コーカサス その①北コーカサス・男性編

 今回からは(私調べで)最もかっこいい民族衣装であるコーカサスの民族衣装について述べていきます。今回は、コーカサス山脈の北――北コーカサスの民族衣装についてです。国でいえば、ジョージアとアゼルバイジャンの一部と、ロシアの北カフカース連邦管区の共和国が該当します。もっとも、今回述べるのは男性の民族衣装のみですが。

 

 北コーカサスの男性の民族衣装は上衣+脚衣+外衣+毛皮製の外套+袖なしのマント・ブルカ+帽子や頭巾+履物から成り立っています。そして、コーカサスには様々な国があり民族が存在し、同時に生活スタイルや信仰されている宗教もさまざまです。なので、上記の服には幾つか種類があるものもあります。


 まず、上衣は筒型で平面的な構成をしています。ネックラインは前中央か片側が開いています。襟の周りは刺繍を施したり、明るい色の布を縫い付けたりして飾りました。脇には襠(衣服などの幅にゆとりを持たせるために補う布)やスリットが入ります。

 脚衣は、ロシアの民族衣装(https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054884911968/episodes/16817330668556906391)でいうシタヌイとシャルヴァルに該当するものがあるようです。もっとも、本ではシャルヴァルタイプについては名称しか触れられていませんでした。シタヌイのタイプは、木綿から作られ、紐で締めて着用します。丈は踵までです。形は、襠が入れられているので幅広だけれど裾の方に行くにつれて狭くなるものと、ぴったりしたものの二つに分かれます。

 外衣にはベシメント、チェルケスカなどの種類があります。ベシメントは前開型で膝丈の、上半身は体形に沿っているけれど、裾の幅は広いという仕立てのものです。長袖で立て襟で、ボタンがウエストまで付けられているのが特徴でしょう。

 チェルケスカはベシメントと同じ前開型の、ベシメントの上に羽織るコートです。多くは地元産の黒や灰色、ベージュ色の毛織物から仕立てられたのですが、裕福な家庭は工場製の明るい色のラシャから仕立てたそうです。ちなみに、たとえ夏でもチェルケスカを着用せずに外出するのは馬鹿がすることだと言われていたのだとか。なお、着用の際は胸元を開け、ウエストまでボタンを留めます。

 チェルケスカは前開型という以外にもベシメントと似たところがあります。まず、上半身は体に沿ったとまではいかないけれど細めで、丈も長め。加えて、ウエストに襠が入れられているので裾が広くもなっています。

 最近結構ジョージアの民族衣装が青い鳥だったSNSで流れてくる(ような気がする)ので、イメージしやすいかもしれませんが、チェルケスカは左右の胸に弾薬筒入れガズィリが付けられているのが特徴です。加えて、金属の装飾を施したベルトを締め、短剣キンジャール を吊るすのですから、とても華やかですね。


 毛皮製の外套は山岳地帯においては欠かせないアイテムであり、バリエーションも幾つかあります。一つ目は、ウエストまでは体形に沿った仕立てで、裾は広いタイプ。羊飼いは防寒・防風用に、このタイプの、丈が短く乗馬に適した外套を前できっちり留めて着用していたそうです。二つ目は、丈が長くゆったりとしていて、腕を通せない袖がついているタイプ。毛の部分を内側にして仕立てられ、表面はブロード(横に畝のある高密度な平織りの生地のこと)やサテンで覆われていたそうです。

 次は袖なしのマント・ブルカについて。ブルカは風雨や寒さから身を守るため。またテントやベッドの代わりとして、一年中着用されていたそうです。ブルカは自宅のようなもの、という意味の諺もあるのだとか。

 ブルカはこのように広く浸透した衣服でした。そのため形も釣鐘型と台形に分かれる他、様々な大きさや素材のものがありました。例えば羊飼いや旅人は簡素で小さなブルカを纏い、裕福な騎馬民は特別な職人が仕立てた黒や白のパイル生地(タオルや絨毯などの、毛羽やループを片面もしくは両面に織り出した生地)のものを纏ったそうです。

 また祭日用のブルカは前端や首の周りに沿って、モロッコ革(タンニンで鞣した革のこと。質の良さや発色の美しさで知られている)や黒のブレード(布や毛糸、ビーズなどで作られたテープ状の紐。縁飾りなどに使用される)、金の組紐などで縁取りされていたのだとか。


 被り物の中でも、特に帽子は常に着用すべきとされていたので、これまたいろんな種類があります。

 

・パパーハ:羊の毛皮製の円錐形の帽子

 →パパーハ・ウシャンケ:パパーハに耳覆いを足したもの

・シュリャーパ:夏用のフェルト製の鍔付きの帽子


 他に、祭日用の毛皮製の帽子、なんてものもあったそうです。また、両サイドに首に巻くための布がついた、先が尖ったフードのようなものもありました。これはバシリクという名称なのですが、普段は被らずに背に垂らしていたのですが、厳寒の際は毛皮の帽子の上に被っていたそうです。バシリクは羊飼いや騎馬民によって、重い荷物を運ぶ際に袋として用いられていたのだとか。

 履物で最も普及していたのは踵がない短靴ツウフリ長靴サパギでした。この二種類の靴の素材はフェルトや革で、男女を問わず履くこともあってか、種類も多かったそうです。

 他の靴には、底は革を編んで作られた、山道や岩場を歩く際に履く革草鞋ポルシニがありました。また、騎馬の際は乗馬用の脚衣の上に、膝まで達する長靴下ノゴヴィーツィを履き、膝の下で幅が広い靴下留で留めたそうです。

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