中央アジア その⑥タジキスタン

 今回はタジキスタンの民族衣装についてです。タジキスタンは東西で言えばウズベキスタンと中国の、南北で言えばキルギスとアフガニスタンの間に位置する国です。宗教的には、スンナ派のイスラームが八割以上を占めています。文化的にはウズベキスタンと似通っていて、民族衣装も名称こそ異なれどウズベキスタンのものとほとんど変わらないそうです。


 タジキスタンの男性の民族衣装は、上衣+脚衣+外衣+帯+被り物+靴で成り立っています。

 上衣には筒型のクルタと前開型のヤフタクがあります。脚衣には絵図絽とエゾリ・マルジナというものがあるのですが、これらは前後と左右の寸法が同じで(=広げると正四角形になり)、股の下には襠が入っています。

 脚衣は普段は白い木綿製のものを、外出の際にはその上に黒や紺色の綿もしくはウール製のものを重ねて穿いていました。外衣ジョマはウズベキスタンと同じもののようです。また、例によってロシア併合後に誕生した立体構成のコート・カムズールもありました。なお着用法は、上衣と脚衣を着て(なお、上衣の裾は脚衣にインしません)、上衣の上に外衣を重ね帯を結ぶ、となっています。

 帯は方形のルーモルと、兵児帯のようなものがありました。ルーモルは斜め半分に折って、前で結んで使用していました。被り物には縁なし帽のトゥッピと、その上に巻くターバン・サッラがあります。履物は革製のエチクや、靴底が柔らかい長靴マフシと、マフシと組み合わせて履く丈が短い靴カフシがありました。


 女性は脚衣(エゾル、ロジム)と上衣を素肌の上に直接着用しました。上衣には、ロシア併合後に胸の部分で布を切り替え(布を一度切り離して改めて縫い合わせること)、ギャザーを入れたものも登場しました。他には、カムズールチャというチョッキも時期を同じくして出現しました。

 外出時は上記の衣服の上に、外衣や被衣を重ねて着用しました。外衣にはムニサクとカルタチャというものがありました。被衣にはハランジィというものがあったのですが、これはウズベキスタンのパランジャと形も、10月革命の後は使用されなくなったという点も同じです。また、山岳部では大きなスカーフで全身を覆ったりもしていました。他には、トキという縁なし帽も利用されていました。


 タジキスタンの女性ももちろん、アクセサリーを身に付けます。葬式ではアクセサリーを身に付けない決まりがあるそうなのですが。

 中央アジアにおいては、アクセサリーは単なる装飾品ではなく、過酷な自然環境の中で暮らす人々の、安全と豊穣への祈りが込められたものでした。タジキスタンにおいても、刺繍の意匠にも豊穣と安全への願いが込められています。

 種が多く、春から秋までに三回も収穫できるイチジクは、まさしく豊穣を表すがゆえ好んで刺繍されていました。柘榴や鳥に羊、大小のロゼット( 開花した花を真上から見た形を図式化し、花弁を中心から放射状に描いた、装飾や模様のこと)や三角形もそうです。

 安全を祈願する刺繍の意匠には蛇やカエルがあります。なんでも蛇やカエルの模様を付けていると悪霊や悪魔に仲間と認識されるため、危険から逃れられると信じられていたそうなのです。そもそも、刺繍そのものに邪視に対する避雷針のような力がある(=着用者に悪しき力が及ぶのを防げる)と信じられていたようで、それゆえタジキスタンの花嫁衣裳は全体を刺繍で覆われていたのだそうです。


 タジキスタンの伝統的なアクセサリーは概して繊細な意匠でした。唐草模様の腕輪に金線や銀線細工の耳飾り。毛彫り(鏨 《たがね》 を用い、金属や象牙の表面に模様や文字を細い線で彫る技術)や粒金細工(土台となる金属の表面に、粒状の金を均等に貼り付ける装飾技法)が施された耳飾りなど。あと、こめかみ飾りもありました。

 アクセサリーは金属だけから作られるのではなく、真珠や珊瑚などの宝石と組み合わされていました。このうち真珠は豊穣と結びついていて、実をもたらすものであるとして、子供を欲する女性が好んで身に着けていたそうです。柘榴に並んで首飾りのモチーフとされることがあった月と星も、身に着けると天体が受胎能力を授けてくれると信じられていました。

 ガラス玉もアクセサリーの素材として用いられていました。ガラス玉には邪視を避け、不幸を防ぐ力があると考えられていたのです。

 イスラームの国々ではコーランの文句や解説が書かれた紙を金属のケースに入れてお守りとします。しかしタジキスタンでは中に何もいれずとも、ケースの形そのものに呪力があると信じられていました。三角形は女の、円筒系は男のシンボルであり、婚礼後の女性は一対にして身に着けたのです。あからさまですが微笑ましい豊穣と多産の祈願ですね。

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