シベリア その⑪ナナイ人
今回はナナイ人についてです。なお、シベリア編は今回で終わりになります。
ナナイ人は主にアムール川(黒龍川)周辺で暮らす民族です。言語はナナイ語、ロシア語、中国語を操り、宗教はチベット仏教とシャーマニズムを信仰しています。
ナナイ人は実は、東アジア編で触れた中国で最も人口が少ない少数民族・赫哲(ホジェン)族と同じ民族になります。ロシアではナナイ、中国では赫哲が公称となっているのです。
そういう訳で、ロシアで暮らすナナイ人も、赫哲同様に動物の毛皮や織物だけでなく(裕福な家庭ではロシアや中国製の織物を使用していたそうです)、サケやマスなどの魚の皮から衣服を仕立てていました。なお魚の皮は、
頭と尻尾を切り落として腹か背中を開き、川を剥ぎ乾燥させる→魚卵を塗り、繰り返し鞣し、最後に手で揉む→形を生かしてはぎ合わせる。背びれを取った跡はパッチワークで塞ぐ。
という工程で服にしたそうです。一着を仕立てるには、サケだと約二十匹分の皮が必要になったのだとか。ちなみに魚の皮は、縫い糸としても利用されていました。捕まえたばかりの魚の皮を剥いで引き延ばし、細かく切り、切れない程度に伸ばしたものを乾燥させると糸になるそうです。ついでに、魚のうろこや浮袋を少量の水でゼリー状になるまで煮詰めると、アップリケなどを付ける際に使われる膠ができます。なのでかつてのナナイ人は膠を貯蔵しておき、必要に応じて温めて使用したそうです。
上記のようにして作られた魚の皮の糸は細くて丈夫なので、毛皮を縫う時にも使用されたのだとか。他にはイラクサの茎やトナカイの腱、牛の血管も縫い糸として用いられたそうです。なお刺繍糸としては絹や綿の糸の他にトナカイの髭も用いられていたのだとか。
ナナイ人の民族衣装の基本形は上着+上衣+前掛け+
ナナイ人の上着は裏地の有無や素材によって名称が異なります。その中でも、満州から伝わったという「テトゥエ」は襟なしで、身頃を左から右に重ね、右肩と右脇で留める前開型の衣服です。テトゥエは肌着として着用するため、冬は数枚重ねたり、綿入れや毛皮を付けた衣服を重ねます。
丈は男女や場合によって異なり、男性用は日常用の上着は歩行の妨げにならないよう、膝上までとなっておりますが、女性用はもっと長いそうです。また、女性用の上着は男性用よりも装飾を施されます。
上着の上に着用するのが上衣です。上衣もまたさまざまな素材から作られるのですが、鮭皮製の前開型で右前の上衣はエレンゲレクギと呼ばれます。前掛けは魚皮やアザラシの毛皮製で、風を防ぎ、また上衣が痛むのを防ぐために用います。
ナナイ人の被り物には様々な種類があります。例えば伝統的な被り物には、白樺の樹皮製の菅笠・オルホがあります。このオルホも、女性用には魚皮製のアップリケが付けられていました。
他には
更に頭巾の上からも小さな帽子を被ります。この帽子の頂には部族間の目印として、リスやテンの尻尾が付けられていたそうです。冬用の帽子として、毛皮製の耳覆い付きの帽子もありました。他には、祭日や婚礼の際のみに被る山猫の毛皮製の帽子なんてものもあったり。また、女性は19世紀末から20世紀初頭にかけて、女性はロシア製のスカーフを用いるようにもなったそうです。
ナナイ人の履物には、夏用は魚の皮、冬用はイノシシの皮などから作られる半長靴オタなどがありました(長靴もあります)。履物を穿く際は保温やサイズの調整のため、中にカヤツリグサを敷いたそうです。
なお衣服の着用順は、まず脚衣と脚絆、手甲を付け、その上に上着を着て帯を締め、頭巾などの被り物を被り、前掛けを付ける、という流れなのだそうです。
以下では、女性のみが着用する衣服について述べていきます。まずは、胸当てについて。
ナナイ人の胸当てはエヴェンキ人からの借用なのだそうです。この胸当ては既婚か未婚かでタイプが異なっていて、既婚の女性用ならば脚衣に胸当てがついています。一方未婚の女性用の胸当ては、丈は膝上までで細長く、上着の下になるよう首にかけて着用したそうです。またこのタイプの胸当ての下端には銅板の飾りに鈴、馬の骨や貝などが付けられていたため、着用者がどこにいるかすぐに分かったのだとか。
最後は、ナナイ人の花嫁衣裳についてです。花嫁衣裳は五枚以上の上着を重ね、更に袖が短い上着とケープを重ねます。花嫁衣裳の模様としては、竜の鱗文や「氏族の木」のアップリケや刺繍が好まれたそうです。
ナナイ人で竜は雷を呼ぶ存在であり、また雷は悪魔を追い払う力があると信じられていました。そのため竜を象徴する鱗文が魔除けになると信じられていたのです。もっとも、魔除けの意味は次第に忘れられていったそうですが。
「氏族の木」については、氏族の繁栄を願うという意味が込められています。でもなぜ木が繁栄の象徴になるかというと、鳥の枝にとまった鳥はこれから生まれる赤子の魂を象徴しているとされていたためなのです。この鱗文と氏族の木の模様の花嫁衣裳は、結婚式後も大切に保存されるものの、一生に一度しか着用されません。けれど、他の模様の花嫁衣裳なら、祭日の際などにたびたび着用されたそうです。
ちなみに竜が雷を呼び、雷が魔を払い、これから生まれる子供の魂が鳥の姿をしているという信仰は、前に触れたシベリアの金枝篇と名高い「シャーマニズム」でも触れられていました。なので、ナナイ人だけでなくその周辺の民族とも広く共通する、服飾の要素なのかもしれません。
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