のネイティブアメリカンには驚きをもって迎えられたはずです。「アジアの伝統染織と民族服飾」(この本、久々に登場しましたね)によると、アフリカの諸部族は17世紀にヴェネチア製のガラスビーズと出会うと、ダイヤモンドやエメラルド、極楽鳥の羽根などと交換してまでビーズを求めたそうです。ちなみに、ガラスのビーズと交換にされる「商品」にはアフリカ人の奴隷も含まれていました。他の部族の者を捕まえたりして、ビーズと交換していたのですね。

 これまた現代日本人のほとんどは、ダイヤモンドやエメラルドとガラスビーズを交換するなど、訳が分からないと思うでしょう。ですがダイヤモンドの定番であるブリリアントカットの原型が考案されたのは17世紀後半のことです。しかもそれはヨーロッパでのこと。もっともブリリアントカットの誕生以前にも、ローズカットという気品が感じられる磨き方があったのですが。ちなみに私はブリリアントカットよりもローズカットの方が好きです。

 エメラルドも、インクルージョンや傷が多い(そのため宝飾品として流通しているものの大半は、オイルによって傷を目立たなくさせる処理が行われています)石なのです。ですから往時のアフリカ人にとっては、透明や透き通った緑の石よりも、色とりどりで、模様が入っているものもあるガラスのビーズの方がよほど魅力的だったでしょう。

 なお早くも1607年には、ヴァージニアにヴェネチア職人によるビーズ工場が建設されていたそうです。その目的は、ビーズによってネイティブアメリカンを懐柔すること。


 そんなこんなで北米にヨーロッパからもたらされたものの一つがリボンです。黒い布の縁を3~5色のリボンで飾ったリボン・シャツは現在でもイロコイ諸族の高齢の男性によって着用されているのだとか。

 リボンは背中の切り替え部分に7.5cm

~13cmのもの、肩の縫い目の上には腕に垂れるように10cm~15cmが付けられています。さらにオンタリオ湖も含む五大湖周辺やミシシッピ川上流域のネイティブアメリカンは、リボンを豊富な色彩の飾りにする方法を開発し、衣服を飾りました。少なくとも2つ(多ければ十以上)の色のリボンを縫い合わせることで、対照的な模様のアップリケを作るのです。

 リボン・アップリケを作る際は、左右に異なる色が来るよう、色の配置に注意しなければなりません。この技術は、白人による強制移住の結果、中部や南部の平原の部族にも広まりました。


 古い時代のイロコイ諸族の女性は、鹿革の長い巻きスカートを身に着けていたけれど、上衣は所持していなかったそうです。巻きスカートは暗褐色に染色したり、上記のヤマアラシの針やヘラジカの毛の装飾を施すこともありました。この巻スカートは、ヨーロッパ人との接触以降は、木綿製となり、ガラスのビーズやリボンで飾られるようになりました。

 19世紀中旬には、イロコイ諸族の女性は長いチュニックを着用するようになりました。このチュニックの前はイギリス女性のドレスから、後ろはイギリスの役人の法廷衣装から影響を受けていたそうです。このチュニックもリボンやビーズで飾られました。加えて、銀のブローチを付けることもあったそうです。

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