中央アジア その④カザフスタン・男性編

 今回はカザフスタンの男性の民族衣装についてです。

 カザフスタンは中央アジアの北部、ロシアと接する位置を占める大きな国です。ご存じの方も多いでしょうが「~スタン」とは「~人の国」を意味しています。だからカザフスタンとはカザフ人の国、という意味なのですね。中央アジアに詳しくなくても、スタンリイ・エリンの「特別料理」を読んだことがある方なら、ピンとくるでしょうか。アミルスタンの羊……。

 カザフスタンは幾つもの遊牧民族が興亡を繰り返した土地でもあります。カザフ人も、かつては遊牧生活を営んでいました。そのため、18世紀にロシアの工場製品が流入してくるまでのカザフ人の衣服の材料はラクダ。稀に羊毛の毛織物やフェルト、家畜や野生動物の皮や毛皮だったそうです。それらに加えて、周辺の国から綿や絹、毛織物を輸入してもいたそうですが。

 が、前述の工業化の影響を受けると、19世紀には毛皮や皮革を売る→工場製の織物を購入して服を仕立てる、と変化したのだそうです。この織物の原料は、裕福な人は毛や絹でしたが、そうでない場合は木綿でした。

 更に進んでソ連の時代では、一般の人も晴着は毛織物や絹、ビロードなどの高価な布から仕立てていたそうですが。ちなみに19世紀は、カザフスタンに入ってきた他民族の影響により、衣服の仕立てが変化した時代でもあります。


 では、以下でカザフスタンの男性の民族衣装について詳しく述べていきます。

 カザフスタンの男性の民族衣装は上衣+脚衣+外衣+帯+帽子+履物を基本としています。上衣と脚衣、外衣はいずれも平面的な構成です。また、それぞれ幾つか種類があります。

 上衣にはまず、ジェイデという前開型のものがあります。他にはゆったりとした筒型のコイレクというものも。コイレクには折襟が付いていて、開いた部分は紐で結びました。もっとも20世紀になると襟は立襟になり、前立(シャツの前ボタン部分に付けられる帯状のパーツのこと)が付けられ、ボタンで留めるようになったようですが。これらの上衣は白の無地や縞柄の木綿から仕立てられました。


 脚衣はまずダムバルというズボンを穿き、その上にシャルバールというズボンを重ねて穿きました。ダムバルは上に通した紐を結んで着用する、ウエストが広く股の部分に広い襠が入った、ゆったりとしたズボンです。

 シャルバールは赤や黄色に染めた二匹分の羊の革から仕立てられたズボンです。柔らかな羊の革には、赤や黄色や緑の絹糸で野の花が刺繍されていました。

 シャルバールは羊の腹の部分の革が内側に、頭の部分が上になるよう仕立てられていました。イメージとしては、羊二匹を向かい合わせて「人」の字を形作るような感じです。すると、縫い目は脇に、柔らかな腹部が股下に来るので、履き心地が良くなるのです。柔らかでゆったりとしたシャルバールは鷹匠や猟師に愛用されていました。

 シャルバールはダムバル同様にウエストがゆったりしている(約130cmもある)ので、寒い時に馬に乗る場合は、上着の裾を入れていたそうです。


 伝統的な外衣には、シャパンというものとトンというものがあります。シャパンはゆったりとした前開型の外衣です。袖も同様に幅広でゆったりとしているのですが、袖口に向かって細くなってもいます。また、袖は長いので、手袋の代わりにもなったそうです。

 シャパンには裏地があったりなかったり、また綿を入れたり入れなかったりするようです。また、丈が短めのものの上に、丈が長いものを重ねて着用したりもするのだとか。シャパンの表の素材や地域や資産に応じて異なっていました。しかし裕福な人々は高価な毛皮で縁取りしたり、金糸で刺繍をしたりしていたそうです。

 トンは冬用の外衣です。そのため、着古したラクダの毛皮を上から布で覆ったものや、羊の毛皮を黄色や黒に染めたものから仕立てられていました。裕福な家庭では高価なビーバーやテンの毛皮から仕立てていたそうなのですが。

 また、稀に仔馬の毛皮から、たてがみが背中と袖に来るように仕立ててもいたそうです。他には、前述の着古したラクダの毛皮の場合のように、羊や狐、狼の毛皮をサテンや毛織物で覆ったりもしていたそうですが。

 他の外衣には、ベシペントとベシメートがあります。これらはロシア併合後に誕生した、立体的な仕立てで細身(ただし裾に行くにつれ幅が広くなる)の、膝丈の外衣です。丈が短い袖なしのカムゾルというものもありましたが。このタイプの外衣は右衽で、ボタンで留めて着用しました。


 帯は革製のものがほとんどですが、錦製のものもありました。また、金属の板で飾ったビロード製の、儀式用の帯なんてものもあったそうです。兵士や狩人は、キッシェという革帯に刀鞘や弾丸、火打石が入った袋を吊るしたそうです。

 カザフ人の成人男性は髪を剃り、縁なし帽のチュベテイカを常に、それこそ眠るときも被っていました。外出する際はチュベテイカの上にフェルトの帽子「アイエル・カルパク」を被ります。防寒用の帽子として、耳覆いと背覆い付のテイマクというものもありました。テイマクは昔は毛皮から作られていたものの、トンのように布で覆われるようになったそうです。かつてカザフ人は、テイマクの形で部族や居住地を判別していたのだとか。


 カザフスタンの男性の民族衣装はこんな感じです。なお履物は男女で共通する要素が多いということと、分量的にこれぐらいがちょうどよい気がするので、次回の女性編に回すことにしました。

 

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