中央アジア その⑦キルギス・男性編

 今回はキルギスの男性の民族衣装についてです。

 キルギスは中央アジア東部の、中国とも接する位置にある国です。キルギスの民族衣装も、伝統的なものはやはり平面的な仕立てをしています。が、これまた他の中央アジア諸国の例に漏れず、ロシア併合後から立体的な仕立てに変わっていきました。

 材料も、伝統的なものは自家製の毛織物(ちなみに、全て平織なのだそうです)や毛皮にフェルト、あと輸入した絹や錦に綿でした。緩めに折った布に短い毛を絡ませて作る、フェルト状の毛織物なんてものもありました。しかしロシア併合後は、ロシアから多くの材料がもたらされるようになったそうです。あと、20世紀からは綿花を栽培して木綿を織っていたのだとか。こういった木綿は柘榴の実の皮や桑の木の瘤で褐色に染め、男性の綿入れを作りました。


 キルギスの男性の民族衣装も上衣+脚衣+外衣+帯+帽子+履物となっております。

 上衣は南部と北部でタイプが異なっています。南部はウズベキスタンのヤフタクのような、前開型で重ねて着るジェグデというものと、筒型で胸がV字型に開いたウズン・ジャカがあります。北部にも筒型の衣服があるのですが、これはコイノクと呼ばれています。コイノクは立襟が付いていて、胸までは明けて前をボタンで留めます。

 脚衣にはイシタンと、その上に履くシムというものがあります。イシタンはウエストの部分が広くて股の部分に襠が入っており、上に通した紐を縛って着用します。シムはイシタンと同じ形をしています。ちなみにジャルガク・シムという黄色く柔らかな羊毛製の脚衣もあります。ジャルガク・シムは色だけでなく、仕立ても装飾も、カザフスタンのシャルバールと全く同じなのだそうです。


 外衣もまた南北で違いがあるようです。そのうち南部の伝統的な外衣チャパンはウズベキスタンやタジキスタンの外衣と形は非常に似通っています。なので構成についての詳しい説明はウズベキスタンの回を参照してもらうことにし、以下では違っている部分について述べていきます。

 まず、チャパンは縞柄の布や黒いサテンの布を表にした、袷で仕立てられます。表地と裏地の間には、毛や綿が入れられることも。南部には他にも、自家製の毛織物から仕立てられた丈と袖が長くゆったりとした外衣がありました。この外衣は単、もしくは薄いフェルトを裏地として仕立てます。フェルト状の毛織物から仕立てることもありました。トンという、毛皮製で襟と開口部をこれまた毛皮で飾った外衣もあります。

 北部には、牧夫が好んで着用した、雨風に強い外衣ケメンタイがあります。ケメンタイは白や茶色のフェルトからゆったりと仕立てられました。


 帯には三つのタイプがあります。一つ目は、布製で方形、周辺に刺繍が施されたチャルチ。チャルチは斜めに追って、前で結んで使用します。また、この帯は二本締めることもありました。

 二つ目は羊やラクダの毛織物製の、兵児帯のような帯クール。クールは毛色を生かし、布の端が縞柄になったものもあります。ちなみに、ラクダの毛織物ピイアジは緻密でありながら大変薄く、なおかつ光沢があって非常に美しいのだそうです。そのため、裕福な人々の外出着や花婿に婚礼衣装の外衣や脚衣に用いられていました。ラクダの毛織物から仕立てられた新郎の外衣はトオ・チェプケンと言います。

 少し話がそれてしまいましたが、帯の三つ目のタイプは金属の飾りが付いた革帯ケメルです。こういうの、他の中央アジア諸国にもありましたね。


 帽子には、キルギス特有のアク・カルパクという、側面が広く丈が高いものがあります。アク・カルパクとは「白い帽子」を意味しており、アクが白という意味です。キルギスでは白は純粋や潔白、真実と結びついています。そのため白い色をしたミルクは邪視除けの力があるとされ、白髪の老人は「白い髭アク・サカル」と呼ばれて尊敬の的となるのです。もっともアク・カルパクは白い布だけで作られるのではなく、側面の折り返し部分は黒や紺色のビロードもしくはサテンから作られます。頭を入れる部分も、縫い目に黒か紺色の布を縫い込んだり、刺繍を施したりします。

 他の帽子には、羊や狐の毛皮の幅広の縁がつけられた、多くはビロード製の帽子チュテイがあります。

 履物には、革製の半長靴チュカイや、丈が短い靴と組み合わせて履く、柔らかな靴底の長靴マッシがあります。これらの靴は、まず白いフェルト製の長い靴下バイパクに足を入れ、それから履きました。

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