コーカサス その②北コーカサス・女性編
今回は北コーカサスの女性の民族衣装についてです。
北コーカサスの女性の民族衣装は上衣+脚衣+外衣+スカート+被り物+履物+アクセサリーから成り立っています。そして男性同様の事情で、幾つか種類があるものもあります。
上衣には幾つか種類がありあました。一つ目はルバーハ。ルバーハは平面的な構成で前開型の丈が長いものが、多くの民族に共通した、元来のもののようです。ただ、1920年~1930年にかけて、都市の影響により袖ぐり(腕を通す穴のこと)が曲線的で、立体的な構成になっていったのだとか。立襟で、胸にギャザーが入ったスモッグ風のルバーハもあったそうです。祝日の際は、胸を大きく開けたドレスの下に着用するルバーハには、刺繍入りの胸当てや別の袖を付けたのだとか。
二つ目の上衣はカフタンチカといって、名前からも察せられるでしょうが、短いカフタンのことです。カフタンチカの胸には銀や銀メッキ製の留め金が数段付けられていました。また、モール(細い針金を芯にし、着色した繊維と別の針金を撚り合わせ、ビロード状の毛羽を立てたもの)で縁取られ、袖と裾には金で刺繍が施されていたといいますから、とても華やかな衣服だったのでしょう。カフタンチカは古くなると、胸当てや袖などを再利用していたそうです。
一部地域にのみ存在する上衣? には、チャイというチェルケス女性のドレスがあります。チェルケス人とは1500年~1864年に現在のロシア南部や黒海のチェルケス海岸からコーカサス山脈に沿って存在したチェルケシアという国を故地とする民族のことです。
ちなみにこれは民族衣装とは全く関係がないのですが、コーカサス山脈はギリシア神話において、大神ゼウスに背いて人間に火を与えた罰として、プロメテウスが縛り付けられ罰を受けた場所でもあります。ちなみに、牡羊座に擬せられるギリシア神話の金羊毛の毛を取りに行くべく、英雄(というにはなんとも哀れな最期を迎える)イアソンがアルゴー船で向かったコルキスとは、現在のジョージア西部にあった国です。こういう風に、コーカサスは意外なところでひょっこりギリシア神話に絡んできます。
……話を民族衣装に戻しますね。チャイは絹や
前回の男性編と併せて考えると、丈が長い衣服においては、上半身はぴったりしているけれど下半身はふんわり(裾の幅が広い)というのが、北コーカサスの民族衣装の傾向なのかもしれませんね。何はともあれ、絹や繻子、ビロードはいずれも光沢がある布地です。その上更に、金のモールや金・銀糸で刺繍を施すというのですから、大層華やかな民族衣装だったのでしょう。
チャイは胸を広く開け(前述のように下にはルバーハを着用するのですが)、ベルトを締めて着用します。上からカフタンチカを着用したりもしたそうです。
ちなみに、チェルケス人の未婚の貴族の娘にとっては革のコルセットは必需品で、寝る時すら着用していたのだそうです。そのため、チェルケス人の未婚女性はウエストが細かったのだとか。
なんだか上衣の説明に文字を費やしすぎましたね。ということで、次は脚衣についてです。といっても、女性の脚衣も男性同様にシタヌイタイプとシャルヴァルタイプがあるようですが、本ではシタヌイタイプしか触れられていませんでした。シタヌイタイプの脚衣は、素材は綿や絹で、肌着としても上着としても用いられたそうです。
北コーカサスの女性の被り物は、着用者の民族や年齢、社会的地位を表すものでした。そのため、自然と様々なバリエーションが生まれました。ですが基本はウールか絹のスカーフで頭を覆う。年配の女性は上記のスカーフの下に、頭にぴったり合う大きさの、袋状の(中にお下げをしまいます)被り物・チョフタを被る、となります。また、頂点が平面の、円形状の帽子を被り、その上に大きなスカーフを何枚も被る、という場合もありました。
もっとも、年齢によっては「被らない」民族も存在していたりします。例えば前述のチェルケス人女性は、少女時代は何も被りません。でも結婚適齢期になると金色の帽子を被りだし、以降結婚し初めての子が生まれるまではこの帽子を被り続けるそうです。
履物は、通常は赤いモロッコ革(前回参照です)やその他の革製の、踵の無いスリッパのような靴・チュビャキを履いていたのだとか。
最後はアクセサリーです。他の多くの地域同様、北コーカサスにおいてもアクセサリーは、美しさを増すためのアイテムであり、代々受け継がれる財産であると同時に、お守りでもありました。幸運や繁栄、富をもたらすと同時に、病気や怪我、災害などの不幸だけでなく、悪霊や悪魔、邪視(※)から着用者を守ると信じられていたのです。事実、女性の象徴である三角形や、男性を象徴する筒形のペンダント(後にはコーランの一部が収められるように)には、子孫繁栄の願いが込められていました。
※世界の広範囲、特に地中海沿岸で最も強く信じられる民間信仰。人や物に呪いをかけることができるという視線のこと。南ヨーロッパや中東では、青い瞳の人間は意思に関わらず呪視によって他者に不幸をもたらすことができると恐れられていた。
アクセサリーの素材は多くは銀ですが、裕福な女性は金製のアクセサリーを身に着けたそうです。アクセサリーは普通、頭や首に胸、ウエスト、腕、手などに付けられました。
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