シベリア その⑧エヴェンキ人

 今回はエヴェンキ人の民族衣装についてです。

 エヴェンキ人はロシアでは旧エヴェンキ自治管区(現クラスノヤルスク地方エヴェンキ地区)やサハ共和国などで暮らしています。また、中国の内モンゴル自治区エヴェンキ族自治旗や黒竜江省などでも暮らしています。そのためエヴェンキ人はエヴェンキ語の他、居住地に応じてロシア語にサハ語、普通語プートンホワ、モンゴル語、ブリヤート語を操るそうです。宗教はシャーマニズムとチベット仏教の他、帝政ロシア時代の布教の結果正教を信仰する者もいるのだとか。


 上記のようにエヴェンキ人は結構広範囲に散らばって暮らしている民族です。そのためなのか上着はバリエーションが豊富ですが、下記の胸当てを除いては性別による違いはほぼないようです。

 例えば西方のエヴェンキ人の上着はフロックコートのような燕尾服のような形の、細い袖が付いた前開型なのですが、なんと一枚の皮から仕立てます。

 どのように一枚の皮を裁断し、上着に仕立てるのかといいますと……。まず、完成品を着用した際に皮の中央部は後ろに、腹部が前にくるように裁断します。すると、後ろの裾の中央は尖り、前の裾は短いという、燕尾服状に仕上がるのです。

 皮の上の部分には、袖を付けるための切れ目を入れます。袖の下には襠(衣服の幅にゆとりを持たせるために補う布などのこと)を入れ、冬であれば手袋を袖に縫い付けます。

 上述の上着を着用する際に欠かせないのが胸当てです。現在は織物やスエードから作られる胸当ては胸腹部を寒さから守り、雨水の侵入を防止するという役割を果たします。裾や前端の腰から下の部分、肩から袖ぐりに沿った後ろ身頃には山羊の毛の房飾りが縫い付けられてもいます。

 ちなみにこの胸当てがエヴェンキ人の民族衣装において男女の違いが最も現れているところです。まず呼称も異なり、男性用の胸当ては「ヘルミ」、女性用の胸当ては「ネリ」と称されます。また、男性用の胸当ての下の端は尖っていますが、女性用の胸当ては平らです。

 他のエヴェンキ人の衣服としては、トナカイの毛皮もしくは毛織物から作られた、裾が広がったパーカーのような、帽子付きの防寒具パルカがあります。というか実は、パーカーの語源はイヌイットのフード付きの防寒具なのだそうですが。あともちろん、ズボンも穿いてベルトを締めます。ベルトもエヴェンキ人の民族衣装には欠かせないもので、男性はナイフを、女性は裁縫道具をベルトに付けたそうです。


 パルカは襟にバリエーションがあり、丸襟だったり折れ襟だったり、はたまた襟がなかったりします。毛皮製のパルカには装飾はほどこされませんが、毛織物製のものには布の縞や銅製のボタンが飾られるそうです。なお、パルカは前回述べたエヴェン人のテトィと似た衣服らしいので、着用法については前回参照とさせてください。

 ちなみに、パルカについているフードの他にも被り物はもちろんあります。それが、トナカイの頭の部分の毛皮から作られた厚手の帽子です。中には仔トナカイの耳をそのまま残しているものもあるそうなのですが、なんだか可愛いですね。

 履物は、夏はトナカイやヘラジカのスエードのブーツを、夏以外の季節では毛皮のブーツ・アンティを履いたそうです。足にフィットしたスエードのブーツは乾きがよく、おまけに軽くて履き心地が良いのだとか。

 

 

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