中央アジア その⑧キルギス・女性編

 今回はキルギスの女性の民族衣装についてです。キルギスの女性の民族衣装の構成要素は他の中央アジア諸国の女性のものとほとんど変わりありません。ただキルギスの女性の民族衣装には、他の国にはなかったスカートが存在します。では、以下で詳しく見ていきましょう。


 上衣には幾つか種類があります。そのうちコイノクというものは筒型で、丈も袖も長くなっています。コイノクの前の中心の、胸の開いた部分は、周囲に刺繍が施される。もしくは刺繍された胸当て・オングルが付けられていました。

 ロシア併合後は、ロシアとタタールの影響により、立襟が付けられ、ウエストを切り替えギャザーが入れられ、裾にフリルが付けられたコイノクが誕生しました。加えて、平面的な仕立てであったのが立体的になりました。このあたりは、他の中央アジア諸国と同じですね。ロシアの影響はこれにとどまらず、吊り紐付きの黒いサラパン=サラファンも着用されるようになったそうです。他には、ウズベキスタンの女性のもののような、胸の部分にギャザーが入ったスモック風のコイノクもあったそうです。

 コイノクの上には、袖なしもしくは半袖で丈が短い(しかし丈の長さが定まっているわけではない)カムズルという上衣を着用しました。カムズルは祭日用のものは黒や紺、緑などの濃い色のビロードやベルベットを表地にして仕立てられました。その上に金銀や絹糸で刺繍を施して飾ったのです。


 脚衣・イシタンは丈が踵まであり、幅が広くゆったりしているけれど、裾は狭いものでした。伝統的なスカート・ベリデムチは留金か紐で結んで着用する(ベルトも用いました)巻きスカートで、盛装の際に最後に着用するものでした。

 ベリデムチは、次の二種類に分かれていました。一つは、黒や紺、濃い緑のビロードの周囲に刺繍を施し、ウエストでギャザーを寄せたもの。二つ目は、十数枚の無地や絣の布を、裾が広めになるように接いだもの。この二種類のベリデムチは、1950年代までは祝日や儀式の際に着用されていたそうです。

 そういえば、ここに来て初めて何枚かの布を組み合わせる――パッチワークの技法が登場してきましたね。パッチワークは、キルギスでは悪霊から身を守る力があるとされているそうです。そのため子供服は、呪術的な目的でパッチワークで仕立てられていました。材料となる布も、婚礼衣装の残りの布や、長生きした人の葬儀の際に譲ってもらった衣服から仕立てたそうです。

 長寿の人の衣服を譲ってもらうのは、その年齢まで子供が守られるように、という願いを込めてのことでした。縫い糸も、太くて長い丈夫な糸を用います。これは子供の健康を祈願してのことなのですが、この信仰は中央アジアの諸民族に共通して見られるそうです。

 

 女性の外衣のうち、チャパンは男性のチャパンと類似しているそうです。ただ素材は木綿や縞柄の平絹(同じ太さの生糸で、経糸と緯糸を一本ずつ単純に組み合わせて織り、精練した平織の絹織物のこと)、絣で、単衣にも袷にもします。他の上衣には、毛皮製の外套もあります。


 キルギスでは、南部と北部で女性の髪形が異なっていました。北部では二本、南部では多数の三つ編みが、女性の髪形だったのです。未婚の女性はその三つ編みを、毛皮の縁取りがある帽子・チェベティやスカーフで覆っていました。既婚の女性は、小さな帽子ケプ・タキヤを被り、更にその上に白いモスリンのターバン・エレチェクを何重にも巻き(巻き方は地域によって違う)、額飾りを付けます。

 ケプ・タキヤは手織りの布から作られ、表面には刺繍も施されていました。髪を完全に隠すためでしょう。ケプ・タキヤはは前頭部、両サイドの長い頬当て、背に長く垂れる布(これで三つ編みが隠れる)の四つのパーツを縫い合わせ、頭頂部の端は襞を寄せ束にして仕立てられていました。


 キルギスの女性は、普段はヒールの低いスリッパもしくは編み上げ靴を履いていました。晴れの日にはヒールの低い長靴、あるいは男性も利用するマッシを男性同様に丈が短い靴と組み合わせて履きます。他に寒い時、特に作業をしている際は毛もしくはフェルト製の長い靴下とフェルト製の長靴・ワーレンキーを組み合わせて履いていたそうです。

 

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